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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

発達障害関係からの評価と期待

氏田照子

高次脳機能障害、難病とともに制度の谷間となっていた発達障害は、教育では通常教育と特殊教育の狭間に、福祉では支援制度の谷間に、医療では専門医が不足している分野に、労働では就労制度の谷間におり、司法ではその存在すら知られていなかった。

2004年12月の「発達障害者支援法」の制定により、発達障害者に対する支援は国および地方公共団体の責務と定められ、翌年4月の法律の施行を受けて、ここ数年で発達障害者に対する理解や支援は格段に進展してきたと言えるが、障害者制度の根幹を成す法律に対象として明記されていなかったため、各地域において支援の対象から外されてしまうことが多く、谷間の障害としての苦しさが続いていた。そんな中、推進会議での集中論議を経て、「障害の定義」を制度の谷間を生まない包括的なものとするという合意の下、制度改革の推進のための基本的な方向が打ち出され、権利の主体、差別のない社会づくり、社会モデル、地域生活、共生社会をキーワードに制度改革へと向かう第一次意見が提案され、発達障害関係者もその内容を高く評価しているところである。

自閉症、アスペルガー症候群、その他の広汎性発達障害、LD、ADHDなどの発達障害は、障害が見た目では分かりにくい・数が多い・対応によって大きく変化する「障害(disorder=dis―order 発達の乱れ)」であるが、心理学の分野では、発達性の障害と関係性の障害が織り合わされたものであるとの見方がある。

また、発達的には遅れや偏りがわずかであったり、部分的であったりすると、日常生活を送る上では周囲に発達障害と思われにくく、医療の分野でさえも、時には診断が明確にされにくく、確認が難しいという特性を持っている。そのため、当事者の努力不足や怠け、あるいは親の育て方の問題から生じたと誤解されることが多く、社会的な無理解と当事者の生きる上での困難性だけが蓄積されていってしまいがちで、「見える障害」とはまた別の生きにくさ、難しさをもった障害であると言える。

今回の第一次意見においては、それぞれの個性の差異と多様性の尊重を基本に「社会モデル」的観点からの新たな位置づけや、長年にわたる家族依存から脱却した「地域生活」を可能とするための支援等が基本的な考え方として提唱されており、発達障害についてもさらなる理解と支援の時代を迎えることができると期待している。

なお、年末にかけて取りまとめられる予定である第二次意見については、以下のことを求めたい。

すなわち、制度改革の重要方針を決定するにあたり、第一次意見の「基礎的な課題における改革の方向性」の8項目の中で、6)虐待のない社会づくりが提唱されているが、平成25年に法案提出予定の差別禁止法を見通しつつ、現在、障害児者が置かれている状況からも喫緊の課題である「障害者虐待防止法」の制定を早急にお願いしたい。

また同様に、5)言語・コミュニケーションの保障については、手話、点字、要約筆記等は想定されているが、知的や発達障害など、社会性やコミュニケーションに困難を抱える障害のある人たちがもつ知覚・認知レベルの困難さにも焦点を当てたコミュニケーションの保障ができるよう検討をお願いしたい。

コミュニケーションについては、まず第一に本人たちが理解できることが必要であり、それぞれの障害特性に応じ、必要なコミュニケーション手段がとれることが望ましい。知的や発達障害については、平易な日本語で書かれることや、ピクトグラム、サインなど、本人にとって有効なコミュニケーション手段が保障されるべきである。

また同様に、社会生活を営む上で必要な情報へのアクセシビリティも障害特性への合理的配慮の中で柔軟な支援が展開されて然るべきである。自ら発言ができない人たちの思いが受け止められ、彼らの権利が擁護されなければならない。

また、発達障害の早期支援は大変重要であり、欠かせない。障害者の基本法だからこそ、「予防」という文字を削除するという議論があったと聞くが、医学、特に公衆衛生学の領域では、1.第一次予防(障害の発生予防)、2.第二次予防(早期発見・早期治療)、3.第三次予防(困難性の軽減、リハビリ的活動等)の三つに分けて考えられており、ほとんどの場合で原因が分かっていない発達障害については、1は成り立ちにくく、2と3は成り立つが、特に第二次予防が大切であると考える。

この第二次予防という表現の医学用語の内実を表す福祉的ニュアンスの用語が「早期支援」である。「早期支援」の項目があれば、早期の診断や治療や療育あるいは教育および他の対応も含まれてくるので、それらを今後、考えていく基盤になる。また、この「早期支援」は、国際知的障害学会やアメリカ知的障害学会でも力を入れている支援あるいはサポートという考え方に含まれるものであり、人生の早期から生涯にわたるシームレスな支援が可能となると考える。

家族たちは発達障害という障害をもち、一般の育児書どおりに育ってくれないわが子と困難な日々を過ごしてきた。初めて発達障害児に出会った人が発達障害を理解するのは難しいとよく言われる。それは家族も例外ではなかった。発達障害の本人は、そして家族は、どのようなことに困ったのか、どのように支援されれば解決したのか?そこには発達障害の本人と家族一人ひとりの存在の重要性がある。

“Nothing about us without us”、当事者や家族がメンバーとなった推進会議や総合福祉部会で、彼らの豊かな未来を創りたい。

(うじたてるこ 日本自閉症協会副会長、総合福祉部会構成員)