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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

第一次意見と言語、情報およびコミュニケーション保障について

久松三二

視覚障害者、聴覚障害者、盲ろう者、言語障害者などの完全な社会参加を実現し、真に自立した生活を営む上で重要なのは、「情報とコミュニケーション」のバリアフリー問題である。この「情報とコミュニケーション」の言葉が、第一次意見に盛り込まれた。

「言語・コミュニケーション保障」では、「これまで、手話、点字、要約筆記、指点字等を含めた多様な言語の選択やコミュニケーションの手段を保障することの重要性及び必要性は省みられることが少なかったため、それらの明確な定義を伴う法制度が求められる。」と記載されている。「情報アクセス・コミュニケーション保障」でも、「国及び地方公共団体は、障害者が選択するコミュニケーション手段を使用することができるよう必要な施策を講じなければならない。」とまとめている。

これまでの国や地方公共団体の施策は、自立支援法の下でコミュニケーション支援事業は市町村の必須事業として位置づけられているものの、手話通訳者派遣事業、手話通訳設置事業、要約筆記者派遣事業の三事業のうち一つでも実施していればコミュニケーション支援事業を実施したことになるので、全国の市町村においては未実施が多く、地域間格差の代表的事例として度々指摘されている。また予算措置でも、移動支援事業の総額の10分の1程度という地域が多い。コミュニケーション支援事業への理解が絶対的に不足している中、第一次意見で権利として保障すること、法制度として整備すること、義務として必要な施策を講じることを取りまとめたことの意義は極めて大きく画期的である。

多様な言語、コミュニケーションについて

欧州や米州では「公用語」あるいは「言語」はなじみのある言葉として定着しているが、日本では、日本語は国語として、日本は単一民族国家として教えられているのでなじみがない。欧米諸国は国内に多くの民族語があり、公用語政策上、手話も公用語の一つとして法整備されている国が多い。権利条約の立役者であるドン・マッケイ元議長が、出身国であるニュージーランドの障害者制度の特徴を「手話言語法(06年制定)」であると明言したように、その国の障害者施策を語る上で手話言語法の制定を大きな特徴としてあげることができる。

日本ではろう学校が「口話法」を採用し「手話」を排除したために、「手話」は「手真似(てまね)」と呼ばれ蔑まれていた時代が長く続いた。手話を言語として認知し、国語(日本語)と同じように法制度(公用語政策)を整備することが、今後の大きな課題になる。

権利条約の政府仮訳ではコミュニケーションは「意思疎通」と訳されているが、本来は意思の伝え合い、双方向性という性格を持ち、この特徴を理解しないと、手話通訳はろう者の支援に必要なだけではなく、ろう者とコミュニケーションをする相手にも必要なのだとの意識を持つことが難しい。欧米ではその特徴をよく理解しているので、裁判所、病院、学校など公的機関には手話通訳が配置されている。

また、聞こえにくい人のコミュニケーション手段は、聞こえの度合い、聞こえにくくなった時期によりさまざまであること、見えにくい人も同様に、見えなくなった時期、見え方の度合いにより点字、拡大文字、あるいは拡大機器を必要とするのかさまざまである。盲ろう者に至っては、一人ひとりコミュニケーション手段が異なることを理解している人は少ない。このように、多様な言語、多様なコミュニケーションがあり、それを必要とする人がいることを理解することが大切である。

第二次意見への期待と私たちの運動

今後、障害者基本法の総則にて、権利条約にあるように言語やコミュニケーションの定義を盛り込み、自ら必要とする言語やコミュニケーション手段を選択できないことは合理的配慮をしないこと、すなわち「差別」であることを明記する必要がある。

障害者基本法、差別禁止法を含めた法制度の整備の際に、ろう者、難聴者の場合に限れば、(1)手話の言語定義化、日本語と同等の地位(公用語)の獲得、(2)生活の場で使用するコミュニケーション手段の定義化、(3)言語およびコミュニケーション手段の選択権、(4)言語およびコミュニケーションの形態、手段、様式による情報の保障と、政治、司法、選挙、医療、生活、教育、放送等あらゆる場面での必要な情報およびコミュニケーションの保障、(5)通訳士(手話・筆記)資格の国家資格レベルへの格上げ、(6)専門性が求められる分野での通訳業務は通訳士(手話・筆記)の独占業務化、(7)市町村レベルでの通訳養成、通訳派遣、通訳設置の義務化、(8)手話言語文化の啓発活動、などが第二次意見に反映されることを期待したい。

情報・コミュニケーションに関する法制度の整備は、ろう者や難聴者、盲ろう者だけでなく、視覚障害者、知的障害者や発達障害者にも必要である。権利条約に明記されている情報アクセス権や平等に情報サービスを受ける権利は、障害者全体の権利として広く認知されなければならない。分かりやすく伝える、分かりやすい言葉を用いる、図記号を使用してコミュニケーションの円滑化を図ることも情報提供に必要なことであり、国民の権利として認識されるようにしなければならない。そのためには第二次意見に向けて積極的に提言することはもちろんのこと、広く国民に理解してもらう必要があり、障害当事者である私たちが運動の力で啓発活動を推進していくことが大切である。障害者制度改革は国民の理解、協力があって大きく推進し実現できるのであるから。

(ひさまつみつじ 全日本ろうあ連盟常任理事・事務局長、推進会議構成員)