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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

ワールドナウ

ESCAP専門家・関係者会議参加報告

寺島彰

2010年6月23日(水)~25日(金)にわたり、ESCAP専門家・関係者会議が、タイ・バンコクの国連会議センターで開催され、日本障害フォーラム(JDF)の代表として参加したので報告する。

この会議は、正式には、「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012:びわこミレニアム・フレームワーク)の実施状況評価に関する専門家・関係者会議」(以下、専門家・関係者会議)という。

2010年5月10日のESCAP総会(Commission Session)で「『第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)の実施状況の最終評価のためのハイレベル政府間会合(以下、ハイレベル政府間会合)』の開催に向けた準備に関する決議(決議66/11)」が行われたが、その内容は、1.ハイレベル政府間会合を2012年に韓国政府の主催で開催する、2.加盟各国や主要関係者がその準備に積極的に貢献するよう要請する、3.ESCAP事務局がアジア太平洋地域の障害者団体を含む主要な関係者に準備過程への参画を促すよう努力する、というものであった。

この専門家・関係者会議は、この決議を受けて、ハイレベル政府間会合に向けた準備作業の第一段階として位置づけられている。この会議の結果は報告書にまとめられ、2010年10月19日から21日まで、バンコクで開催されるESCAPの社会開発委員会(第2会期)に提出される。同委員会は、この専門家・関係者会議のレポートを参考にしながら、ハイレベル政府間会合に提案するための準備をする。

この専門家・関係者会議の参加者は、ESCAP加盟国・準加盟国の政府および国際NGO等からの専門家32人、国連等の国際機関から10人、オブザーバー46人、事務局員15人が参加した。日本からは、日本政府および日本の国際NGO等の代表者など、専門家9人、オブザーバー10人が参加した。参加者の所属団体名を表1に示す。

表1 日本の参加者の所属団体

アジア太平洋障害者センター(APCD)、アジア太平洋障害フォーラム(APDF)、アジア・ディスアビリティー・インスティテート(ADI)、インクルージョン・インターナショナル(II)アジア太平洋地域、国際協力機構(JICA)、在タイ日本大使館、ディスアビリティ・ピープル・インターナショナル(DPI)アジア太平洋地域、デイジー・コンソーシアム、内閣府障がい者制度改革推進会議担当室、日本財団、日本障害者リハビリテーション協会(JSRPD)、日本障害フォーラム(JDF)、ワールド・ビジョン・インターナショナル

この会議の目的は、1.アジア太平洋障害者の十年(2003~2012)でなし得たこと、挑戦したこと、学んだことを評価すること、2.アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)の実施に関する最終評価に関するハイレベル政府間会合の準備を進めるための方法を明確にすることの2つであった。

会議の日程は、表2のとおりであった。3日間に7つの議題を議論したが、中心となった議題は、議題4「第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)の達成状況の評価と残された課題」、議題5「2012年ハイレベル政府間会合において開始するアジア太平洋の障害者に関する調査の現状での輪郭の検討」、議題6「『2012年を超えて(ポスト2012年)』による提案の検討」の3つであった。それぞれについて議論され、まとめられたことを紹介する。

表2 会議日程

6月23日(水)

09:30―10:00
議題1~2 開会、議題採択、自己紹介、会議の目的提示(発表:スリニバス・タタ社会開発部社会統合課課長)
議題3 第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)の実施状況の最終評価に向けたプロセスについて確認(発表者:ナンダ・クラリクシESCAP社会開発部長)
討議
10:30―12:30
議題4 第2次アジア太平洋障害者の十年(2003―2012)のこれまでの達成状況の評価と残された課題(発表者:秋山愛子社会開発部社会問題専門官)
討議
14:00―16:30
議題4 (討議継続)

6月24日(木)

09:30―12:00
議題5 2012年ハイレベル政府間会合において開始するアジア太平洋の障害者に関する調査の現状での輪郭の検討(発表者:ジョージ・カリロ・ロドリゲス社会開発部社会政策・人口課担当官)
討議
13:30―16:00
議題6 「2012年を超えて(ポスト2012年)」による提案の検討
16:00―16:30 小グループ討議の報告

6月25日(金)

10:00―14:00
議題7 会議報告の採択
閉会

1 議題4・第2次アジア太平洋障害者の十年の達成状況の評価と残された課題

(1)達成したこと

「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」および「びわこプラスファイブ(BMF+5)」により多くのことが成し遂げられた。特に発展した分野は、次のとおりである。

  • 障害者のエンパワメントと権利を強化する施策が強化された。
  • 権利ベースおよび社会モデルアプローチにおける大きな政策的発展があった。
  • データの収集力が向上した。
  • 障害者を含むインクルーシブな開発に関心が高まった。

