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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年6月号

自立支援機器の開発に関する国の支援事業

小野栄一

はじめに

「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」(福祉用具法、平成5年公布)により、テクノエイド協会1)と新エネルギー・産業技術総合開発機構2)が、ここ15年以上、福祉用具の実用化に関する研究開発事業を推進してきた。なお、テクノエイド協会で実施してきた事業は、平成22年度より福祉医療機構に引き継がれる予定である。

図1 厚生労働省のシンボルマークと組織(一部)
図1 厚生労働省のシンボルマークと組織(一部)拡大図・テキスト

それらの詳細は、各機関のホームページ1)2)上でご覧になっていただくこととして、ここでは、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室がここ数年係わった自立支援機器の開発に関する支援事業など(以下の1から4)について紹介する。

支援機器開発を行うこととなった発端は、平成19年度に社会・援護局長が参加し、1「生活支援技術革新ビジョン勉強会」を9回開催したことにある。その流れで、平成20年10月より福祉工学専門官が新設された。

平成21年度の補正予算で、障害者の自立支援を促進するため、2「ユーザー側とモノ作り側を結ぶ仕組み作りの第一歩」と3「自立支援機器などの試作と利用者(になるであろう方々)によるモニター評価」を行った。

平成22年度より、4「利用者のモニター評価を義務づけた実用的製品化を促進する事業」を開始した。 次に、1から4の事業について順に紹介する。

1 生活支援技術革新ビジョン勉強会

社会・援護局長参加のもと、支援機器に係わるさまざまな障害分野や立場の方々を講師に招き、勉強会を重ね、多くのやるべき課題が明確になった。その報告書が厚生労働省のホームページ3)に掲載されている。報告書の最後に【夢】の実現に向けた7箇条には以下のように示されている。

第1〈理想は高く〉
将来の夢は大きく描き、社会全体として共有することが重要
第2〈井戸端会議が未来を開く〉
さまざまな立場、分野の人との情報交流、議論の場が有用
第3〈利用者サイドから考える〉
第4〈ユニバーサルな視点に立つ〉
第5〈【適合】が鍵を握る〉
身体状況や生活環境などに機器を合わせることが大事
第6〈人材を育てる〉
第7〈国際的な視野に立つ〉

2 福祉用具のニーズ情報収集・発信システム

複数の障害者より「支援機器関連の展示会やシンポジウムなどに参加できない方々の声も、研究や開発している方々に伝えてほしい」と言われ、障害者と一緒に考えた案が本システムのたたき台となっており、夢の実現7箇条の第二にも通じる。

自立を支援する機器開発において、利用者になる障害者の声が、必ずしも研究者や開発者に届いているとは限らず、一方、研究開発側はどこに問い合わせたら利用者側の視点による適切な評価が得られるか不明のことが多い。

多くの調査研究報告書があるが、モノを設計するには情報不足の内容が多く、より詳細に聞きたくてもだれに聞いたら分かるか不明のことが多い。支援機器の必要性は分かるが、結局、不明な点を想像して設計することとなる。また利用者側としても、研究や開発に関わる人に困り事や希望を伝えたくても伝えるすべを知らないことが多い。

このことは、研究開発において、必要な情報や開発時間と開発費用に大きな影響を及ぼす。時間と費用の短期化縮小化のため、喜ばれる支援機器のコストダウンにつなげるため、「利用者側とモノ作り側」の間で、情報交流を支援するシステムを試作運用中(テクノエイド協会に委託)である。

本システムは、利用者の声を反映し、改良しつつ作成していく予定であり、メールを介して困り事などを情報発信していただいたたり、支援機器の開発補助などの施策の情報発信から始めたところである。

ご意見・ご要望はホームページ上で閲覧でき、全文検索ができるほか、キーワード登録をすると、キーワードに関するメール投稿があった場合にそのお知らせをメール受信できるようになる。またデータをグラフ化して見ることも可能としている。さらに投稿者が了解すれば、モノ作り側の人と直接に情報交流できるようになっている。携帯電話からは投稿はできるが、携帯用の閲覧画面はまだ未作成である(5月15日現在)。

図2 福祉用具のニーズ情報収集・提供システムのイメージ(たたき台の一部)
図2 福祉用具のニーズ情報収集・提供システムのイメージ(たたき台の一部)拡大図・テキスト

