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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年8月号

リレー推進会議レポート3

第8回~11回の報告

新谷友良

はじめに

障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)は、障がい者制度改革推進本部に6月中旬提出を予定している第一次意見をまとめるにあたって、表1の日程で、障害者関係団体及び関係省庁へのヒアリングを行った。本稿は、その概要の報告である。

表1 第8回~11回推進会議日程と主なテーマ

第8回 4月19日(月)
13:00―17:00
障害者関係団体ヒアリング
(総合福祉部会に入らなかった団体)
第9回 4月26日(月)
13:00―17:00
省庁ヒアリング
  • 法務省(司法手続き、人権救済機関)
  • 文部科学省(インクルーシブ教育)
  • 総務省(政治参加)
第10回 5月10日(月)
13:00―17:00
省庁ヒアリング
  • 厚生労働省(雇用、所得保障、虐待防止、障害福祉サービス、障害児支援、医療)
  • 総務省(情報バリアフリー)
  • 国土交通省(交通、建物)
  • 内閣府(「障害」の表記)
第11回 5月17日(月)
13:00―17:00
省庁ヒアリング
  • 外務省(国際協力)
  • 今後の進め方(内閣府)
(障害者基本法、差別禁止法、第1次意見の考え方)

第8回障害者関係団体ヒアリング

推進会議による第1回目のヒアリングは、12の障害者関係団体を対象に4月19日に実施された。ヒアリング実施に当たって、各団体より事前に発表内容の資料提出があった。また、構成員より事前質問も出されており、1団体の持ち時間を15分として意見発表10分、質疑応答5分の要領で進められた。

意見内容は、福祉サービス、教育関係などが中心的なテーマであった。福祉サービスに関しては、障害者自立支援法での自己負担や国庫負担率を問題にする団体が多く、「尼崎市内障害者関連団体連絡会」からは、地域生活支援事業4億円の交付金に対して市が10億円の「障害者(児)移動支援事業費」を支出している報告があった。

地域生活関連では、「施設中心に支援を受けつつ地域へ参加していくことが必要」とする団体がいくつかあり、「施設をなくせば命を絶つ家族も出てくる」という意見も出されが、居宅の重度障害者に対する24時間介護サービスの有効性を指摘する意見も出た。

難病、遅延性意識障害の団体からは「福祉の谷間」の問題が提起され、「全国引きこもりKJH親の会」は、表面に出てこない引きこもりの人へのサポートのため家族会内部での啓発活動、社会の協力が欠かせない旨意見を述べた。

無年金問題については、改めてその不条理性についての説明があり、特に在日無年金問題についてはその施策根拠が不明であり、国連人権委員会や日弁連からの改善勧告の話も出た。

また、福祉的就労に関するILO勧告についても、全国福祉保育労働組合から報告があり、推進会議でのさらに踏み込んだ議論展開を求められた。

全国には数多くの障害者また関係者の集まりがあり、その声をわが国の障害者施策へ反映するためには、今後も一層の工夫が必要ではあるが、ヒアリング希望のあった団体に対して意見表明の場を提供できたことは、開かれた推進会議の在り方として評価できるものであった。

第9回省庁ヒアリング

4月26日、法務省、文部科学省、総務省に対するヒアリングが実施された。推進会議担当室より事前質問書が各省庁に出ており、質問書への回答を各省庁の政務官が10分間説明し、その後、構成員と質疑応答する形でヒアリングは進行した。

(法務省)

質問項目が司法手続き及び人権救済機関に絞られていたが、中村政務官は、全般的にみて、現在の司法手続きは障害者権利条約に沿ったものとなっていると説明した。また、刑事・民事とも訴訟関係者に対する必要な配慮は行っており、刑務所等での処遇においても障害者に必要な配慮をしているとの趣旨であった。

