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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年9月号

ブックガイド

知的障害や自閉症等の人たちも楽しめるわかりやすく書かれた本

藤澤和子

文字が読めない、読んだ内容が十分に理解できない人でも、読書を楽しめる本の紹介です。主な対象は、知的障害、自閉症、読み書き障害、失語症、高齢者の人などですが、だれにでもわかりやすい本として、日本語を学習中の外国人にも良い本だと思います。

このような本は、LLブックと呼ばれています。LLとは、スウェーデン語のLättlästの省略で、日本語では「やさしく読める」という意味です。わかりやすいと言っても、幼児子ども向けのものではありません。大人の興味のある内容をわかりやすく書いた本です。

日本に現在あるLLブックは、翻訳を含めて74冊でした(近畿視覚障害者情報サービス研究協議会の調査結果、2008)。残念ながら、多いとはいえない数でしたが、問題意識をもって先駆的に作られた本には、わかりやすさをサポートしようとする意志を感じます。

サポートの方法はいろいろあります。写真やイラストを中心に掲載された本、文字の読みを援助するために単語を少し抽象的な絵柄で表したシンボルを付けた本、音声とテキストと画像を同期させてパソコンで見ることができるマルチメディアDAISYを付けた本、漢字にルビを付け、わかりやすいことばを使って書かれた本等です。ご本人たちに人気のあるお勧めの本を紹介します。

料理の本

全日本手をつなぐ育成会の自立支援ハンドブックの中に、主に写真だけで構成された料理の本が4冊あります。その中の1つ、『ぼなぺてぃ(料理の本)』(630円)は、1つずつの手順が9コマ~12コマの写真で表現されています。おかゆ、ざるそば、おちゃづけ、おむすび、ゆでたまごのサラダ等、日常的に食べられて、簡単に調理ができる21種類のメニューで構成されています。この料理シリーズは、障害のある人に限らず、料理の好きな人にも苦手な人にも、日本食を学ぼうとされる外国人にも便利で楽しい本です。

ラブストーリー

思春期に入ると、だれしもが異性に関心をもち、恋にあこがれます。胸がキュンとするラブストーリーが読みたくなるのは、だれしも同じではないでしょうか。

赤いハイヒール』(ビョーン・アーベリン著、中村冬美訳、(財)日本障害者リハビリテーション協会、1500円)は、スウェーデンのLLブックを翻訳した本で、マルチメディアDAISYも付いています。通学のバスでいつも会う素敵な男性。アンネリーの心はときめきます。母親に買ってもらった誕生日プレゼントのサンダルを母親に黙って赤いハイヒールに交換します。それを履いて彼とデートし、恋に落ちます。母親は、彼女が大人の女性に成長していることを知ります。恋心が美しい写真で伝わってきます。

障害のある人の生活を描いた本

知的障害や自閉症、肢体不自由のある人たちを主人公にしてデイセンターやグループホームでの生活や余暇活動を描いた本です。

スウェーデンのLLブックを翻訳した『山頂に向かって』(藤澤和子監修、寺尾三郎訳、愛育社、1500円)は、約10人の知的障害の人たちが登山をした3日間のお話です。私がぜひ日本で紹介したいと思った理由は、文字の理解をサポートするシンボルが付いていたこと、登場人物の描き方がとても自然だったからです。障害があっても負けずにがんばる障害者、天使のように無垢でかわいい障害児、障害のある人は、このような描かれ方をされることがあります。障害者も私たちと同じように、人との関係で悩んだり喜んだり、楽しいことが好きで、嫌なことはやりたくなかったりします。そんな当たり前の姿が、この本にありました。そして、何よりスウェーデンの自然が写真できれいに表現されています。

ひろみとまゆこの2人だけのがいしゅつ―バスにのってまちまで―』(大阪府立金剛コロニー監修、清風堂書店、1000円)は、施設に暮らす2人が楽しみにしている外出でのやりとりや出来事が、写真と絵とシンボルとわかりやすい文章で描かれています。この本は、お2人の外出の体験談を基にお話が作られ、ご本人が描かれた絵が使われています。

本人が暮らし方を学ぶ

育成会の自立支援ハンドブックのシリーズで、暮らし方を学ぶための本が12冊出版されています。住まい、仕事、食生活、経済生活等の仕方が、イラスト入りでわかりやすく書かれた『ひとりだち』等があります。また、Sプランニングから、『グループホームで暮らす』等も出版されています。その中で、今絶版になっている『いや』(育成会、630円)は、最も印象が強かった本です。「いや」と言いにくい時もあるけれど、「いや」とはっきり伝えようね!ということが、地域で暮らしたい願い、悪党商法、身近な人からの性的被害や乗り物での痴漢行為、友達関係の5つのエピソードで綴られています。これらはどれも実話が基になっているそうです。ミミという知的障害の女性の心の動きが、絵と簡潔な文章で、手に取るように伝わってきます。

わかりやすい新聞

育成会が発行している「ステージ」(季刊)という新聞があります。社会的、文化的なトピックスや障害者に関わる話題等が、写真や絵やルビが振られたわかりやすい文章で書かれています。ご本人たち、新聞記者、福祉関係者等によって編集されています。15年目を迎えた2010年度からよりわかりやすいようにリニューアルされ、有料でだれでも直接申し込めるようになりました。育成会HPよりお申し込みできます。

最後に、LLブックを初めて日本で紹介した『LLブックを届ける―やさしく読める本を知的障害・自閉症のある読者へ』(藤澤和子、服部敦司編、読書工房、2400円)には、LLブックの特徴や活用事例等が書かれていますので、合わせてお読みください。

(ふじさわかずこ 京都府立南山養護学校教諭)