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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年6月号

列島縦断ネットワーキング【東京】

身障・知的一つ屋根のグループホーム「えはらハイツ」

加藤留美子

1 開設経緯―理解ある家主さんとの出会いと区のバックアップ

社会福祉法人東京コロニーは、障害のある方が働き・暮らすことを支援する事業を行っており、グループホーム事業は1997年から始めました。

2007年暮れに、これまで中野区の高齢者住宅として使っていたアパートを、制度廃止に伴い改修してグループホームに使うことができないか、家主さんが今後も福祉に使ってほしいという意向を持っている、ということで紹介を受けました。家主さんとお会いしたところ、障害のある人の地域生活に大変理解のある方であり、また中野区としても積極的にグループホーム開設をバックアップする姿勢であることも分かりました。

2 身障・知的GHに短期入所を併設

当法人の一番古くからある中野区江原町のコロニー中野(就労支援事業)は、2002年に入所授産を通所化しています。それまで入所していた身体に障害のある方たちは地域のアパートで生活しており、その方たちへの支援体制を整えていくという課題がありました。当時は自立支援法のグループホーム(GH)・ケアホーム(CH)は身障の方を対象としておらず、身障GHは都の独自制度の東京都重度身体障害者GHとしての運営となるため、市区としての負担が重く、市区の意向がなければ実現しません。この時は中野区からも身障GHに理解を得ることができ、開設に向けてスタートを切ることになりました。

12人分の高齢者アパートだった建物を、1階を身障の方のGH(定員5人)、2階は知的の方のGH(定員4人)、また、2階の一角に短期入所事業(定員2人)を併設することになりました。

GHに短期入所施設を併設することについては、区内のニーズに応えるという意義と、職員配置が効率的というメリットがあると思いました。しかし日常生活を考えた時、2階に入居されている4人の皆さんにとって、いろいろな利用者さんが隣の部屋に入り、一緒に食事をするのは、とても落ち着かないことではないかと思えてきました。そこで、GHに短期入所施設を併設して運営をされている事業者さんに相談し、運営上のメリットを認めながらもGHの生活空間と短期入所の空間をできるだけ分離できるようにした方がよいとのアドバイスをいただきました。限られたスペースであり、分離といっても限界がありますが、間に扉をつけて空間を仕切る、短期入所者専用の風呂とトイレ、手洗い場を設置する、加えて、短期入所の部屋に直接入ることのできる玄関を作るなどの工夫をすることにしました。

3 大規模改修、防火対策

開設に向けては、30年前の建物を現在の耐火・耐震基準の建物に改修しなければならず、図面段階で区の建築担当課に何回も通いました。寄宿舎としての基準に合わせた改修が求められましたが、延べ床面積が275m未満であり、区分4以上の入居者が8割をかなり下回るためスプリンクラーは設置しませんでした。その代わり、自動火災報知機を設置し、共有部分、入居者各部屋と押入れに熱や煙の探知機を付け、火災発生時には東京消防庁に自動通報され、消防車6台が即、えはらハイツに向かうというシステムとなりました。

4 ご近所との関係

東京都の整備補助金の申請にあたっては、事前に近所の方たちに説明をするということになっています。従って、かなり早い段階で、ご近所に挨拶することになりました。心強かったのは、区の障害福祉分野の方と家主さんが一緒に回ってくださったことです。そのおかげもあって、近所の皆さんからご理解いただき、「心配することないですよ、頑張ってください」という励ましの言葉をいただきました。

また、改修中のえはらハイツの向かい側に住んでいらっしゃる奥様から、「事業が始まったら、ここで仕事をさせてもらえませんか?」といううれしい申し出をいただきました。開所前の内覧会にはご近所の皆さんが大勢来てくださり、現在では、3人の方に食事作りや日中の支援などの仕事をしていただいています。年末年始には、大みそかに手打ちそばをごちそうしてくださり、元旦のおせち料理も手伝ってくださったりと、とても感謝しています。

5 身体障害のある方のGH運営

1階は身体障害の方のGHですので、入浴の介助、食事の支援のほかにも、着替えや日中活動に行く時の準備など、知的障害の方に比べると必要なマンパワーがかなり多くなります。また、体調の都合で日中活動に行かれないという方もたいてい1~2人はいらっしゃり、昼間も職員を配置することになりました。土日や年末年始もえはらハイツで過ごされますので、文字通り24時間、365日の職員配置が必要です。

6 短期入所事業の運営

短期入所事業はGHの開設から2か月ほど遅れて受け入れを開始し、介護するご家族の急病や外出などの緊急時の受け入れもしています。2階にあるため車いす使用の方は利用できないこと、GHの一角にあることから利用しにくいと感じる利用者やご家族もあるかもしれませんが、将来のGH利用の練習を兼ねての利用もあり、少しずつ利用者数も増えています。

昨年の秋からは、短期入所の空床利用として中野区日中一時支援事業も開始し、小学生や中学生のお子さんの利用も増えつつあります。

7 1周年祝いの会と新法移行への課題

えはらハイツは、今年2月で無事に1周年を迎えることができ、3月5日に1、2階の入居者とご家族、スタッフなど関係者総勢30人でお祝いの会を開きました。さまざまな出来事があったこの1年を振り返り、皆で美味しい料理をいただきながら語りあうことができ、とてもよい時間が過ごせたと思います。

また、昨年10月の法改正で身体障害のある方も自立支援法のGH・CHを利用することができるようになりました。これを受けて、えはらハイツは4月に、東京都では第1号の東京都重度身体障害者GHから新法のGH・CHに移行しました。

2階部分は、知的障害のある方を主たる利用者とするGH・CHの事業所ですので、1階部分をユニット追加する形です。2階のGH・CHや短期入所のスタッフと合わせて職員配置を工夫しつつ、入居者の方にもご理解いただきながら運営していかなければいけないと思います。

8 身障GH・CHを増やしていくためには

東京都重度身体障害者GHは、現在、都内に18件あるそうです。しかし都に移行手続きの相談に行ったところ、この4月に新法移行したのはえはらハイツのみとのことでした。入居者が5人と少ないこと、そのうち車いす利用者は3人ですが、うち2人は自力歩行・入浴が可能なこと、また設立してから日が浅く当初から「近いうちには新法移行となる」という見込みで運営してきたこと、入居者人数が少ないことからヘルパーを利用せずにやってきたことで、移行後もそれほど大きな違いがなくやっていけそうです。

しかし、以前から運営されていた重度身体障害者GHは、ヘルパーを利用しながら組み立ててこられたと思いますので、新法のGH・CHでは、ヘルパーを利用するとその日の報酬単価が下がるなどで、運営が困難になるでしょう。

新法のGH・CHは、日中加算はあるとしても、基本的には昼間の職員配置は無く、入浴介助なども必要のない知的や精神の障害のある方のための配置として報酬単価が決められているように思います。身障の方が安心して暮らせるためには、夜間・日中共もっと手厚い人員配置が必要です。せっかく身体障害のある方も新法の対象となりましたが、このままでは身障GH・CHを作り運営していくのは困難ではないかと思います。身体障害のある方の特性を踏まえた支援の加算を付けていくのが必須であり、その検討が急務と言えるでしょう。

(かとうるみこ 社会福祉法人東京コロニー福祉事業本部長)