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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

練馬区における災害時要援護者支援の取り組み
―区民の方々との協働をとおして

練馬区危機管理室防災課

練馬区は東京都23区の北西部に位置し、面積48.16平方キロメートル、戦後住宅都市として発展し、平成20年には総人口が70万人を超えました。区では、東京湾北部でマグニチュード7クラスの首都直下地震が発生した場合に、表1のような被害を想定し、それに基づく地域防災計画を策定しています。また、この計画では、台風や近年多発している都市型集中豪雨(ゲリラ豪雨)も想定した水災害に対する対応も定め、住民の生命・身体および財産を災害から守ることを目指しています。

表1 練馬区に関する地震被害想定(抜粋)

東京湾北部地震(マグニチュード7.3、冬の夕方18時、風速15m/s)
建物全壊棟数 1,582
出火件数 33
焼失面積 6.08 km
死者 156
負傷者 4,470

こうした中で、平成17年3月に国から示された「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を受けて、練馬区でも災害時要援護者対策を地域防災計画に位置づけ、平成19年度からその取り組みを開始しました。

練馬区災害時要援護者名簿の作成

災害時要援護者とは、必要な情報を迅速かつ的確に把握し、災害から自らを守るために安全な場所に避難する等の災害時の一連の行動をとるのに支援を必要とする人をいいます(表2)。練馬区地域防災計画では、「高齢者・障害者・難病患者等の災害時に援護を必要とする方には、各機関が連携して支援を行う。合わせて、区民の防災知識の普及・啓発や地域の協力・連携による救出・救護体制の充実等により安全の確保に努める。」としています。

表2 災害時要援護者の対象者

1 介護保険の要介護3~5の認定を受けている方
2 身体障害者手帳1・2級をお持ちの方
3 愛の手帳をお持ちの方
4 精神障害者保健福祉手帳1・2級をお持ちの方
5 65歳以上のひとりぐらし世帯または75歳以上の方のみの世帯
6 難病(国・東京都の難病等医療助成を受けている方)の患者
7 その他、登録を希望する方

そこで、地域での安全体制を図る第一歩として、平成19年に福祉担当部局が中心となって、「災害時要援護者名簿」の作成を行いました。名簿への登載を希望する要援護者の方が、区の施設などで配付している登録票に記入をし、区へ送っていただくという「手上げ方式」などによりこれを作成しています。年1回、住民情報システムの転出や死亡などの情報とつき合わせて管理もしており、平成22年6月1日現在、名簿登録者は、26,891人まで増加しました。

また、練馬区では、個人情報については、これまでも個人情報保護条例に基づき慎重な取り扱いをしてきましたが、こうした要援護者の情報についても大変センシティブな情報と位置づけ、本人の同意を確実に得られるかたちで名簿作成を進めるとともに、警察、消防や区民防災組織等に「外部提供」する場合にも、「練馬区災害時要援護者名簿の提供に関する覚書」などを取り交わし、提供先における管理についても注意を払っています。

区民防災組織との連携

大規模な災害に際しては、被害が多くの場所で同時に発生し、要援護者の支援に警察・消防といった防災関係機関だけでは対応しきれないことが想定されるため、身近な区民防災組織の力が欠かせないものと考えています。そこで、区では、町会や自治会などで結成している防災会に災害時要援護者名簿に基づいて要援護者の支援に取り組んでいただけるよう働きかけを行っています。防災会は、災害が発生した時に初期消火や安否確認、救出・救護活動、避難誘導など、地域の防災活動や被災者の救助活動などを行う組織です。練馬区では、防災会に対して訓練助成金の支給や、希望があれば活動に必要な資器材とそれを保管する格納庫の貸与などを行っています。

また、防災会などの区民防災組織が、災害時における住民同士の要援護者支援の仕組みを円滑に作ることができるよう、区では防災課が中心となって「『まちの防災みまもり袋』作成の手引」をつくりました。「みまもり袋」とは、災害時要援護者に対する支援などの手法を盛り込んだいわば地域の行動マニュアルのことですが、地域全体のみまもり活動により、そこに暮らす要援護者をやさしく包むという意味を込めて名づけました。

この手引では、まちあるきによる災害時に役立つ地域資源や危険箇所の把握の仕方、マップ作りによる地域の情報の整理や支援の検討方法に加え、国が示す避難支援プラン(個別計画)に近いかたちで災害時要援護者一人ひとりの支援について考える「防災みまもりカード」の作成方法についても紹介しています。

