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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年2月号

新しい総合リハビリテーションに向けて
~特別支援教育との関連において~

松矢勝宏

総合リハビリテーションについては、医学、社会、職業、教育、さらには福祉工学等のリハビリテーションの分野を設定し論じられてきたが、それらの相互関係については、各分野の関係者(専門職)が業務を達成するために必要としてきた「連携」について述べられてきたにすぎない。これからは専門職の立場からでなく、サービスを利用する当事者主体の観点から検討される必要があると思う。

障害のある当事者(児童であれば保護者を含む)が必要とするサービスが、リハビリテーションの各分野から総合的によりよく提供されていることが重要である。そのような観点は、教育の分野では特殊教育から現在の特別支援教育への制度的な転換(個別の教育支援計画の作成と実施)、福祉の分野においては行政による措置から本人主体の契約システムへの制度的な転換(支援費制度にはじまるケアマネジメントとケアプラン、あるいは個別支援計画の作成と実施)等の動向において実践されてきている。これらの動向について、教育分野の歩みを概観してみよう。

1 私たちが教育の領域で変えようとしてきたこと

まず私たちは、子どもたちは障害の有無にかかわらず誕生のときから社会的な存在であり、誕生から始まる人生のそれぞれの時期(ライフステージ)において、その時期にふさわしい(発達課題や障害の様態に応じた)活動があり、そのような体験をいろいろと試みたり達成したりすることが、その後の人生を充実するために必要である、という考え方を実践の場で大切にしてきた。

そのような思いから、私たちは国際障害者年以後から障害のある子どもたちの完全参加を実現するテーマを追究するなかで、「学校卒業後に子どもたちの社会参加がある」とか「社会的自立は学校卒業後のテーマである」という考え方に再検討を加えたのである。

学校において必要とされる支援はもちろんであるが、家族にとって必要な支援、地域生活において必要な支援を保護者と一緒に考えていく。学校卒業後に社会参加の課題に直面するという事態が不自然なのであって、子どもたちがそれぞれのライフステージにおいて必要な課題を達成し、学校卒業後の生活に安心して移行できることが必要ではないかと考え、教育実践を進めている。

2 学校週5日制と地域資源づくり

このような観点は、具体的な実践課題を通して現場の教員たちに自覚されたのである。たとえば、学校週5日制の実施過程を例にあげよう(注1)。もともと日教組の提案があって文部科学省が施策化したのであるが、その経過は試行として1992年度から第2土曜日に、1995年度から第4土曜日が追加され、2002年度に完全実施されたのである。

この過程で、学齢期にある障害児の保護者から学校週5日制反対の声が上がった。夏休み等の長期休暇でさえ介護に大変なのに、保護者にとって週に1日の負担が増えることは理解できないという訴えである。事態を解決するために、学校(教員)が保護者と共に土曜日のみならず長期休暇を含めて地域活動の場をつくる活動、また地域活動の支援者を養成するボランティア養成講座の開催などの活動を展開していったのである。

このような学校や教員の自覚から、2003年度の支援費制度のスタートに際して、居宅支援のサービス(ショートステイ、デイサービス、ガイドヘルパー等)を保護者がよりよく活用できるように、情報提供等の支援を積極的に行うことが学校教育の使命の一つであることが理解されるようになった。

3 養護学校等における個別移行支援計画の実践研究へ

国連・障害者の十年、アジア太平洋障害者の十年へと、障害者の完全参加の施策が当事者の要求に対応しながら展開されはじめ、私たち学校関係者としても、児童生徒一人ひとりの主体性を大切にする教育実践を心掛けるようになった。

養護学校高等部教育の在り方について、『青年期は青年らしく』という内容の特集が障害児教育の専門雑誌で企画されるようになった。またバブル崩壊後の経済不況の中で企業就職率が激減し、多くの生徒が作業所等の福祉進路を選択せざるをえなくなると、障害のより重度な卒業生の進路資源が不足するという事態が生じた。生徒が主体的に進路学習を進めるように支援し、他方では企業、支援機関、福祉施設等の密接な連携により進路資源を開拓することが必要になった。また企業就職者の職場定着やグループホーム等を利用する卒業生の生活支援も課題とされた。

