音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年4月号

サポートされて生きる

谷山貴志

退院まで

私は今から1年前、統合失調症という病気で、埼玉県にある精神科病院に入院していました。入院中は、退院できるのかどうか不安でしたが、さいたま市退院支援事業に申し込み、月に1回のケア会議を行い、多くのスタッフが私をサポートしてくれるようになりました。そのうちに、やどかりの里援護寮で約2か月に一度、宿泊体験をするようになりました。そして2009年2月12日、47歳で退院し、やどかりの里に入寮しました。

援護寮で変わったこと

援護寮に入寮して1か月くらいで、関西の地元に逃げました。逃げてどうするという考えは一切なかったです。やどかりへ帰ろうか、それとも地元で働こうかという考えでした。逃げた夜、地元で飲んでいたところを警察に補導されました。翌日の昼過ぎになって、やどかりの里の施設長の白石さんの顔を見て、びっくりしました。白石さんが泣きそうな顔で入ってきた時、私は怒られるかなと思ったのですが、怒るどころか、逆に私の身を案じてくれました。「こんなはずじゃなかった。こんな良い人を裏切らなくてよかった」と、心の中で正直思ったのです。

その日以降、逃げずに落ち着くようになりました。私自身、考え方が変わったのです。私は、精神科病院に入院するまで、社会で人のものを盗むことを生業としてきた人間でした。それが恥ずかしいとか考えもしませんでした。しかし、やどかりの里に来てから、金品が目の前にあっても、一度も盗まなかったのです。これほど、私自身が変わったことはありません。

なぜなのか。それは、こんな私でも信じてくれているという「信頼」がやどかりの里の多くのスタッフにはあります。信じられなかったし、自分でも正直びっくりしました。私は人から信頼されることは今まで一度もありませんでしたが、今は、アパートに引っ越すことができるまでになりました。

信頼できる関係を築いて暮らす

アパートに一人で住むのは初めてですが、私は今、その信頼に応えようと必死です。自分一人で勝ち取る信頼は難しいですが、一人で生きているわけではありません。多くのスタッフのサポートにより生きているのです。このサポートされて生きるということがなかったらたぶん、今の私はなかったことでしょう。最後に、多くの病院に入っている人たちがこれから生きるために必要なことは、「自分一人ではない。多くの人たちがサポートしてくれる」という信頼がそこにあるということを忘れないでほしいです。

(たにやまたかし やどかりの里)