これに対して、構成員からは必要な配慮に関する義務規定がない、個々の事例で人権侵害、配慮の欠如・不足が散見されるなど、現行施策の問題点を指摘する声が多く出た。これらの意見に対して、中村政務官より、指摘を受けて初めて気づく部分もあり実情を把握したい、障害者差別禁止法に関しては、障害者が実質的に手続き保障を受けることが重要との回答があった。

また、取り調べの可視化については政務三役で検討中、人権救済機関については省内で検討を進めており、できるだけ早く案件をまとめたいと説明があった。

(文部科学省)

担当室からの質問書に対して、高井政務官が○子ども子育てビジョンでインクルーシブ教育システムの構築を考えている、○インクルーシブ教育と特別支援教育は相反しない、○就学先決定については、現行制度の見直しを検討中で、多方面の意見を聞いて慎重に法整備を進めていく、と説明した。

また、すべての教育を通常学級で行った場合の追加費用の試算が提出された。これら文科省の説明に加えて4つの団体と1人の保護者も意見を述べ、特別支援教育は共生社会を目指しており、インクルーシブ教育と方向は同じとする意見も出た。

また、学籍一元化については、慎重にとする意見と一元化が原則とする意見が交錯した。保護者からは自己の体験を踏まえ、障害の克服を障害者個人に求めているとして、特別支援教育に強い疑問が出された。

これに対して構成員からは、財源があればインクルーシブ教育が可能なのか、就学先を行政が決定する要件に保護者の同意を入れるのかどうか、など厳しい質問が相次いだ。また福島担当大臣より「自分が行きたい学校に来るな、というのは差別。インクルーシブ教育では本人・親の選択権が最大限尊重される。保護者の同意を前提としてほしい」と異例の発言があった。

教育に関しては、構成員を含む多くの関係者の関心が強く、また成長する子どもを対象とするセンシティブな課題も多くあり、短時間の省庁・関係団体ヒアリングでは議論の深化が不足していた。省側の回答にも不明確な部分があり、再度、文科省に質問書を出し、文書で回答を求めることとなった。

(総務省)

ヒアリングテーマは政治参加に絞られ、情報・コミュニケーション関係は、次回ヒアリングに持ち越された。総務省回答は階政務官が行い、○選挙公報、政見放送の改善状況、○選挙に係る欠格条項の扱い、○投票に当たっての移動支援、物理的バリアの改善、必要な配慮の整備状況などを説明した。

間近に迫っている参議院選挙に対する点字公報、政見放送字幕などの対応については持ち帰って検討するとの回答であったが、選挙人資格欠格条項の見直しについては、今後の検討課題と慎重な回答で終わった。

第10回省庁ヒアリング

5月10日、厚生労働省、総務省(情報バリアフリー関連)、国土交通省へのヒアリングと、「障害」の表記に関する内閣府の調査結果の報告があった。ヒアリングは前回と同様の要領で進められたが、冒頭、福島担当大臣より「省庁ヒアリングでの並行部分は今後も協議を続けていく。制度改革推進に向けて課題解決をしていきたい」と挨拶があった。

(厚生労働省)

山井政務官が福祉関連全般について説明し、支援法を廃止し、新たな法律を作るポイントして○応益から応能、○障害の範囲、○サービス支給決定プロセス、の3点を挙げた。

また、雇用促進については制度の安定性を目指す、差別禁止法の制定、所得保障も大きな課題、また年金については、3年後を目指して抜本的な改正を行うと説明があった。政務官の説明に対して出席構成員より質問が相次いだが、支援法改正に関しては「現在、改正案を出せる状態にはない。議員立法の動きに関しては超党派で法案を通すかどうか問題があるが、立場上コメントできない」と回答があった。

その他、現行手帳制度は狭すぎるので総合福祉部会で議論を、雇用と福祉の関係は労働政策審議会の議論も活用したい、ILO勧告への回答の事前公開は困難、地域主権関連法案の趣旨は地域サービスの向上、などと説明があった。その後、事務部門と雇用、福祉サービスに関する質疑応答があり、福祉・雇用分野のヒアリングを終えたが、実質的な議論は総合福祉部会に持ち越された。

