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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

障がい者制度改革推進会議
―当事者参加と運営―

崔栄繁

1 障がい者制度改革推進会議と当事者参加

2010年1月12日、第1回目となる障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)が開催された。推進会議は、障害者権利条約(以下、権利条約)批准のための法制度改革を一定期間内に集中的に進めるための検討を行う機関として内閣府に設置されたもので、8月9日までに4時間以上の会議が18回開催され、精力的な議論を行ってきた。そこでの議論を受けてまとめられた第一次意見がベースとなり、6月29日には「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」が閣議決定され、障害者に関する制度改革の一定の方向性が示されたのである。今後は、今年末に第二次意見の取りまとめ、障害者基本法の抜本改正の議論、差別禁止法への本格的議論などが行われる予定である。

推進会議には、政府の公式の会議としてはこれまでに無い「新しい形」をみることができる。まず、構成員である(正式には構成員であるが、会議進行上は委員と呼称・編集部注)。オブザーバーを含め構成員25人中、14人が障害当事者あるいは関係者であり、障害者権利条約(以下、権利条約)に関する取り組みを行ってきた人が中心になっている。

また、会議での議論のベースとなったのは、推進会議の担当室長として民間から内閣府に入府した東俊裕氏が作成した「制度改革推進会議の進め方(大枠の議論のための論点表)たたき台」であった。これまでの各省庁の官僚が実質的に審議会を主導するスタイルではない。

しかし、推進会議が今までにない当事者参画の「新しい形」であるとはいえ、1回4時間以上の会議となると、これは、特に障害をもつ委員や傍聴者などにとって大変なことである。介助体制、情報保障、資料準備、議事進行など、「障害のない人と平等に」会議に参加するためのさまざまな配慮などが必要となる。これらがしっかりとなされなければ、形式的な参加に終わってしまうことになる。特に、障害当事者が参加主体となり、障害者の制度改革について議論する「場」である推進会議におけるこのような実質的な参加保障のあり方は、今後、さまざまな面で影響を及ぼすこととなる。

そこで本稿では、障害当事者の実質的参加と情報公開を支える推進会議の運営上の配慮等について紹介し、意義と今後の課題を整理することとする。

2 推進会議における障害者への配慮

(1)当事者委員

推進会議では、肢体障害者、視覚障害者、聴覚障害者、精神障害者、知的障害者、盲ろう者が構成員として活動している。今現在、そうした障害をもつ委員を支えるために、どのような体制がとられているのだろうか。以下、「介助等」と「情報保障」、「会議進行上の配慮」というように分けてみた。もちろんすべてがこの3つの類型にすっきり分けられるものではなく、重なり合う部分もあるが、ここでは便宜上、大きく3類型に分けて整理してみたい。

また、ここで挙げる支援の例はすべて政府が行っていることではない。昨年9月の政権交代によって生まれた推進会議の運用のための予算立ては当然なされてなかったため、予算面の制約は大変大きく、当事者や団体が自ら行っているものもある。今後の課題として後述する。

1.介助等

身辺介助、移動介助等を行う介助者がまず必要である。基本的に身辺介助が必要な委員は介助者を付けている。中には複数の介助者を付けている委員もいる。この場合は、重度の障害をもち、身辺介助とともに記録などを行っているようである。肢体障害の方以外にも視覚障害の委員の場合は移動介助者としてガイドヘルパーが付いている。そして「支援者」である。知的障害をもつ委員には支援者が付いており、会議の記録や資料の整理、会議場への同行などを行っている。

また、推進会議で見られるのが「会議支援者」ともいうべき支援者がいることである。支援者や介助者との明確な区別は難しいが、たとえば、ろう者の委員には手話通訳者の他に2人の会議支援者が委員の両脇に座って、委員への資料の指差しや会場の様子を伝えることなどを行っている。ろう者は、音声言語で話されている間は手話通訳者から目を話すことはできず、目を離すと議論の内容がわからなくなってしまうため、別個、資料の指差し等が必要なのである。

2.情報保障

情報保障は、言うまでもなく自己の意見表明や、他者とのコミュニケーションを保障するという点で、障害者の社会参加の上で最も大切なことの一つである。

まず、ろうの方への手話通訳者と難聴の方への要約筆記者が2人ずつ配置されている。また、パソコン要約筆記があり、スクリーンに要約筆記の文章が映し出され、難聴者が見られるようになっている。また、ろう者の委員は小型のモニターを持ち込み、推進会議を生中継しているCS障害者統一機構の「目で聴くテレビ」の映像を見ながら、全体の会議進行の把握等を行っている。これについては後述する。

盲ろう者の委員には「通訳・介助員」が2人付いている。推進会議の盲ろう者の委員は、通訳・介助員の指点字で情報を得るが、この通訳・介助員は、情報保障以外に会場までの同行などの移動介助なども行っている

