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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

障がい者制度改革推進会議の第一次意見と閣議決定

東俊裕

1 はじめに

1 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」

障がい者制度改革推進会議(以下「推進会議」という)がまとめた第一次意見が2010年6月29日開催された第2回障がい者制度改革推進本部(以下「推進本部」という)において、小川榮一推進会議議長から同本部長である菅直人内閣総理大臣に手交され、その後開かれた閣議により第一次意見を最大限尊重した「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が決定された。

そもそも、推進本部は、内閣総理大臣を本部長とし、その他の国務大臣を構成員として障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行政機関相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図ることを目的として、2009年12月、鳩山政権が閣議により内閣に設置したものである。

また推進会議は、推進本部が障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるため、障害者、学識経験者等を構成員として推進本部の下に置いたものであるが、いわば改革のエンジン部隊として2010年1月から審議を開始した。

前記第一次意見(正式には「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」)は、障害者基本法の抜本改正、障害者差別禁止法の制定、総合福祉法の創設、さらに障害者の雇用、教育、医療、司法手続、政治参加等の各分野及び「障害」の表記、予算確保に関する課題等についての審議、関係する民間団体や所管府省からのヒアリング等、計14回にわたる精力的な審議を行った段階(同年6月7日)で取りまとめられたものである。

2 第一次意見の構成

第一次意見は、4つの章立てにより構成されている。

第1「はじめに」では、保護の客体から権利の主体へという障害者の社会的地位の転換という観点を基軸に、主に、障害者の権利条約に至る国際的な動きと日本における制度改革が始まった経緯が述べられている。

第2「障害者制度改革の基本的考え方」では、1.「権利の主体」である社会の一員、2.「差別」のない社会づくり、3.「社会モデル」的観点からの新たな位置付け、4.「地域生活」を可能とするための支援、5.「共生社会」の実現という5つの視点から、制度改革の方向性を検討するに当たり最も基本となる考え方がまとめられている。

第3「障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方」では、全体的な当面の進め方とともに、まず「基礎的な課題における改革の方向性」においては、地域で暮らす権利の保障とインクルーシブな社会の構築など8つの基礎的な課題が取り上げられ、次に「横断的課題における改革の基本的方向と今後の進め方」においては、障害者基本法の抜本改正、差別禁止法や総合福祉法の制定が法案提出の時期も含めて取り上げられており、さらに「個別分野における改革の基本的方向と今後の進め方」においては、11の分野にわたって推進会議の問題認識を示すとともに政府に求める今後の取り組みに関する意見が述べられている。

第4「日本の障害者施策の経緯」では、障害者に対する戦前から現在までの施策の経緯を概説し、現状の課題の歴史的背景を明らかにしている。

以下は、主に、「横断的課題における改革の基本的方向と今後の進め方」と「個別分野における改革の基本的方向と今後の進め方」を中心に、その概要を報告するものである。なお、第1や第4に述べられているこれまでの経緯、第2の「障害者制度改革の基本的考え方」、第3の中の「基礎的な課題における改革の方向性」における議論も非常に重要ではあるが、紙幅の関係上、前記の点に絞ることにした。

第一次意見とそれに基づく閣議決定の全文に関しては、内閣府のホームページを参照されたい。

2 「横断的課題における改革の基本的方向と今後の進め方」

さて、第一次意見が横断的課題として取り上げているのは、障害者基本法の抜本改正、「障害を理由とする差別の禁止法」(仮称)等の制定、「障害者総合福祉法」(仮称)の制定の3点である。

1 障害者基本法の抜本改正

障害者基本法の抜本改正に関しては、法律の性格を要保護者に対する対策法的な性格から人権の主体たる地位の確保のための法律へ変えるべきであるという議論を前提に、制度の谷間を生まない包括的な障害の定義、合理的配慮を提供しないことが差別であることを含む差別の定義、手話及びその他の非音声言語が言語であること、障害ゆえに侵されやすい基本的人権などを総則で示し、既存の諸施策に関する規定の見直しや新規の規定の追加について提言をまとめている。

