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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年4月号

わがまちの障害福祉計画 鳥取県米子市

米子市長 野坂康夫氏に聞く
地域の力を活かした支え合いのまちづくり

聞き手:坊岡正之(広島国際大学教授)


鳥取県米子市基礎データ

◆面積:132.21平方キロメートル
◆人口:150,368人(平成22年3月1日現在)
◆障害者の状況:(平成22年3月1日現在)
身体障害者手帳所持者 5,627人
療育手帳所持者 930人
精神保健福祉手帳所持者 1,075人
◆米子市の概況:
米子市は、鳥取県の西側、山陰のほぼ中央に位置する。古くから商業都市として発展してきた。3鉄道、米子自動車道や山陰自動車道、境港、米子空港などがあり地理的にも交通の要衝となっている。人の出入りが多い場所柄、何でも受け入れるという気質がある。また、皆生温泉はトライアスロン発祥の地としても有名で、毎年全国から参加者が集まる。
◆問い合わせ先:
米子市福祉保健部障がい者支援課
〒683―8686 鳥取県米子市加茂町1―1
TEL 0859―23―5153(直)
FAX 0859―23―5393

▼市長は米子市のお生まれですが、米子市民はどのような特徴がありどのような特色を持っていますか。

米子市民は、非常にオープンです。もともと米子は商人の町で商都です。結構新しい物好きで、保守的というより外部の人とも気軽に「分け隔てなく」つきあって、そしてまた新しい物をどんどん取り入れていくのが特徴です。

▼米子と言えば大山ですが、大山を含めた米子市の環境はいかがですか。

米子の位置からいって、東に大山があり、北は日本海、西には中海(汽水湖)があります。ですから、山有り、海有り、湖有り、日野川有りで、そういう意味では、非常に自然環境に恵まれています。大山は標高1709m(昔は1713mだった)で中国地方で一番高い山で、スキーもできるし、四季折々で楽しめる山です。日本海があって水泳もできます。それから皆生温泉が日本海に面してあります。また中海はラムサール条約登録湿地で、水鳥が飛来するところです。コハクチョウが今でもたくさん飛来します。冬は今でも1千羽以上来ています。

また、医療がすごく恵まれているところです。全国的に産婦人科が不足しているなかで、米子市は産婦人科が多い。それだけ医療体制はしっかりしていて、非常に住みやすいところです。

▼米子市で毎年開催している「福祉フォーラム」は、10年目になるとお聞きしました。どのような内容なのでしょうか。

本市では、民間の方がさまざまな取り組みをされています。福祉フォーラムも発端は民間の方がはじめられて、現在では全国規模で参加者が集まるイベントになりました。今年も1月9日・10日の両日に開催して、全国から500人以上の方々が来られました。参加者は、福祉に関係される知事さんとか、年によって違いますが、地方自治体の方もそうですし、いろいろな障害関係の団体の方もたくさん来られますね。元々、このフォーラムをはじめた方は、知的障害者施設の事務局長で、すごく行動力がある方です。

▼ほかにも障害のある方を対象にしたイベントがあるそうですね。

米子市の皆生は、日本トライアスロンの発祥の地で、1回目の大会は50数人で始めたそうですが、現在では800人くらいの方々が参加するまでになりました。そういう関係もあり、「全日本Challengedアクアスロン皆生大会」という、障がいのある方のスイムとランの複合競技を行っています。今年は4回目になりますが、昨年10月に行った3回目の大会には96人の参加者がありました。

また、「1000人ウォーク」を福祉の集いの中の位置づけで行っています。米子市には、彫刻を米子市文化ホールから湊山公園までの新加茂川沿いの遊歩道約5キロにわたり設置した彫刻ロードがあります。2年に1回開催される米子彫刻シンポジウムで製作された彫刻が、20年かけて40体ほどあります。その道を歩いて湊山公園に行き、そこで福祉の集いというお祭りを行います。身体、知的、精神に障がいのある方や障がいのない方がみんな一緒になって、1000人が手を取り合って、みんなで楽しく歩こうという試みです。これも、民間の方が主導してはじめた試みです。1000人まではいきませんが、それでも、現在400人ほどの方々が参加しています。

このように民間の方々が、官に頼らないで自分たちでボランティア活動や情報発信の場を作ったり、またいろいろ議論をする場を作ろうと活動することはすばらしいことだと思っています。最初は、地域の人だけだったのですが、現在は全国募集でやっています。本市以外の地域から参加される障がいのある方には、介助が必要な方もいらっしゃいます。ですが、ボランティアの方が、本当にたくさん参加してくださるので、障がいのある方も安心して参加することができています。