このような中で卒業後の生活を見通した個別移行支援計画の必要性が提起され、東京都において実践研究が始まった。1999年に発足した東京都立養護学校職業教育推進委員会は、このように現場から発信された進路支援研究のエネルギーを都教育庁指導部が受け止めたもので、文部科学省から「盲・ろう・養護学校就業促進調査研究」が委嘱され、個別移行支援計画の作成と実施に関する研究が組織的に開始された。推進委員会はその後に、東京都知的障害養護学校就業促進研究協議会に名称変更している。

この研究成果は全国的にも注目され、全国特殊学校長会は就学前の保育や教育を含む個別の教育支援計画の作成と実施の研究課題として取り上げた。また、文部科学省における特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議は、このテーマを重要な方針として取り上げ、2002年12月の閣議決定で策定された障害者基本計画では「個別の支援計画」および「個別の教育支援計画」(重点施策)として位置づけられた(注2)。また2003年の協力者会議最終報告「今後の特別支援教育の在り方」、また2005年の中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方」においても基本方針の一つとされた。

図1 個別の支援計画(全体)
図1 個別の支援計画(全体)拡大図・テキスト

図2 個別の教育支援計画と他の支援(計画)との関連
図2 個別の教育支援計画と他の支援(計画)との関連拡大図・テキスト

4 個別の教育支援計画の実際

このような歩みの中で、現在、特別支援教育の教員は、たとえば肢体不自由特別支援学校であれば、保護者と子どもが地域の医療・療育や介護サービスをどの程度必要とし、どのように活用しているかを保護者から聴取し、家族支援の一環として地域の専門職ワーカーと連携している。

たとえば在宅サービスの介護ヘルパーにも学校参観をお願いし、日中の子どもの状態を理解してもらう。子どもにとって家庭や地域における安心できる日々の生活の充実が、学校生活を楽しむ重要な基盤となるからだ。また、卒業後に肢体不自由者が利用できるデイサービスが自宅の近くになく、障害者自立支援法の実施により三障害対応の事業に移行しようとしている知的障害デイサービスが利用できるならば、圏域にある療育機関のワーカーと相談して摂食支援等を含む必要な環境調整を進路先と行う。子どもの自宅が3階の賃貸住宅であれば、送迎時の負担を考え、卒業前に1階の住宅への転居について保護者に提案・相談する。また転居支援を市の生活課や福祉課のワーカーの協力を得ながら、転居先探しや、転居(引越)に伴う子どもの緊急入所等にまつわる不安を解消し、家族の転居を実現する。

このように、個別の教育支援計画(高等部段階では個別移行支援計画の特徴を持つ)は、保護者と地域と学校とを結びつけ、日々の教育をよりよく実践するための重要なツールになっている。

図3 「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」との関係
図3 「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」との関係拡大図・テキスト

(まつやかつひろ 目白大学教授)


注1)学校週5日制の実践研究としては、全国知的障害養護学校長会編「広がれ地域活動~子どもたちの社会参加」(ジアース教育新社、2003年)がある。また本人主体の進路支援については、全日本特殊教育研究連盟(現全日本特別支援教育研究連盟)機関誌を参照してほしい(『青年期は青年らしく』は1996年3月号特集)。個別移行支援計画や個別の教育支援計画の実践研究としては、東京都知的障害養護学校就業促進研究協議会編「個別移行支援計画Q&A」(東京都教育庁指導部2003年)、全国特殊学校長会編集「障害児・者の社会参加をすすめる個別移行支援計画」ビジュアル版2002年、その発展としての全国特殊学校長会編「盲・聾・養護学校における『個別の教育支援計画』」2005年(各ジアース教育新社)がある。肢体不自由特別支援学校においても個別の教育支援計画への取り組みは進んでおり、日本肢体不自由教育研究会機関誌「肢体不自由教育」第162号(2003年)『個別移行支援計画の在り方と実際』、全国肢体不自由養護学校長会編著「特別支援教育に向けた新たな肢体不自由教育実践講座」(ジアース教育新社2005年)などがある。

注2)本文の図1と図2は前掲の全国特殊学校長会編2005年から、図3は東京都立あきる野学園のスライド資料からの引用である。