また、改革集中期間内における改革の推進等のための新たな審議会組織の設置や改革期間終了後における関係各大臣等に対する勧告、資料提出要求等の権限を有するモニタリング機関の設置を検討すべきとしている。この点は、現在の推進会議に法的根拠を与え、さらに障害者権利条約の批准を行う上で必要とされるモニタリング機関に関する重要な提言となっている。

そして、これらの抜本改正に関しては、推進会議または作業チームによる検討を経て、平成22年内に取りまとめを予定する第二次意見を踏まえ、政府は平成23年の通常国会への法案提出を目指すべきとしている。

2 「障害を理由とする差別の禁止法」(仮称)等の制定

次に、差別禁止法に関してであるが、第一次意見ではあらゆる分野における差別類型を明らかにしてこれを包括的に禁止し、また、現在検討中の人権救済制度の検討状況にも留意しつつ、これらの人権被害を受けた場合の救済等を目的とした「障害を理由とする差別の禁止法」(仮称)(以下「障害者差別禁止法」という)の制定に向けた検討を進めるべきとしている。

さらに、この検討に当たっては、本年夏頃に、推進会議の下に「差別禁止部会」(仮称)を設け、障害者差別禁止法の制定に向けた検討を開始し、平成24年末をめどにその結論を得るものとし、これを受けて、政府は25年の通常国会への法案提出を目指すべきであるとしている。

障害者差別禁止法に関して政府の正式な会議体でこのような提言がなされたことは、歴史的に見ても大きな意義があると思われる。

3 「障害者総合福祉法」(仮称)の制定

現行の障害者自立支援法を廃止して、新たな「障害者総合福祉法」(仮称)を制定することは、民主党の公約でもあったが、第一次意見においても現行法の廃止と新法の制定を確認した上で、新たな法制においては、制度の谷間を生まない障害の定義の下に、すべての障害者が地域において自立した生活を営むことができる制度構築を目指すべきであるとし、具体的には、医学モデルに偏った障害程度区分を見直すとともに応益負担を廃止し、一人一人のニーズに基づいた地域生活支援体系を整備し、最重度であってもどの地域であっても安心して暮らせる、24時間介助制度を始めとするサービスを提供し、さらに、入所者・入院者の地域移行を可能とする仕組みを整備するものとするとの提言がまとめられている。

なお、本年4月から推進会議の下に設けられた「総合福祉部会」において整理された当面対応が必要な課題についての意見を踏まえ、政府は必要な対応策を講ずるべきであるとして、緊急課題に対する対処も求めている。

その上で、「障害者総合福祉法」(仮称)の制定に向けたプロセスに関しては、推進会議における大枠の議論の枠内で、平成23年夏から秋までをめどに同部会において結論を出し、これを受けて、政府は平成24年の通常国会への法案を提出し、平成25年8月までの施行を目指すべきであるとしている。

3 「個別分野における基本的方向と今後の進め方」

さらに、第一次意見は、「個別分野における基本的方向と今後の進め方」と題して、11にわたる個別分野ごとに、それぞれの課題に対する推進会議の問題認識と政府に求める今後の取り組みに関する意見を取りまとめている。以下、各分野ごとに推進会議の問題認識に関わる点に絞って概略を説明することにする。

1 労働及び雇用

この点に関して推進会議は、障害者が地域において自立した生活を営み、より一層社会参加ができるようにするためには、障害のない人と等しく障害者が職業等を選択でき、多様な働く機会(自営等を含む)が確保されるとともに、人としての尊厳にふさわしい労働条件や利用可能な環境が整備されることが不可欠であるとの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【障害者の雇用の促進】については、社会モデルの視点に立った障害者雇用促進法上の障害者の範囲の見直しや障害者雇用率制度の在り方の検証を、【福祉的就労に従事する障害者に対する支援】については、福祉的就労における労働法規の適用、雇用施策における位置付け、最低賃金減額特例措置の適用の在り方等の検討を、またいわゆる「社会的事業所」については普及に必要な措置を、障害者就労施設等の受注の機会の増大を図るための具体的方策を、【職場における合理的配慮や必要な支援の整備】については、事業主への合理的配慮の義務付けやその履行を容易にする助成や技術的支援、紛争解決手続の整備等、合理的配慮を確保するための具体的方策についての検討を、職場における支援の在り方については、既存の助成制度も含め、障害者雇用促進法の見直しの議論とそのための必要な措置を講じることなどを求めている。