▼昨年の全日本アクアスロン皆生大会では、450人のボランティアが来られたと聞いて驚きました。これも県民性・市民性ですか。

日本トライアスロン大会は、3000人の方々がボランティアとしてかかわっています。競技参加者は800人くらいです。各ステーションで、7時から21時まで競技があります。競技は、スイム3キロ、バイク145キロ、マラソン42.195キロです。皆生の海を泳いて、自転車に乗って大山の麓を走り、それから境港まで走って行って帰って来ます。どうしても途中で給水したり、果物を食べたり、水かけをしたりすることが必要で、地元の方がそれぞれのエイドステーションで活動をします。アクアスロン大会でも、エイドステーションでの活動のほか、応援にかかわってくださる方もいます。

このような民間のスポーツイベントには、市民の方々が毎年かかわってくださっているので感謝しています。

▼障害者自立支援協議会の活動はいかがですか。

地域が一体となって障がいのある方たちを支えるという考え方で「障がいのある方が普通に暮らせる地域づくり」を目指し、鳥取県西部の9市町村で障害者自立支援協議会を設けています。障害者生活支援センターが母体になっています。それぞれの支援センターが情報を共有し、協働してネットワークを作ろうという考えです。利用は、米子市だけでなく鳥取県西部が対象です。障害者生活支援センターも鳥取県西部で5か所あります。

鳥取県西部障害者自立支援協議会では、地域課題の洗い出しや課題解決の糸口を見つけるために、10の部会を開催しています。常設部会は、身体障害、知的障害、精神障害、その他の障害、市町村で、サービス別に在宅サービス、通所施設、入所施設があり、課題別に、強度行動障害、住宅問題を設置しています。

自立支援協議会に参加しているそれぞれの団体で考え方が違いますし、みんなそれぞれの理念でやっておられまが、協調性は良いようです。

▼先ほど市役所の庁舎内にある「福祉の店おおぞら」に行ってみました。ちょうどお昼休みの時間で職員の人たちでにぎわっていました。このお店は施設側からの申し入れで設置されたのですか。また、職員の方の感想や店員の方との交流はいかがですか。

鳥取県西部地域の18作業所が参加しています。今までは作業所独自のさまざまな製品を作っていましたが、売上げは伸び悩んでいました。当初は、施設から設置の希望がありました。市役所は住民の方々が多く訪れるということで、昨年(2009年)8月に「米子市福祉の店」市役所内常設店がオープンしました。おかげさまで非常に好評で、結構売上も上げているようです。販売は知的に障がいのある方を中心にやってもらっています。市民の方々は、待ち時間に利用されているようですね。職員からは、気軽に買い物ができると好評です。店員は、当番制で曜日ごとに変わるので、いろいろな障がいのある方と交流ができます。また、特に障がいのある方にとっても社会参加というか自分たちがそういう形で外に出て行くことが、やりがいになっていると思います。市役所の入り口は、とても良い場所だと思います。

▼障害者スポーツへの取り組みはいかがですか。

米子サンアビリティーズで、障がい者スポーツや文化活動を行っています。一般市民の方も活用されていますが、障がいのある方の利用が多いです。体育館では、車いすアーチェリー、車椅子バスケットボール、ろうあバレーボールが行われています。また、精神に障がいのある方には、「こころの広場」としての活動の中で、フライングディスク、米子城跡へウォーキング、ボウリング等を毎月1回、開催しています。

▼地域で暮らしていくためは、いかにして働くかが重要と思いますが。

米子市役所は、現在雇用率を達成しています。この先の雇用予定は、職種によると思います。市役所全体では人員削減が必要な状態ですが、障がいのある方に適する分野を探しています。

▼米子市の今後の取り組みをお聞かせください。

障がいのある方が暮らしやすく、社会参加できる環境が整っていると感じる市民の割合を市民アンケートで調査しました。平成20年度は実績値17.8%でした。新米子市総合計画における平成22年度数値目標を25%としています。

具体的な取り組みは、障がいのある方だけでなく、高齢者、子どもを含めた地域福祉の課題です。助け合う地域づくりを、米子市社会福祉協議会と協力して進めています。将来は、地域で助け合って普通に生活していくために、地域で考えていただき、気運を盛り上げるために、社会福祉協議会とともに地区版の地域福祉活動計画の作成と市民による「支え合いマップ」の作成を進めます。基本は、「分け隔てなく」です。


(インタビューを終えて)

野坂市長は、大学生・外務省勤務の時代に世界を回られました。カナダ・バンクーバーでは、カナダ国民の「分け隔てなく」という意識が強いことを感じられたそうです。これは、米子市民の特徴につながるそうです。市役所内にある「米子市福祉の店」に、お孫さんのお土産等を買いに行かれる市長は、「分け隔てなく」と言う考え方を実践されているように感じました。