3 平成21年度障害者自立支援機器等研究開発プロジェクト

本事業では、障害者の自立支援に向けた新たな可能性を示す機器や、望まれているが世の中に実現していない実用性の高い機器を試作し、利用者となるであろう障害を有する方々によるモニター評価を行い、実用機の開発につながる成果を出してもらうことを目標とした。そのため、本分野では世界初や本邦初の試作がされた。成果の一部を多くの利用者側の方々にご覧になっていただき、今後の実用化に向けて多くのアドバイスをいただくべく、平成22年3月8日(月)厚生労働省において、展示とデモンストレーションを一般公開にて行った4)。以下にそれら成果の一端を示す。

1.障害者が自立して住みやすい住環境モデルの構築5)

・肢体不自由者向け:アクティブキャスターをテーブルとイスに付け、音声や手の動きで、それらを自在に移動可能とした。ドアに付けると自動ドアになる。車いす利用者が、家具などを自由に動かし、家の中での移動を楽にする。赤外線リモコンで操作できる家電製品であれば同様に操作できる。またそれらを国際規約となっているRTミドルウエアを使い、容易にネットワークを介して操作することも可能とした。

・脳機能障害者向け:調理支援システム及び電波で人間の位置を計測するセンサーモジュール。

・視覚障害者向け:3次元位置を計測できる電波タグ、及び鍵等に取り付けるブザー付きタグ。

2.視覚障害者の日常生活支援機器

・音声コードや文字情報を音声化できる携帯電話または携帯端末。

・携帯電話のバッテリーでも動作可能な軽量で世界で一番薄い点字デバイス。【安積先生、中野先生が後述、世界初】

・屋内外視覚障害者歩行支援システム。カメラ、PDR(歩行者デッドレコニング、相対位置や方位計測に利用)、LRF(レーザーレンジファインダ、障害物検知などに利用)付き音声点字携帯端末。

3.聴覚障害者の日常生活支援機器

・裁判員制度で使用される用語を含んだ手話単語辞書及び手話アニメーションを作成するツール。

4.安全に配慮された電動車いす

・周りの環境を認識し、人混みでぶつからずに移動や人の後を追うことなどを可能とする電動車いす。

・斜面を横切る際に下に落ちていかず(片流れせず)、かつ段差乗り換えの際に転倒防止バーが働き振動を押さえて乗り越えることができ、夜でも前方の穴などを検知して止まるか避けることが可能な電動車いす。

5.重度運動機能障害者の意志伝達を支援するBMI技術の開発

・既製品の「心語り」と比較し、半分以下の計測時間で、容易に使える精度の高い試作機。

・在宅や病院で臨床評価試験などを行うために小型化した試作脳波計。

・発話や書字が困難な方のコミュニケーションを支援。携帯電話の半分くらいの無線脳波計【本分野で世界最小レベル】と自分の分身のCGキャラクター(アバター)が発する人工音声によって意思伝達を容易にするアプリケーションソフトウエア。【長谷川先生が後述、世界初】

6.障害者スポーツ用機器の開発

・躍動・自己表現を引き立てる「美しいスポーツ用義足」を目指し、かつ性能の高い、疾走用及びサイドステップ・スイング用の試作機。

※バンクーバーパラリンピックにて、クロスカントリースキーの日本選手で唯一の大腿切断者の義足(膝の部品)に成果の一部を活用。

4 平成22年度障害者自立支援機器等開発促進事業

障害者のモニター評価を義務づけ、厚生労働省が、障害者や医療福祉専門職などで適切なアドバイスできる人と開発企業の連携を可能な範囲で応援し、改良開発を行い、適切な価格で使い勝手が良い障害者の自立支援機器の実用的製品化を促進する事業である。開発目標の課題は障害当事者団体などの意見を参考にしている。そのため、どのようなものが必要か、課題名のみから想像できない部分は、直接的間接的に課題を提案した当事者に聞くことが可能である。採択された課題は適切なモニター評価を行うことで、100%は満足できなくとも、購入しても良いと思うレベルまで開発改良を進めることができれば、事業終了時には、すでに購入したいと思う者がいるはずである。逆にいうと、購入したいと思うレベルのものが製品化され、継続的に販売されるようになるよう応援をする事業である。

(おのえいいち 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室 福祉工学専門官)


【参考URL】

1)テクノエイド協会
http://www.techno-aids.or.jp/

2)新エネルギー・産業技術総合開発機構
http://www.nedo.go.jp/

3)生活支援技術改革ビジョン勉強会報告
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/yogu/index.html

4)出展概要
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/other/dl/jiritsu06c.pdf

5)障害者が自立して住みやすい住環境モデルの構築
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100526/pr20100526.html