2 教育

この点に関して推進会議は、障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の構築に向け、学校教育の果たす役割は大きい。人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことにつながるなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【地域における就学と合理的配慮の確保】については、障害の有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合のほか、ろう者、難聴者または盲ろう者にとって最も適切な言語やコミュニケーションの環境を必要とする場合には、特別支援学校に就学し、または特別支援学級に在籍することができる制度へと改めるべきであり、就学先や合理的配慮の内容を決定する際には、第三者機関による調整を含む本人・保護者、学校、学校設置者の三者の合意を義務付ける仕組みが必要であるとし、【学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障】については、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員、手話通訳者、要約筆記者等の確保や、教員の専門性向上、さらには、教育方法の工夫・改善等に必要な措置を講じることなどを求めている。

3 所得保障等

この点に関して推進会議は、障害者はその尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有しており、障害者が地域で自立した生活を営むためには一定水準の所得を保障することが不可欠であるとの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【公的年金制度改革における検討】については、新たな年金制度創設に向けた議論の中で、障害者が地域において自立した生活を営むために必要な所得保障の在り方について、給付水準と負担、並びに稼働所得との調整の在り方を含めて検討を行うべきであり、【無年金障害者の所得保障】については、学生無年金障害者等を福祉的措置によって救済するために設けられた「特別障害給付金」の給付対象範囲の拡大を含め、無年金障害者の困窮状態の改善を図る措置を早急に講ずるべきであり、【住宅の確保】については、家賃等の軽減を含め、住宅確保のための支援の在り方について検討を行うべきであるとする意見をまとめている。

4 医療

この点に関して推進会議は、障害者が地域において安心して自立した生活が送れるためには、すべての障害者が障害を理由とする差別なしに可能な限り最高水準の健康を享受できるよう、必要な医療やリハビリテーション等が提供されなければならない。特に精神医療に関しては、医療と福祉が混在し制度上の問題を多く含んでいる精神保健福祉法の抜本的な改正が必要であるとの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【精神障害者に対する強制入院等の見直し】については、権利条約を踏まえ自由の剥奪(はくだつ)という観点から検討すべき問題があり、現行の精神障害者に対する強制入院、強制医療介入等について、いわゆる「保護者制度」も含め、見直すべきであり、【地域医療の充実と地域生活への移行】については、社会的入院の現状を改善するため、入院中の精神障害者に対する退院支援の充実を図るべきであり、退院支援や地域生活への移行後における医療、生活面からのサポート(ショートステイ等を含む)の在り方について検討を進めるものとし、【精神医療の一般医療体系への編入】については、精神医療の一般医療体系への編入の在り方について今後とも検討を進め、特に「精神科特例」については廃止を含め、具体的な対応策を講じ、【医療に係る経済的負担の軽減】については、本人の負担能力に応じたものとする方向で引き続き検討し、【地域生活を容易にするための医療の在り方】については、たん吸引や経管栄養等の日常生活における医療的ケアについて、その行為者の範囲を介助者等にも広げ必要な研修や手続きのさらなる整備等を行うことや、受診拒否の実態を把握し改善のための措置を講じることなどが求められている。

5 障害児支援

この点に関して推進会議は、障害児は一人の子どもとして尊重され、すべての人権、基本的自由を享受すべき観点から、障害児の最善の利益を考慮した施策が講じられる必要があるとの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【障害児やその保護者に対する支援】については、地域の身近なところで第一次的に相談対応を行い、必要に応じて適切な専門機関へとつなぐ仕組みを構築すること、相談や療育等の支援が、障害の種別・特性に応じた言語環境により、かつ地域の身近なところで提供されるよう必要な措置を講ずること、専門機関の者が地域に出向き、保健センターや地域子育て拠点における保健師、保育士等と連携した効果的な相談支援を提供できるよう、必要な措置を講ずること、家族(特に母親)に過大な負担を強いる現状を十分に配慮し、家族の負担を減らすための具体的な施策を講ずること、【児童福祉における障害児支援の位置付け】については、障害児支援については、家族への子育て支援や地域において一般児童と共に育ち合うことが保障されるよう、一般の児童福祉施策の中で講じられるようにすべきであることなどが求められている。

