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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

総論・障害のある人の地域生活と防災

水村容子

1 はじめに

近年、高齢者施設・グループホームにおいて犠牲者を伴う火災が発生している。2010年3月の札幌のグループホーム火災では7人、2009年3月の群馬県の高齢者施設火災では10人、2008年6月の神奈川県の障害者グループホーム火災では3人が犠牲となった。また同年12月には、福島県の小規模多機能型居宅介護施設においても火災が発生し2人が死亡している。こうした地域居住の受け皿である施設・グループホーム等の火災事故が認識されるようになったのは、2006年、長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災事故からであるように記憶している。

本稿では、このような火災事故を巡る動きを通して、障害のある人の地域生活と防災について考察していきたい。

2 グループホーム火災と消防法の改正

まずは、一般的な火災の発生状況についておさえておきたい。総務省の消防統計によるとこの数年、火災による死亡者は年間2,000人前後にも上っている。平成21年の火災による死亡者は1,877人(前年度より92人減少)、そのうち「住宅」での火災で亡くなっている者は5割強(平成21年度実数1,023人)程度、さらにその6割が高齢者(平成21年度実数628人)である。死亡の原因は「逃げ遅れ」が多い。生活の拠点である住宅で、心身機能が低下している人が逃げ遅れて死亡するケースがほとんどである。

前述したグループホームや小規模施設における火災事故の共通点として、夜間あるいは未明の出火による点があげられる。出火原因は失火・放火などさまざまであるが、居住者が眠りについた時間帯の火災であったことが、犠牲者まで出す被害につながった大きな要因であろう。

では、火災は実際にはどのような経緯で発生したのか。「認知症高齢者グループホーム等における防火安全対策検討会」(委員長:室崎益輝・独立行政法人消防研究所理事長)の報告等によると、長崎県のグループホーム火災の経緯は以下の通りである。

1.1月某日午前2時ごろ、職員休憩室で就寝していた職員が何か燃える音で目を覚まし共用室のドアを開けたところ、共用室の室内に火災が発生していた。

2.粉末消火器で消火を試みたが断念、グループホームの南側勝手口から、助けを求めるために西側の県道へ向かった。

3.通りがかりのトラック運転手に通報を依頼。その後、職員はホームへ戻ったが、火の手があがり建物に侵入できなかったため、通報により駆けつけた機動隊員とともにガラス窓を割り、4人の入居者を救出した。

4.消防隊は、4人の救出直後、午前2時45分に現地へ到着、消火活動を開始した。明け方5時に鎮火。

5.4人の入居者はそれぞれ居室内で焼死。もう一人は共用室で焼死していた。また、最初に救出された4人のうち2人は一酸化炭素中毒のため病院で死亡。ほとんどの入居者が居室で亡くなっていることから、逃げる間もなく一酸化炭素中毒で意識を失い焼死したものと推測される。

6.このグループホームの施錠の状況に関しては不明。

7.火元は共用室のソファまたはその付近のゴミ箱であり、火災原因として、タバコによる失火またはライターによる着火が考えられる。喫煙習慣のある居住者は2人ほどいた。

また、この火災が大惨事となった要因としては、火元と考えられるソファが防炎加工品ではなかったこと、居室の外部に面する開口部が避難や救助活動が迅速に行える掃き出し窓でなかったこと、火災報知機やスプリンクラーが設置されていなかったこと、住宅地から離れた立地であったこと、消火栓が近くになかったこと、などの点があげられた。

本稿は、この火災事故を検証するものではない。しかし、こうした記録からは、今後の防火安全対策のための貴重な知見が得られるものであるし、実際にこの火災事故を受けて、2009年4月に消防法が改正された。

次に、消防法改正の内容について確認したい。

改正の内容としては、グループホームや小規模多機能型居宅介護施設などの1.消防法区分(表1)、2.防火管理体制(表2)、3.消防設備(表3)の変更があげられる。

改正消防法における、各福祉施設の区分は表1にまとめた通りである。消防法では、この区分によって義務付けられる防火管理体制や消防設備が異なる。改正前の時点では、認知症高齢者グループホームは、表1の(5)項ロおよび(6)項ロのいずれに属するか明らかではなく、消防署によって判断が分かれていた。しかしながら、改正後に(6)項ロは、(6)項ロおよび(6)項ハに分離され、(6)項ロは「主として障害の程度が重い者(自力避難困難者)が入居する施設」、(6)項ハは「それ以外の入居施設や通所施設」が該当することになった。改正により、認知症グループホームは区分(6)項ロに、さらには小規模多機能型居宅介護施設は区分(6)項ハに属することになった。

