「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年7月号
列島縦断ネットワーキング【東京】
ケアセンターふらっとの取り組み
―地域で進めるあきらめない回復支援―
和田敏子
重篤な病も、不慮の事故も、それはいつも突然に背後から襲ってくるもののようです。九死に一生を得ても、覚醒したベッドの上で人はまずその状況にうろたえ、茫然自失するばかりです。「これからどうなるのか…」。自らのこと、家族のこと、仕事のこと…そこには冷静かつ合理的な判断力や思考など望むべくもなく、ただ混乱の極みに投げ出されます。
この14年間、私たち現場スタッフは利用者の現実を学び続けました。そして、この目の前にある現実こそが、当事者の出発点であり、かつ私たちスタッフの原点でもあったのです。当事者の方々にとっては、まだまだ不十分な福祉、医療システムもさることながら、やはり基本は「自己のたゆまざる生への意思=新たなる回路の模索」であり、またそれを真摯に意匠する適切な周囲のサポートです。
社会福祉法人世田谷ボランティア協会ケアセンターふらっとでは、こうして何よりも利用者の自発の支援を心掛けてきました。1996年にスタートした、ケアセンターふらっとについて、まずその設立経緯から説明したいと思います。
開設前に立ち上がった検討委員会
世田谷ボランティア協会では、デイサービス事業を開始する1年前から、障害のある人、地域の障害者団体、医師、ボランティア団体、行政など直接・間接の当該者に働きかけ、自由闊達な検討委員会を立ち上げました。以後11回の委員会により討議が進められ、その提案は報告書としてまとめられ、これまで世田谷区内になかった〈中途障害者のためのデイサービス〉が始まることになりました。
施設概要
ケアセンターふらっとは1996年10月、世田谷区から運営を委託され、開設当初は世田谷区千歳船橋の地で仮設の建物によるスタートでした。プレハブで5年を過ごした後、2002年4月、世田谷区下馬に新設された区総合防災施設内に移転しました。
この時期は、介護保険制度や支援費制度など社会における福祉施策を含めその変動は激しい時期でもありました。さらに2006年障害者自立支援法が始まり、ケアセンターふらっとは、区立委託施設から社会福祉法人世田谷ボランティア協会の自主事業として補助金を受けながら運営することとなり、現在は、生活介護事業と自立機能訓練事業の多機能型を実施しています。
事業展開
14年前、15人からスタートした事業ですが、当時は脳血管障害の方が90%を超え、平均年齢も50代後半という状況でした。そんな折、チームドクター(嘱託医)長谷川幹医師は「高次脳機能障害を勉強しよう!」とスタッフに提案されました。当時はまだ高次脳機能障害という単語すら珍しく、スタッフも単に「脳卒中や頭部外傷の後遺症」程度の知識しかないなか、学習会や事例検討会を重ねるうちに、自分たちが目の前にしている利用者の方の後遺症がどれだけ大変なことなのかを知っていきました。
合わせて、利用者の方もあっという間に増えるなか、ご家族、当事者の方々から、高次脳機能障害や重度の後遺症が分かる専門のヘルパーを紹介してほしい。あるいは、65歳になっても高齢者のデイサービスに行くのではなく、高次脳機能障害をはじめ身体機能に関し継続したリハビリテーションや活動ができる専門の通所介護事業(介護保険)を作ってほしい、2号被保険者のリハビリテーションが分かるケアマネジャーを紹介してほしいという強い願いが高まりました。そして背中を押されるように、ヘルパー派遣事業所「ケアステーション連」、ケアマネジャー事業所「ケア相談センター結」、高次脳機能障害者に特化した通所介護(介護保険)「ケアセンタwith」を立ち上げ、展開するに至りました。
施設構成
現在は、下図のような利用者、職員の構成になっています(図1~4)。
図1
生活介護事業 | 1日 20人 | 月曜~土曜 | 登録48人 |
自立機能訓練事業 | 1日 6人 | 月曜~金曜 | 登録12人 |
図2
(拡大図・テキスト)
図3
(拡大図・テキスト)
図4 職員体制
職種 | 職員数 | |
---|---|---|
