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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号

わがまちの障害福祉計画 東京都新宿区

新宿区長 中山弘子氏に聞く
行政・施策の総合化と協働のまちづくり

聞き手:小山聡子(日本女子大学准教授)


東京都新宿区基礎データ

◆人口:319,668人(平成22年5月1日現在)
◆面積:18.23平方キロメートル
◆障害者の状況:(平成22年5月1日現在)
身体障害者手帳 8,046人
知的障害者(療育)手帳 1,272人
精神保健福祉手帳 1,574人
◆新宿区の概況:
23区のほぼ中央に位置し、江戸時代、内藤家の下屋敷の一部に新たな宿場「内藤新宿」を整備したことに由来する。新宿駅西口の超高層ビル群、歌舞伎町、新宿駅周辺のデパート、物品店、飲食店の集積は日本有数の商業都市として海外からの観光客も多い。保育園の草分け「二葉保育園」、日本点字図書館、東京ヘレンケラー協会、戸山サンライズなど福祉拠点となっている。23区で最も多い3万5千人を超える外国人が暮らす国際都市でもあり、多様性を力とするまちとして、多文化共生社会を目指している。
◆問い合わせ先:
〒160―8484 新宿区歌舞伎町1―4―1
新宿区区長室区政情報課
TEL 03―5273―4064(直)
FAX 03―5272―5500
http://www.city.shinjuku.lg.jp

▼中山区長は、私の勤務先である日本女子大学社会福祉学科のご出身ということで、本日はとても張り切ってやってまいりました。お目にかかれて光栄です。まず新宿区の特徴からお話いただけますか?

江戸時代からの歴史と伝統をもち、「働く」・「住む」・「遊ぶ」・「学ぶ」といった都市機能をバランスよく持つまちです。現在の人口は32万人弱、23区内で最も外国人登録が多い区です。新宿駅西口の超高層ビル群や歌舞伎町のイメージで語られがちですが、意外に緑も多く、大学や専門学校等教育の一大拠点もあります。駅周辺のデパートを中心とする物販店や飲食店では、売り上げが1兆3千億円を超えるという日本有数の商業のまちでもあります。事業者が多いという特徴を障害者就労支援にも生かしたいと思っています。

▼では、その障害者の就労支援というあたりからお話いただけますか?

第二期新宿区障害福祉計画の目標の一つとして、「重層的就労支援体制を構築し、福祉施設から一般就労への移行者数を年間26人以上とする。」とうたっており、この取り組みを支えるしかけの一つが公益認定を受けた新宿区勤労者・仕事支援センターです。ここでのミッションとして、年齢、性別、障害の有無にかかわらず働きたいというすべての区民やすでに働いている勤労者への支援も包含する活動を目指しており、高齢者や若年非就業者も含めて総合的に取り組んでいます。

区の委託事業である障害者就労支援事業には、2010年2月末現在288人の登録があり、障害者の相談、職業評価、就職準備訓練や実習、面接同行といった支援を行うとともに就職後のフォローアップも行います。区役所や大学、社会福祉協議会等でインターンシップを実施し、昨年度で就業に結びついた方が15人、定着支援が65人です。

私は、従来から都道府県レベルで考えられてきた労働施策を地域レベルに下ろして、働く場を創設しながら施策を総合化していきたいと考えています。たとえば、高年齢者の無料職業紹介で「新宿わく☆ワーク」という活動が社会福祉協議会への助成事業として行われており、これも年齢や性別等にかかわらず働くということを支援する試みの一つです。

この事業の移管も受け、勤労者・仕事支援センターは、シルバー人材センター、子ども総合センター、障害児のタイムケア、特養ホーム、多目的運動広場、農業体験の場と一緒になって、2011年度には旧東戸山中学校跡地に移転・開設し(名称・新宿ここ・から広場)、ここからライフステージごとのサービスを一体的に行える体制を整えることになっています。

コミュニティーショップ事業、これもまさに総合性をめざすものです。新宿には歌舞伎町があって、社交飲食業が多く、ある意味「怖いまち」というイメージのあることがとても残念で、それを払拭する目的も含めて「歌舞伎町ルネッサンス」という取り組みを進めています。歌舞伎町に少ない物販の店を、たとえば地方物産のアンテナショップとして入れたり福祉商品を扱ったりするために、コミュニティーショップ「ふらっと新宿」歌舞伎町店を2007年にスタートしました。これは福祉的就労と一般就労の狭間にある多様で中間的な就労の場です。現在区内で7店舗となり、障害のある人もジョブサポーターに支えられながら顧客と関わり、表情が生き生きとするのを見てきました。

▼サービスする人とされる人の固定化は、人々の分断や関係の硬直を招きます。サービスを受ける側だった人の中にもっと違う役割が生まれることの意義は大きいですね。

それが重要なんです。コミュニティーショップでジョブサポーターを入れたのも、そうやって障害者を支えるとともに、有償ボランティアとして定年後に自分の居場所を新たに見つける人もおられることに着眼したからで、人が支えたり支えられたりという仕組みを確立したいと思ったわけです。2009年度からは、従事職員の人件費や障害者等の支援と店舗運営にあたるジョブサポーターの謝礼の2分の1を、区から補助しています。

▼昨今、地域における生活者の視点から縦割りを排した事業の総合化が言われますし、また、障害の分野では自立支援法以降、ことに3障害への一体的サービスの提供が強調されるわけですが、個別の支援を組み立てる際のご苦労もおありなのではないですか?