引き続き、足立政務官より医療関係について、○精神保健福祉は特別な体系で、入院措置は本人の保護を目指している、○社会的入院の解消には22年度も予算を確保し努力中、○重度障害児の在宅移行、発達障害児への取り組みを推進する、○自立支援医療については枠組みを見直す検討チームを省内に立ち上げる、などの説明があった。

一方、構成員からは「精神に関する法律はすべて強制入院のためのもの」、「精神保健福祉法の保護者制度は撤廃すべき」など精神障害を中心に質問がでた。また社会的入院に関しては「入院が重症化を招いている」という指摘も出た。

これらの質問に対して厚労省からは、人権配慮の視点から法を充実してきている、保護者制度は今後の課題とするなどの回答があり、最後に政務官より、国民の受け入れがあってのノーマライゼーション、当事者の声を聞き、意見が分かれればそこでも話し合う、医療は診療報酬が基本で、不足を予算で埋めていくとの発言があった。

(総務省)

前回に引き続き、情報バリアフリー関係のヒアリングが総務省対象に行われ、ICT利用の環境整備の促進、健常者と同一レベルの情報の提供を目指した施策を進めている旨説明があった。これに対して、構成員から災害時の情報提供の立ち遅れを中心にいくつか質問が出たが、財政的、技術的、制度的問題を理由に踏み込んだ内容の回答は得られなかった。

(国土交通省)

辻元政務官より、ユニバーサル社会を目指して現在、交通基本法を議論しているとして、○交通基本法に移動の権利を明文化、○施策はバリアフリー法で進めていく、○地方のバリアフリー化を推進し、合理的配慮については関係施設・業者への周知を図る、などの説明の一方、関係部門への義務付けは難しく、努力義務として進めていきたいとの態度であった。

構成員の質問に対しては、財政上の制約はあるがバリアフリーネットワーク会議を活用して問題を共有し、課題解決に努力したいとの回答であった。

(障害の表記について・内閣府)

障害の表記に関する文化審議会国語分科会漢字小委員会の議論の紹介と、内閣府が実施したアンケート結果(ネット調査)の紹介があった。小委員会では「碍」の使用については、推進会議の議論に委ねるとの結論、またアンケート結果は「障害」の表記を改める必要があるとは思わないものが43%、そう思うものが22%と紹介された。

第11回省庁ヒアリング及び今後の取り組み方

第11回推進会議は、外務省へのヒアリングと、今後の推進会議の取り組みがテーマとなった。

(外務省)

吉良政務官より、国際協力および権利条約批准についての一般的コメントがあり、その後、事務部門より○第2次アジア・太平洋障害者の十年の総括とその後の取り組みについては内閣府と協議しながら進めていく、○ODA大綱は障害者を含め社会的弱者としての括りで課題を整理、要請主義のもとでも案件提案をして弱者支援を進めている、書類上の審査で終わらせないように努力をするとの回答があった。

(地域主権関連)

議題には取り上げられていなかったが、日本障害フォーラム(JDF)が地域主権改革に関する要望書を推進会議に提出し、現在国会で審議中の関連法案が障害当事者の施策参加を後退させ、地域格差の拡大につながることへの懸念を表明した。これを受けて、早い時期に地域主権関連の担当部門へのヒアリングを実施することとなった。

(今後の取り組みについて・内閣府)

泉政務官より「障害者制度改革の推進に係る法整備」について、「障害者制度改革の推進及び障害者基本法の改正」での中央障害者施策推進協議会と障がい者制度改革推進会議の発展的統合、改正障害者基本法での権利主体の規定、障害者の定義の見直し、監視機関の法的位置付けなどの言及があった。また「障害者差別禁止法の制定」については、人権救済制度の検討状況も踏まえ対応していきたいとの説明があった。

最後に、担当室より第一次意見の目次案が提示され、6月7日の第14回推進会議をめどに第一次意見をまとめていくこととなった。

(しんたにともよし (社)全日本難聴者・中途失聴者団体連合会常務理事)