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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

第一次意見をどうみるか、第二次意見への補充の要望
―難病患者の立場から―

野原正平

今回の障害者制度改革・総合福祉法制定の動きで一つの大事な節目になる「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」第一次意見(以下:第一次意見)が、さる6月7日に「障がい者制度改革推進会議」(以下:推進会議)から発表された。本稿は、この意見についての難病当事者から見た評価であり、第二次意見集約に向けての補正・補充・要望である。

魅力的なスローガン、方向づけと現実

「私たちを抜きに私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)という障害者権利条約のスローガンは、私たちもかねてから「施策策定過程への当事者の参画は基本的人権」と主張してきた経過があり、この魅力的文言が第一次意見の最初に掲げられたのを見て感銘を受けている。

また、第一次意見は、障害者制度への理念・目標が、権利条約や差別禁止をはじめ世界の進歩的流れを積極的に受け入れようとする意欲が感じられるものであり、その歴史的意義は大きい。

しかし、多くの当事者団体が苦い経験をしてきたように、理念・目標と現実との乖離は避け難いのか、この第一次意見にも存在することを指摘したい。

難病当事者が入らない推進会議の構成

今回の改革の重要なテーマの一つは、「谷間のない障害者制度をどうつくるか」ということである。しかし、これを論議する障がい者制度改革推進会議構成員に、最も谷間で苦しんでいる難病当事者等が入っていないということは、先のスローガンからして理解し難いことである。第一次意見には、難病施策に関して、後述するような事実誤認と誤った評価がされている。Nothing about us without usの本気度が問われるものである。

谷間をつくった原因の究明、自立支援法の二の舞いの懸念

難病や高次脳機能障害、発達障害など、わが国の障害者施策になぜ多くの谷間ができたのか。難病についてみると、第一次意見では70年代に「難病対策要綱」が実施されたことが叙述(第一次意見:32ページ)されているが、前記の問題意識は欠落している。

私たちは長年「難病の総合対策の拡充」を訴えてきた。しかし、国は1.「難病は医療(治療研究)の対象」として狭くとらえ、事実上「福祉の対象」から疎外してきたこと、2.「難病対策要綱」の医学における先進的役割や、不十分ながらもこの分野で行われてきた「福祉的役割」について、長期に放置してきたということが指摘できる。

このまま進めば、十分な実態調査をせず、障害者の意見も十分聴かずに施行し、多くの障害者を傷つけた……この反省を踏まえて、今後の施策・実施に当たる(弁護団と厚労省との基本合意:二―2)とした自立支援法の失敗の二の舞いになる心配はないのか懸念される。

福祉と医療・障害と難病

第一次意見は、今後の個別分野における問題意識として、11項目をあげている。その4項目目の医療についての「問題意識」(第一次意見:20ページ)は、精神の問題に多くを割き、痰の吸引などが注視されているが、医療が生存と生活に切り離せない障害者である難病・慢性疾患問題について言及していない。

病名も分からず、適応する薬もない多くの難病患者・家族がいる。高額の治療費を生涯払い続けなければならず、療養施設の大規模な削減で重介護を家族が背負わざるを得ない地域の現実、重篤患者の入院・入所拒否が一般化している病院や介護施設……地域での生きづらさを強いられている事例が十分な実態調査もされず放置されている。

数千の疾病、数百万人と推定される稀少難病や難病・長期慢性疾患患者の実態が、なぜ推進会議のみなさんの医療の問題意識に上らないのか……理解に苦しむものである。

難病施策に関する事実誤認と誤った評価

第一次意見は、日本の障害者施策の経緯:1980年代から1990年代前半の項で「難病患者等居宅生活支援事業(1997年)の開始により、地域における難病患者等の自立と社会参加の促進が図られるようになった。」(第一次意見:35ページ)と記している。難病患者等居宅生活支援事業が、あたかも他の障害並みに施策を引き上げた画期であったかのような評価である。

しかし、この事業はほとんど患者の支援になっていないというのが現状である。ある県の2009年の報告によると、この事業を実施しているのは33市町中、日常生活用具が最大で19自治体、最小は短期入所10自治体であり、特定疾患の対象者約13,000人が、この事業を利用したのは7件である。これは、全国的な傾向である。とても地域における自立と社会参加の促進の画期という評価とはほど遠いと言わざるを得ない。

第一次意見のこの評価は、現在も多くの難病・慢性疾患患者が、制度の谷間で苦しんでいる事実に目をつぶり、今後の難病・福祉施策の方向性を過たせる危険を内在するものであることを指摘しないわけにはいかない。いくつかの批判的提起をした問題は、裏返せばそれは第二次意見への要望であり、推進会議への期待でもある。

(のはらしょうへい 日本難病・疾病団体協議会(JPA)副代表、総合福祉部会構成員)