そうですね。障害ごとの垣根を外すことはとても重要ですが、もちろん個々の障害特性と個人差にはきめ細かく対応しなければなりません。でも、違いを理解しつつ、当たり前の支援を総合的に行えることが重要です。「ふらっと新宿」でも障害の異なる人が一緒になってやっています。ここでは、ことさらその人の障害名とか疾病名、原因などを細かく追究するのではなく、いわば「よき隣人」としてのナチュラルサポートをするわけです。曜日によってさまざまな障害のある方がみえます。いろいろな人が当たり前のこととして地域の中に出られる、活躍する場所を作ることで理解は進むと思っています。

▼新宿区がそういう形で総合や連携をめざす幅広い取り組みを特にアピールポイントにされているのには、もともと事業主が多いといった社会資源の影響もありますか?行政の先導と地域の当事者団体のアクション等はどのように関係しているのでしょうか?

地域の当事者団体の活動が活発です。区長になって8年目、現場重視の姿勢を維持しつつ、とにかく施策を総合化したいと思ってきました。地域の当事者団体とはさまざまな面で連携、協働しています。たとえば、新宿区障害者福祉センターは、その運営に新宿区障害者団体連絡協議会が参画しています。先ほど述べたコミュニティーショップも、落合では地域の民生委員の方々や「ラバンス」という精神障害者の就労継続支援B型の施設と一緒に運営をしています。

また、市民から提案のあった事業を審査し、年500万円の補助を2年間出す共同提案事業という仕組みを持っています。これを使って高次脳機能障害者支援事業や、中途失聴・難聴者リハビリテーション事業、孤独死対策のほっと安心カフェ(於戸山ハイツ)等に取り組んでいます。

事業主さんとの連携は、まだまだこれからともいえます。企業が多いのに必ずしも受注が十分ではないという現状にかんがみて、共同受注に取り組み、障害者や高齢者の団体に対して安定的に仕事を供給していきたいと考えています。理念的な言葉で言えば「だれもが参加できる地域社会」ということになるのですが、事業を組み立てる中では失敗もいろいろ経験しています。事業主さんは収益を上げることが必要なわけですから、障害者の就労に便を図るといったことと、場合によって矛盾も出てきます。でも、要はお互い他者への想像力の翼をどれだけ広げられるかということを踏まえ、どこで折り合えるかを考え、失敗からも学んでいけばいいと考えています。

▼社会福祉学科で教えていると、産業振興における収益の増大化といった側面がすっぽりと抜け落ちてしまうことがあります。同時に私は、他の自治体で産業振興及びバリアフリーの協議会、両方に参加してきた経験からいって、行政の中でもその両者の連携はかなり困難であることを感じてもいます。

そうですね。事業には、持続可能ということが必要で、そのためにはそんなにもうからなかったとしても、少なくとも経費くらいはでなければならないでしょう。障害のある人の生活を保障する手当て等ももちろん必要ですが、当事者の力を引っ張り出して社会に貢献できる力をつけるということが当人にとっても、社会にとってもとても大事です。

▼バリアフリー新法がらみの連携や、子どもにとっての安全のまちづくり等の取り組みについてはいかがでしょうか。

バリアフリーに関しては新宿駅及び高田馬場駅周辺を重点整備地区と定め、当事者の方々にしっかり関わっていただいています。放置自転車対策にも取り組んでいます。新宿では、駐輪場所の確保も困難で、公共交通の利便性も高いことから、当初は自転車には乗ってこないで歩いてくださいという啓発を行っていたのですが、それにはやはり現実味がない。お年寄りで若い頃から自転車に乗っている方は、それでこそ行動範囲が広がるということがあるわけですし。そこで、私たちも各駅に駐輪場所を作り、若干の料金設定もしました。「とにかく現実がどうなのか」というところから出発します。

子どもにとっての安心なまちをめざし、安全安心条例も作りました。他に喫緊の個別課題として、新宿に特有なのは、外国人施策のスタンスを明確にし多文化共生を進めること、ホームレス対策の基本計画の策定、そして歌舞伎町対策の推進に取り組んでいます。

▼区政における総合化の姿勢、必ずしも対障害者というだけではない多目的の活動を区民や事業者と協働で作り上げるしかけについてお聞かせいただきました。本日は本当にありがとうございました。


(インタビューを終えて)

新宿区特有の課題に果敢に取り組みつつ、その中に障害児者支援を位置づけ、現場の現実から出発する姿勢、とにもかくにも住民目線でサービスを横につないでいく意気込みを感じました。

最後にお願いして、日本女子大学社会福祉学科の大先輩である中山区長に後輩たちへの熱いメッセージをいただきました。「若い人たちに期待します。どこかでだれかの役に立つという気持ちを大切に、どんな分野でもいいからアンテナを高くして活躍を!」。私自身もこうした協働に参加できる学生を育てるよう頑張らねばと気持ちを新たにしました。