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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

1000字提言

アウトリーチによる精神障害者支援体制の充実を

高木俊介

ACT(Assertive Community Treatment;包括型地域生活支援プログラム)とは、「統合失調症を主とする重症精神障害者の地域生活を、医療と福祉の多職種からなるチームによる24時間体制で、生活現場への訪問を中心として援助する組織・体制」である。医療と福祉にかかわる専門職スタッフがチームを組んで、定期的に、あるいは必要に応じて、利用者の自宅や職場を訪問し、病状の診察や薬物治療、身体管理、さまざまな生活支援、レクリエーション、リハビリテーション、ジョブコーチ、家族支援等、精神障害者の療養と支援に必要な援助活動を、24時間365日の緊急時を含めて行うのである。

精神障害の大きな特徴として、医学的治療を要する疾患と、日常生活上のつまづきを来す障害が常に表裏一体となって存在しているということがある。そのために、医療関係者と福祉関係者が同じ組織でチームを組んで、専門知識と各々の異なった視点を持ち寄って支援を行うことが必要となる。

また、精神症状と呼ばれているものの多くは、障害をもった人が現実の環境や状況に対して困難を来したことによる反応として理解することができる。したがって、訪問によって環境や状況に直接介入することで治療や援助を行うことが効果的だ。

必要とあればいつでも慣れ親しんだスタッフとチームによる24時間の支援が受けられるということは、対人関係に不安と緊張が強く、「安全保障感」の欠乏に苦しんでいる精神障害者にとって心強い助けとなるだろう。

つまり、精神障害者の回復や地域生活の維持にとって大切なのは、安全と自由が保証された地域の暮らしの場、そして人との絆なのである。

これらを提供できるのは、病院や施設ではなく、生活現場での訪問支援(アウトリーチ)である。これを理想的な形で実現したのがACTだ。

だが、日本の精神医療・福祉の現状ではACTの普及は現実的には困難だろう。今もっとも喫緊の課題であるのは、精神病院を大幅に縮小して精神障害者の地域生活の可能性を広げる脱施設化である。

これまで本欄で述べたように、精神病院は自然消滅への道をたどる。しかし、そこで生じる財源を意図的に脱施設化にまわすのでなければ、精神病院という巨大な恐竜は激増する認知症老人を飲み込んで再び施設化へと向かうであろう。

それを防ぐためにも、精神病院が不当に略奪してきた財源を地域に取り戻し、各々の地域で可能な資源を組み合わせてアウトリーチによる支援を広げ、ACTに盛り込まれた理念を一歩一歩実践していく市民レベルでの取り組みが求められている。

(たかぎしゅんすけ たかぎクリニック)