表1 消防法区分

(5)項イ 旅館、ホテル、宿泊所、その他これに類するもの
(5)項ロ 寄宿舎、下宿または共同住宅
(6)項イ 病院、診療所または助産所
(6)項ロ 老人短期入所施設 養護老人ホーム 特別養護老人ホーム 介護老人保健施設 有料老人ホーム(主として要介護状態にある者を入居させるものに限る) 認知症高齢者グループホーム
(6)項ハ 老人デイサービスセンターなどの通所系サービス 軽費老人ホーム 有料老人ホーム(主として要介護状態にある者を入居させるものを除く) 小規模多機能型居宅介護
(16)項イ 複合用途の建物等(複合用途防火対象物のうち、その一部が(1)~(4)項、(5)項イ、(6)項または(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの)

次に、各区分ごとの防火管理体制は表2に示した通りである。改正前の法律では、防火管理者の選任が必要となるのは「収容人数は30名以上」であったが、改正に伴い、グループホームが属することになった(6)項ロでは「収容人数10名以上」に強化されることになった。防火管理者に専任された者は、防火管理者資格講習を受講した上で、施設の実態に応じた消防計画の作成、消火訓練や避難訓練の実施、防火教育の実施、日常の火気管理の徹底、消防用設備等の維持管理を行うことになる。

表2 消防法区分と防火管理体制

  (6)項ロ
(認知症高齢者GH)
(6)項ハ
(小規模多機能型居宅介護)
防火管理者の選任
消防計画の作成・提出
収容人員10人以上 収容人員30人以上
消防設備等点検報告 1年1回義務付け 3年1回義務付け
防炎物品の採用 すべての施設が対象 延床面積150m以上

さらに、各区分ごとの消防設備設置基準は表3に示した通りである。法改正後、区分(6)項ロに該当する施設では、消火設備と警報設備の設置義務の範囲が拡大した。自動火災報知設備、火災通報装置、消火器は床面積によらずすべての施設に設置しなければならないことになった。また、スプリンクラー設備は延床面積275平方メートル以上の場合が該当するが、建物の位置、構造、設備等の状況に応じて設置が免除される場合もある。

表3 消防法区分と消防設備

  (6)項ロ
(認知症高齢者GH)
(6)項ハ
(小規模多機能型居宅介護)
誘導灯 すべての施設に設置 すべての施設に設置
消火器 すべての施設に設置 150m以上
自動火災報知設備 すべての施設に設置 300m以上
消防機関に通報する火災報知設備 すべての施設に設置 500m以上
スプリンクラー 275m以上
(1,000m未満は特例あり)
6,000m以上

法改正の概略は以上の通りであるが、この法改正の内容および対応に関して、現場では混乱が生じた。その混乱のほとんどは、本来「地域居住の受け皿」もしくは「援助を行う小規模な住まい」としての位置付けであった「グループホーム」が、消防法上で「施設」として扱われることになった点に起因する。本稿はその詳細を述べるものではないが、生活空間としての豊かさと安全性は相反するものであってはならないはずだ。たとえ法改正直後の過渡期の混乱であっても、地域で平穏に暮らしている人々の生活を脅かすことは避けなければならない。

3 居住の場に求められる条件

では、防火安全のためにはどのような対策があるのだろうか?一般的に、防火安全対策には、1.出火対策、2.延焼対策、3.避難対策、の3つの段階があると言われている。その内容は以下の通りである。