また、会議資料については、視覚障害者と盲ろう者の委員には点字資料を配布し、知的障害をもつ委員には、ルビつきの資料を配布している。

3.会議進行上の配慮

推進会議では、議論を進める上でさまざまな約束事をした。まず、意見を言う時は手を挙げて名前を言ってから分かりやすい言葉を使って意見表明をする、ということであり、会議の中でも何度も確認された。これは、情報保障が必要な障害をもつ方、知的障害をもつ方に特に大切な約束事である。委員の方々は、この約束事を守るために努力はされているが、なかなかそう簡単に守ることはできないようである。

そうした時のためのルールもできた。知的障害をもつ委員が、レッドカード・イエローカード、ブルーカードを出して、会議の進行を途中で止め、分かりやすい表現に言い直してもらったりする「カードルール」である。

【土本委員と三色カード】という写真をご覧いただきたい。写真の男性が土本委員で知的障害をおもちだ。向かって左のカードには「ストップしてください」(赤。レッドカード)、真ん中のカードには、「もうすこしゆっくりわかりやすく」(黄色。イエローカード)とあり、ちょっと待ってという意味でパーの手となっている。向かって一番右は「どういします わかります」というカード(青。ブルーカード)で、指がグッドサインを出している。土本委員がこれらのカードを挙げると、会議の進行が止まったりするのである。

このカードルールは、国際的な知的障害者団体等ではすでに使われているそうだが、日本の政府の会議としては初めて導入したものとなる。

(2)公開、その他

次に、推進会議の公開に関連して行われている配慮を紹介したい。政府の会議は公開が原則であるが、「公開」のレベルもいろいろあるようだ。傍聴、議事録、新政権の「事業仕分け」の際に一般化した会議インターネット中継による公開などがある。

ここで、推進会議のインターネットのオン・デマンド中継放送と生中継について少し説明したい。映像作成者はCS障害者放送統一機構である。ここは、1995年の阪神大震災の教訓から、聴覚障害者団体である全日本ろうあ連盟や全日本難聴者・中途失聴者団体連合会などが中心となって作った聴覚障害者向けのCS放送で、「目で聴くテレビ」という手話や字幕付きのCSテレビ放送を行っている。推進会議については、内閣府が、会議の公開の次元でインターネットのオン・デマンド放送を行っており、会議の議事録が出るまでの期間、公開される。CS障害者放送統一機構は同じ映像を「目で聴くテレビ」で生中継をしている。生中継自体は内閣府が行っているのではない。

この放送画面に大きな特徴がある。通常のテレビ放送の手話ニュースや字幕付き放送のものと比べ、手話の画面と字幕が画面全体から見てとても大きくなっており、聴覚障害者が「目で聴き」やすくなっている。

こうした取り組みは、内閣府と全日本ろうあ連盟などの当事者団体、CS障害者放送統一機構が話し合いを重ねて実現したもので、当事者の声を内閣府が受け止めた、ということである。もちろん、政府が行う会議の公開という次元でのインターネット放送としては、初めてのことである。

その他、注目すべきこととして、傍聴者への配慮があげられる。推進会議には障害当事者も大きな関心を持っており、毎回、障害当事者の傍聴者も多い。そこで、生中継中の画面を傍聴者で聴覚障害のある方が見ることができるように、大きなテレビ画面モニターを内閣府の了解の下で団体側が持ち込んでいる。また、難聴者の傍聴者については、難聴の委員のためにスクリーンに映し出されるパソコン要約筆記を一緒に見られるように、傍聴者席の位置が配慮されている。

3 意義と課題

以上、推進会議におけるさまざまな配慮を紹介した。まずは、政府の次元で、ここまでのさまざまな配慮を行っていることについては、障害当事者・関係団体の取り組みと、それらの声をきちんと受け止めてきた内閣府を高く評価したい。日本政府の次元では初めて、ということも多く、まさに、障害当事者と政府が手探りをしながら作り上げている印象がある。政府の会議でこうした取り組みは大変意義のあることであり、推進会議の下に設置された部会や今後設置される部会はもちろん、他の省庁や関係機関の会議、さらに、民間のさまざまな会議等にも影響を及ぼすことができるであろう。

今後の課題としては、どこまでだれが責任を持つのかなどの整理が必要である。前述の通り、現在は内閣府が行っているものもあれば、団体などが行っているものもある。どこまで公的にやるべきか、今後、さらに行うべき配慮は何か、などの精査を、政府、障害当事者、関係者すべてが責任を持って一緒に行わなければならない。推進会議の取り組みを社会に広く伝えていくためには、きちんとした指針やルールを作り上げていかなければ困難である。

権利条約が規定する「完全かつ効果的な参加」「アクセシビリティ」「表現や意見の自由と情報アクセス」を実現するための「合理的配慮」をどのように行うのか。まさに推進会議は、権利条約がめざす社会を実現するための議論の「場」であるとともに、めざす「社会」の姿そのものを写しだす「場」でもあるといえよう。

(さいたかのり DPI日本会議、JDF条約小委員会事務局)