施設長 | 1人 | |
主任★ | 2人 (自立機能訓練・生活介護) |
|
支援員 | 常勤 | 3人 |
非常勤 | 1人 | |
アルバイト | 8人 | |
事務員 | 常勤 | 1人 |
非常勤 | 0人 | |
高次脳機能障害相談 | 相談員 | 1人 |
看護師 | 常勤 | 1人 |
非常勤 | 0人 | |
セラピスト | 常勤 | 3人 |
非常勤 | 3人 | |
リハビリ医 | 常勤 | 0人 |
非常勤 | 1人 | |
インフォーマルスタッフ | 精神科医 | 1人 |
シーティングアドバイザー | 1人 |
★はサービス管理責任者
プログラムは自分で決めてみることからスタート
ふらっとでのプログラムは、当事者自身が決定するところから始まるのですが、見学者からは、必ず「そうは言っても、何か決まっているでしょう?」と言われます。しかし、ふらっとではスタッフが決める部分は少ないのです。少なくとも当日、利用者に出会ってみなければ分からないのです。
無論決まっている人もいます。「○○の続きをします」と言う人や、「先週約束していることをしましょう」とか、「メールでスタッフに送っておいた場所に行きたいです、他の人も誘いましょう」など、自由に朝のミーティングで会話が交わされます(言葉が出にくい人は、補助手段を使います)。このようにコミュニケーションを図りながらプログラムが決まるのが、あえて言えば「ふらっと流」でしょうか。
よく見学者の方々から「大変でしょう、あらかじめ決めておく方が楽でしょう」と言われます。しかし20代から65歳の人がスタッフの決めた過ごし方で、自身の新しい生活をコーディネートする力をつけたり、エンジョイしたりできるでしょうか。人々の生活は千差万別で自主性のないお仕着せのプログラムは有効ではないと考えます。プログラムの基本はすべて当事者が決めるところからスタートで、希望されたことは可能な限り実行に共に移していくのがふらっとのプログラムです。
プログラムの一つとしての〈外出〉
外出プログラムの効果については、参考文献をぜひご一読いただきたいと思いますが、ここでは、プログラムの概略を説明いたします。
外出は、リハビリプログラムとして大きな力を発揮します。認知、注意、失語、記憶、遂行など、あらゆる高次脳機能障害について働きかける機会となります。また当然、自宅や通所施設以外の場所に出かけることで精神的な解放と楽しみが生まれます。さらに新しい活動の場に参加し、日々の暮らしの幅を広げたり、地域との交流、ある時は自らボランティアとなったり、自主グループに参加することを試みたりすることを「外出」プログラムに入れています。
ふらっとでは、午前中の時間を小グループでの活動とし、この外出プログラムを多くの利用者の方々が選択されています。
高次脳機能障害者が利用するデイサービスの視点と課題
高次脳機能障害者の置かれた現状は、制度の不備からいまだ支援の手がかりが少なく、また医療や福祉の分野からもその理解は十分とは言えません。いずれも退院後は当然のことながら「暮らしの再生」が急務であり、強く求められています。
そこで、どんな再生が可能か、あるいは望ましいかが課題となるわけですが、多くの場合、病後の生活は家庭と地域がコアになりますから、そこをデイサービスがどう絡むかが次の展開となります。そして、それにはスタッフの高次脳機能障害に対する十分な学習と理解、そして取り組み続ける真摯な研鑽が必要不可欠になると考えています。
さらに、利用者主体の「選ぶ」という視点がスタッフ側にあるかどうかが、大きな鍵になると考えています。当事者が主体的に活動が始められるには「時間」が必要です。共に地域の中で点となる資源を線で結び、コミュニティーという面を時間という層にしてゆく活動が、14年目を迎えたケアセンターふらっとの大きな課題と日々考えております。
(わだとしこ ケアセンターふらっと施設長)
【参考文献】
1.社会福祉法人世田谷ボランティア協会身体障害者デイサービスセンターふらっと編著「高次脳機能障害者とデイサービス」医歯薬出版、2005年
2.長谷川幹著「主体性をひきだすリハビリテーション」日本医事新報社、2009年