1.出火対策:火気管理を行うとともに整理整頓を心がけ出火の防止に努めること。生活の場においては、特に調理や喫煙への配慮が重要である。

2.延焼対策:火災が発生した際に、その事実を早期に発見し、初期消火を行い延焼防止に努めること。自動火災報知設備や消火器、スプリンクラーなどの消防設備のほか、火や煙を一定の区画内に閉じ込めるような建築的な配慮(防煙区画、防火区画)、消火訓練などが該当する。防炎物品や防炎製品なども延焼拡大を抑制する。

3.避難対策:早期に火災を発見し、速やかに避難を行うこと。自動火災報知設備や消防に通報する火災通報装置、誘導灯などの消防設備、二方向避難や排煙設備、明快な空間構成、バルコニー設置などの建築的配慮、避難訓練などが該当する。

1の出火対策および2の延焼対策ともに、居住者の障害の有無にかかわらず、取るべき対応は共通している。喫煙後、調理後の平素からの火気の後始末、延焼対策としての火災報知設備や消火器の設置、日常生活用品における防炎物品・製品の利用などである。

一方、3の避難対策に関しては、障害の有無、特に移動の自立度やその方法の違いによって対応が異なってくる。必要な配慮は、避難しやすい空間の確保および避難時の人的なサポートの確保に集約できる。

一般に、避難しやすさを考慮した空間の必要条件は、明快な空間構成であること、さらには二方向避難経路が確保されていることがあげられる。日常生活を過ごす住宅の空間構成は、普通は居住者に熟知されている。しかし、夜間の暗がりや火災によって煙が発生している状況では事情が異なる。少なくとも、寝室からの避難経路は日ごろから確認しておく必要がある。視力が奪われた状態でも行き着けるよう、「身体」で経路を覚える訓練などが有効である。

また、避難経路に関しては普段から整理整頓を心がけ、経路上に物が置かれていない状態を保っておく。当然のことながら、移動経路上の段差はすべて解消し、転倒の原因となる敷物なども取り除いてしまう。移動方法が車いすの場合には、経路の幅員にも注意を払う必要がある。特に直角コーナーを持つ廊下などの場合には、余裕を持って曲がれるように、内法で85センチメートルの幅(標準的な介護用車いすの場合、種類に応じてこの寸法は異なるので、必ず必要寸法を確認すること)を確保しておく必要がある。

さらには、視覚障害をもつ人への対応、あるいは前述した通り何らかの理由で視力が奪われてしまった場合の対応として、避難経路に連続した手すりを取り付けることも有効である。煙が回っている場合には、立位で移動することは困難であるが、片腕を伸ばし手すりに触れることで、臥位でも避難経路を確認することが可能になる。

二方向避難経路の確保は、戸建住宅では実現の可能性が高い。居室から玄関への経路と、居室あるいは居間などの掃き出し窓から庭への2つの経路が確保できる。その際には、玄関の上がり框部分や庭への段差部分を移動方法に応じて整備する必要が生じる。一方、マンションやアパートなど集合住宅の場合には、この二方向避難経路の確保は困難になる。一般的には、居室からは玄関を経る経路と、バルコニーから非常用避難設備(避難用はしごや救助袋など)を利用した2つの経路が整備されているが、身体に障害をもつ人の場合、避難設備の利用が困難なケースが多い。その場合には、玄関ルートが確実に避難路として利用できるように普段から整備しておく必要がある。

次に、避難時の人的なサポートの確保であるが、特に単身居住の場合、その確保が困難になる。現在、さまざまな自治体で自然災害が発生した際、避難に支援を要する人を支える仕組みとして、災害時要援護者避難支援体制の整備が進んでおり、内閣府のガイドラインでは、個々の要援護者に対して避難支援者を選定することが推奨されている。この仕組みを火災からの避難対策に利用することも可能であろう。

4 おわりに

言い古された言葉であるが「備えあれば憂えなし」とは真実である。障害の有無にかかわらず、火災などの事故から自分自身の命を守るためには、平素からの備えこそが最良の策である。今一度、皆さんも自分自身の生活環境を点検されてはいかがだろうか。

(みずむらひろこ 東洋大学ライフデザイン学部准教授)


【参考文献】

1)小規模高齢者施設における防火対策と耐震対策、(社)日本医療福祉建築協会報告書、2010年3月

2)長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災レポート、菅野正広、医療福祉建築No155、P.12-13、2007年4月