(2)残された課題

しかし、依然として、次のような多くの課題が残されている。

  • 障害の多様性についての認識を明確にすること。
  • 特に地方や田舎において、障害女性と障害児の問題があることを明確にすること。
  • 国内法を障害者権利条約と調和のとれたものにすること。
  • 障害者団体の能力を高め、政策決定に障害者を効果的に参画させること。
  • データ収集と調査を充実させること。
  • すべての開発領域において障害者をメインストリーミングにすること。
  • これまでの2回のアジア太平洋障害者の十年における実施およびモニタリングにおけるギャップを明らかにすること。
  • 障害者権利条約を含む既存の実施課題を全面的、確実かつ速やかに実施すること。
  • 民間活力を活用すること。
  • 市民団体と開発協力団体の活動に障害の視点を含むよう働きかけること。
  • アジア太平洋地域の多様性に最大限に対応するために、サブ地域のメカニズムを開発し、利用すること。
  • 新技術の最大限の活用。
  • ネットワーク、パートナーシップと多部門の協力を強化すること。

2 議題5.2012年ハイレベル政府間会合で開始するアジア太平洋の障害者に関する調査の検討

この調査は、ハイベレル政府間会合に提案することを予定しており、調査目的は、障害者の声を聞き、政策策定と遂行の過程に反映させることである。調査の主な焦点は、障害者の幸福と生活であり、障害者が調査設計と実施を参加・支援して開発するというボトムアップアプローチと参画調査法を用いることで、障害者が政策立案と政策決定に参画し、効果的な影響を与えられることにより障害者をエンパワーすることも目的としている。

また、研究に必要なデータや情報を提供するという政府の積極的な参加の重要性も強調された。域内の障害者が直面するバリアに関する調査により、いろいろなギャップが明確になることが期待されている。

専門家・関係者会議は、この調査に賛同し、多くの障害者団体は率先して協力していくことを表明した。具体的には、被調査者の選定、質問項目作成、すべての障害者がアクセスできる言語や形式でガイドラインを作成することなどである。また、域内調査の準備について、貢献および支援できることも表明した。

また、専門家は、この調査がエビデンスベースであるため、国家レベルにおける権利擁護に役立つこと、域内の国々の政策の発展を直接支援することができること、また、世界の他の地域のよい実践例となりうると評価した。さらに、一部の専門家は、調査結果を、新しい障害者の十年の開始にあたってベンチマークとして使うよう勧めた。

また、研究の設計と実施、結果の公表において事務局を支援することも申し出た。さらに、調査結果を、さまざまな当事者のニーズに合わせて加工し、効果的に普及させる戦略を開発することが重要であり、特に、調査結果は、障害者と共有する必要があることが強調された。また、各国の関連調査の経験に基づき、調査を構築することの重要性も強調された。

3 議題6・『2012年を超えて(ポスト2012年)』による提案の検討

障害者の権利を進める重要な進展があった一方で、多様な障害者の完全なインクルージョンを達成するためには、さらに多くの行動が必要であることから、専門家・関係者会議は、アジア太平洋地域において新しい十年を宣言することに対して強い支持を表明した。そして、新しい十年の目的と主要な焦点として、以下のものを提案した。

  • 障害者の権利とニーズ、良い実践に関して、地域および国際的な協力を促進すること。
  • 障害者の権利に関して、アジア太平洋における権利条約の批准、調和と履行を速めること。
  • アジア太平洋のすべての地域で、権利条約の履行を促進すること。
  • 開発のプライオリティーとして障害者のインクルージョンに強い国家的関心を保つこと。
  • 政策決定、自己決定、人間中心の開発において多様な障害者の参加を増やすために、人の態度、物理的、制度的バリアを取り除くこと。
  • 障害のインクルーシブ開発のマルチセクターによる実施と継続性のために資源分配を強化すること。
  • 測定可能な指標を用いて、十年進展を国家および地域レベルで追跡できるようにすること。
  • 多様な障害者グループのためのサービスを改善すること。

また、新しい十年における戦略的要素を検討し、次の提案を行った。

  • エビデンスベースの研究調査結果を反映すること。
  • 障害者権利条約の精神と意図を体現すること。
  • 新しい十年の行動においては、男女の平等およびこれまでメインストリーミング政策・制度から排除されてきたすべての障害者とその家族のグループのインクルージョンを強調すること。これらの障害者には、ろう者、盲ろう者、重複障害者、知的障害者、その家族、精神障害者、高次脳機能障害者、難病者、自閉症者、女性障害者、障害児が含まれる。
  • 実際の結果が得られる具体的かつ実践的な実施を支援すること。
  • 障害者を保護する差別禁止法の発布、実施、評価を促進すること。
  • 障害のインクルーシブ開発のための変化を促すためのマルチセクター、広範な当事者および草の根の参加を促進すること。
  • 多くの資源分配を持続できるよう強化すること。これには、障害に敏感に予算を組むこと、企業の社会的責任の流動化を含む。
  • 新十年に関して、すべてのプロセスにおいて障害者組織の役割に焦点を当てること。
  • 障害者の能力開発を促進すること。
  • より強力でインクルーシブなコミュニティーベースの開発とリハビリテーションに対するニーズを明らかにすること。
  • 消費者主導、地域に密着したサービス提供と自立生活の社会的モデルへのパラダイム移動を強化すること。
  • 地域に密着した消費者主導の効果的なサービス提供とエンパワメントのための多様なアプローチを尊重すること。
  • 社会変革のための道具として、アクセシブルなICTの使用を取り入れること。
  • サブ地域の機能を活用すること。これには、十年の実施のためのESCAPの地域事務所を含む。

(てらしまあきら 日本障害フォーラム国際委員長・浦和大学教授)