6 虐待防止

この点に関して推進会議は、入所施設、家庭内、学校、労働現場、精神科病院等の医療現場等において障害者に対する虐待の例もみられるところであり、虐待の防止やその救済等に関する法整備が急務となっている。立法府においては、障害者の虐待防止に係る制度の法制化に向けた検討がなされているが、今後の法整備に当たっては、政府が行う場合も含め、次の方針に沿って検討されるべきであるとの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【防止すべき虐待行為】については、身体的虐待、精神的虐待、性的虐待、放置、経済的搾取の5つの場合とし、【虐待行為者の範囲】については、障害者の生活場面に日常的に直接かかわりをもつ親族を含む介助者、福祉従事者、事業所等の使用者(従業員を含む)に加えて、外部からの発見が困難な学校や精神科を始めとする病院等における関係者についても範囲に含めるものとし、【早期発見・通報義務】については、障害者の生活に関連する者等に対し、早期発見を促す仕組みとし、虐待の発見者に対して、救済機関への通報義務を課すとともに当該通報者の保護のための措置を講ずるものとし、【救済措置の在り方】については、事実確認、立入検査、一時保護、回復支援等のほか、必要な場合には、強制力を伴った措置を講ずるものとし、【監視機関の在り方】については、虐待を未然に防止するため、効果的な監視が可能な体制を整えるべきであることなどが求められている。

7 建物利用・交通アクセス

この点に関して推進会議は、障害者が日常生活または社会生活において、公共的施設・設備、交通機関等を円滑に利用できるようにすることは、障害者の社会参加を促進する観点から不可欠であるなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、国土交通省において平成23年通常国会への法案提出を検討している「交通基本法」(仮称)の中で、移動の権利等について明文化すること、地方における公共施設や交通機関等のバリアフリー整備の遅れを解消するため、整備対象施設の範囲の拡大や時限を付した数値目標の設定等も含め、必要な具体的方策を講ずること、バリアフリー新法に基づく市町村の重点整備地区の基本構想の作成・改定に当たっては、当事者参画の一層の推進を図ること、障害者に対する乗車拒否や施設及び設備の利用拒否の実態を把握した上で、合理的配慮が確保されるようにするため、苦情処理の対応を行う第三者機関の設置等も含め、必要な措置を講ずることなどを求めている。

8 情報アクセス・コミュニケーション保障

この点に関して推進会議は、障害者も表現の自由や知る権利の保障の下で、情報サービスを受ける権利を有しており、自ら必要とする言語及びコミュニケーション手段を選択できるようにするとともに、障害者が円滑に情報を利用し、その意思を表示できるようにすることが不可欠であるなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【情報バリアフリーの取組】については、あらゆる障害の種別・特性に配慮した方法による情報提供が、関係事業者等により日常生活、社会生活、障害者と障害のない人との交流する機会等のあらゆる場面において行われるよう必要な支援を行うとともに、時限付きの数値目標を伴った情報バリアフリー化のための指針の策定を始め、必要な環境整備を図ること、コミュニケーションを支援する人材について、その養成の一層の拡充を図るとともに、公的機関への配置をするための必要な措置を講ずること、【災害時における緊急情報等の提供】については、放送事業者等が、手話や字幕等の必要な情報を迅速かつ的確に入手できる方法を講じられるよう、必要な措置を講ずること、避難勧告等に当たっては、あらゆる障害の種別・特性に対応した伝達手段が確保されるよう、具体的方策を講ずることなどを求めている。