区では、平成20年度から毎年度災害時要援護者名簿の更新時に、区内の全防災会に対してこの手引の提供と併せて要援護者支援の呼びかけを行い、これまでに区内109の防災会に名簿を受け取ってもらいました。

災害時要援護者の避難

練馬区では、阪神淡路大震災で身近な公共施設に多くの方が避難したという教訓から、区立の小中学校99校すべてを避難所と防災拠点の機能をあわせもつ「避難拠点」と位置づけています。この避難拠点は、区職員と学校職員に、避難拠点の近隣の住民により構成される避難拠点運営連絡会を加えた三者により運営され、日ごろよりお互いにコミュニケーションを図りながら、災害時に協働・協力できる関係を作っています。さらに、災害時に避難して来た人の対応方法や、避難所でのルール作り、役割分担などについても話し合い、それを検証したり、備蓄されている資器材を実際に操作してみる訓練などにも取り組んでいます。

こうした避難拠点では、毛布などの生活必需品や食糧、防災資器材などが備蓄され、体育館や教室などは避難スペースとして活用されることを想定しています。災害で被害を受け、自宅で生活ができなくなった方は、避難拠点へ避難するよう区では呼びかけています。

しかし、要援護者の方の中には、避難拠点での生活を送ることが困難な方もいると考えられるため、区ではそのような方への配慮がなされた避難所として「福祉避難所」を福祉園、福祉作業所、ケアセンター、デイサービスセンターなどの福祉施設に開設することとしています。要援護者の方は、防災関係機関や防災会などの区民防災組織の協力を得て、避難拠点などから福祉避難所へ移送されることとなります。

課題と今後の展開

要援護者対策の基本となる災害時要援護者名簿への登載者数は毎年増加してきましたが、対象者に対する登載者の割合を見ると、高齢者では約50%(約23,000人)、障害者(身体・知的)では約25%(約3,200人)というのが現状です。国は「関係機関共有方式」といって、行政がすでに把握している対象者の個人情報を、個人情報保護条例などの一定の手続きを経て、本人の同意を得ずに共有する方法も示していますが、練馬区では先にも述べた個人情報の取り扱いの考え方から、今後も登載の案内について十分周知を図りながら、本人の同意を得る方法で名簿登載者数を増やしていく予定です。

また、名簿を受け取っていただいた防災会の数も109組織まで増えましたが、全防災会(平成22年6月1日現在286組織)の半分にも至っていません。防災会からは「個人情報の管理に対する不安」や「防災会のメンバーの固定化・高齢化が進むことにより地域のみまもりまで手が回らない」、あるいは「どのように活動したらよいか分からない」といった意見が寄せられています。名簿の提供を受けた団体も、同様の悩みを抱え、名簿の活用が思うように進まないのが現状です(表3)。引き続き、要援護者支援の必要性を防災会の皆さんには丁寧に説明していくとともに、防災会が活動しやすい環境づくりについても検討を進めていかなければならないと考えています。

表3 練馬区災害時要援護者名簿活用に関するアンケート結果(回答数59団体、回答率56%)

1 名簿を何らかの形で活用していますか?
(a)活用している……27団体
(b)活用していない……32団体
2 活用している団体にお伺いします。どのように活用していますか?
(a)名簿をもとに要援護者の家を記載したマップを作成した。……17団体
(b)要援護者ごとに災害時の個別台帳を作成した。……9団体
(c)名簿登録者宅を訪問して、災害時の救出方法などの検討を要援護者本人または家族と一緒に行った。……7団体
(d)(c)を実施したうえで地域で防災訓練(安否確認訓練)を実施した。……6団体
(e)家具の転倒防止やガラス飛散防止など地震対策を実施した。……0団体
(f)担当民生委員または介護事業所等と災害時の対応について検討を行った。……6団体
(g)その他……5団体
3 活用できていない団体にお伺いします。活用できていない理由は何ですか。
(a)活用方法がよく分からないため……9団体
(b)災害時にしか活用できないと思ったため……16団体
(c)その他……14団体
4 活用できていない団体にお伺いします。名簿を活用していくためには何が必要ですか。
(a)他の地域での具体的な活用事例……18団体
(b)活用の仕方のマニュアル……11団体
(c)防災課から再度の詳しい説明……10団体
(d)その他……5団体

また、同時に、要援護者一人ひとりの立場に立って、その人を支援する役割をだれが担うべきなのか、どのように関係者、関係機関で情報を共有していくべきなのかといったことを常に見据えながら、災害時要援護者対策全体における課題の解決を目指して、各種施策の推進を図っていきたいと考えています。