9 政治参加

この点に関して推進会議は、障害者の選挙権や投票権の保障が、制度の運用において、障害のない人と同等程度に保障されていない問題が多々あり、早急に必要な改善措置を講ずるべきであるなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【選挙等に関する情報へのアクセス】については、選挙等に関する情報の提供に当たって、障害の特性に応じて適切な提供方法がとられるよう早急に改善を図ること、インターネットを活用した選挙活動の解禁に係る制度が施行される場合には、障害者の便宜に配慮した運用がされるよう必要な措置を講ずること、【投票所へのアクセス】については、投票所への移動支援の充実や、投票所の設置及び設備に関するバリアフリー化のための措置や投票所において障害に応じた必要な合理的配慮や支援を受けられるようにすること、【選挙活動における配慮等】については、選挙活動を行う際の必要な支援の充実、成年被後見人の欠格条項の廃止、国会審議に関する情報の提供に当たっては、手話・字幕・点字等の媒体で障害の種別・特性に応じた適切な提供方法が取られるよう改善を図ることなどが求められている。

10 司法手続

この点に関して推進会議は、適正手続として保障される刑事訴訟法上の各種の権利行使において、そもそも法制度自体が障害者の存在を想定していないとの指摘があり、また運用の実態においても大きな問題が存在しているなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、【捜査段階】においては、手話通訳者、要約筆記者、知的障害者の支援者等の立ち会い等を含め、障害の特性に応じた情報伝達とコミュニケーション確保の保障がなされるよう必要な措置を講じることや被疑者取り調べの全面的な可視化を検討すること、【公判段階】においては、手続き的な保障がないままに自白がなされた場合には、証拠として採用されないような仕組みが検討されるべきであり、質問や尋問を受ける場合には、障害の特性に対応した適切な情報提供やそのために必要な手話通訳者、要約筆記者、知的障害者に対する支援者等の支援がなされるよう必要な手続上の措置を講ずるべきであり、【被拘禁中の処遇】においては、物的な設備や情報提供におけるアクセス、医療面での配慮等がなされるよう必要な措置を講ずるべきであり、【コミュニケーション確保に係る費用】の点については、障害者のコミュニケーションの確保のために必要な人的、物理的支援に係る費用について原則として公的負担とすべきであり、【司法関係者(警察官及び刑務官を含む)の研修】については、障害の特性、手話言語や障害に配慮したコミュニケーション、生活支援の基本などについての理解等を深める研修の一層の充実を図るべきであることなどが求められている。

11 国際協力

この点に関して推進会議は、障害者権利条約の締結を見据え、日本の障害者施策分野における国際協力について法律等において明確に位置付けた上で、より一層の推進を図る必要があるなどの認識を示した上で、以下の意見をまとめている。

すなわち、政府開発援助が障害者の地位の向上とバリアフリー化に資するものとなるよう、政府開発援助大綱において障害者を明確に位置付けることを含め、必要な措置を講ずるとともに、現行の「アジア太平洋障害者の十年」以降、アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)を中心とした、アジア太平洋における障害分野の国際協力にさらに積極的に貢献することを求めている。

4 「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(閣議決定)

第一次意見は以上の意見を下に、個別分野ごとに政府に求める今後の取り組みに関する意見をまとめている。この部分は紙幅の関係上詳述できないが、この取り組みに関する意見の部分は、横断的課題で触れた部分も含め、閣議決定の中にほぼ同様の内容として取り入れられている。その内容の大枠は、政府に対して、改革の集中期間内に必要な対応を図るよう、横断的課題の検討過程や次期障害者基本計画の策定時期等も踏まえた改革の工程表を示したものとなっており、事項ごとに関係府省において検討を進め、所要の期間内に結論を得て、必要な措置を講ずるべきであるとするものである。

したがって、この閣議決定も、改革に向けた大枠の工程表を政府全体の意思として示したものとなっている。このような意味で、この閣議決定は、関係各省庁全体にまたがる制度改革の幕を切って落とすものとなり、制度改革はいよいよこれからが正念場を迎えることになったわけである。

Nothing about us without usのスローガンは、障害者の権利条約で示された政策決定過程への当事者参画として息づいている。しかし、この当事者参画を本格的に取り入れた政府の歴史的試みが具体的に実を結ぶには、これからなお多くの時間と障害当事者をはじめとする関係各位のますますの努力が求められることになろう。

(ひがしとしひろ 内閣府障がい者制度改革推進会議担当室長)