音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

地域と一緒に作り上げる防災の取り組み

永山昌彦

ファシリテーター養成講座と指定避難所体験

昨年11月28日、宮崎市中心部にある宮崎市立宮崎小学校の体育館に、100人以上の方々が障害者市民と共に指定避難所を実体験するために集まった。集まったのは、宮崎市中央東地区社会福祉協議会の構成員の皆さん、自治会会員の方々、宮崎市障害福祉課と危機管理室の職員、宮崎市自立支援協議会成人期くらし部会の委員、障害者市民(肢体、視覚、聴覚、知的、精神、内部)やその家族たちと夏に行った「災害時要援護者を交えた防災訓練を行うためのファシリテーター養成講座」(以下、ファシリテーター養成講座)を修了した受講生たちである。

この体験を行う前に、地区社協や地域事務所のコーディネーターなどを対象に、ファシリテーター養成講座を3回にわたって開催した。

第1日目は、日本ファシリテーション協会会長で九州大学准教授の加留部貴行(かるべたかゆき)氏にお出でいただき、立場の違う人同士の話し合い等において意見を取りまとめるスキルを高めていく講座を開催した。

第2日目は公開講座とし、NPO法人「ゆめ風基金」理事の八幡隆司(やはたたかし)氏に全国の動きを、宮崎市危機管理室に宮崎市の動きを報告してもらい、地域の動きとして、宮崎市生目台の地域事務所等が行っている災害時要援護者を交えた防災訓練の模様を語ってもらった。

また、肢体、視覚、聴覚、知的、精神の障害者や家族に登壇してもらい、1.災害時に困ること、2.各障害者団体で取り組んでいること、3.行政に期待すること、4.指定避難所を使う際に必要なこと等を活発にお話いただいた。

第3日目には、前日までの意見を参考に、指定避難所での障害者市民を交えた防災訓練をどのように組み立てていくかをシミュレーションした。

ファシリテーター養成講座は、障害者市民も積極的に参加する防災訓練を企画運営するためには、地域事務所や地区社協のコーディネーター等がその意義を強く持ち、実行に導いていく必要があると思い、開催した。

表は、ファシリテーター養成講座受講者の感想文である。このファシリテーター養成講座を踏まえて、地域を中央東地区社会福祉協議会に絞り込み、養成講座修了者をスタッフに交えて、避難所体験を行った。

表 Aさん(市社協)の感想文

第1日目 ファシリテーターとは何かというレベルからの参加だったので、学ぶことがとても多かった。講師の方の研修内容も飽きさせない内容であった。
第2日目 障がい別に話を聴くことができ、それぞれ要求する内容が異なることを、実感した。また、障がい者だけが要援護者ではなく、誰もが要援護者になり得るという言葉がとても心に残った。そういう思いをもっと、たくさんの人が持てるよう、地域での取り組み、行政の取り組みがあると良いと感じた。
第3日目 ワークショップ形態での研修内容だったので、時間が過ぎるのも早く、皆が参加されているといった雰囲気を感じることができた。今まで避難という経験がなく、どれだけ大変なことなのか想像上にしかなく、実際想像できないというのが本音であった。しかし、今日のワークショップを通して、ほんの少し自分が避難所にいる場面を思い浮かべながら、考えることができたと思う。

避難所体験では、避難者の受付、避難所の設営(マットを敷く。簡易トイレ、間仕切り版の設営、炊き出しの準備等)を全員で行い、障害者市民も一緒になって班ごとに分かれ、交流しながら話し合いを行った。情報伝達として、舞台上に白板を置き、その都度情報を書き込んでいったが、白板が反射しうまく見ることができなかったり、拡声器を使い伝達するも、音が反響して聴きづらいことが分かり、情報提供の難しさを痛感した。情報伝達をどのように避難所内で行うのかは課題として残った。

非常食の試食も行った。アルファ米をお湯と水の両方で作ったり、乾パンや缶詰パンも用意した。また、インターネットで見つけた、水で戻す「あべかわ餅」もみんなで作って食べた。そのことで参加者の交流が盛んになったように思う。

避難所体験に参加した方の中から3人の当事者の方の意見を紹介する。

・福島さん(視覚障がい者) 本年7月に回覧板で防災訓練の参加者を募るお知らせがあった。参加しようと手伝いをお願いしたら、役員だけで行う訓練なので一般参加はできないと自治会の方から言われた。参加できなくて残念だった。

・阪元さん(車いす利用者) 初めて避難所体験に参加した。このようなことを地域でどんどんやってほしい。地域との結びつきがほとんどない状況である。避難所の一番の問題はトイレである。

・緒方さん(オストメイト利用者) 見た目では分からないが、オストメイト対応トイレがないと非常に困る。匂い等が気になり食事等の制限をしたりしている。

3人の方の意見からも、参加者に要援護者を交えた避難所体験が必要であることを伝えることができたのではないかと思う。

なぜ、養成講座や避難所体験を行おうと考えたのか?

宮崎県は平成17年9月、台風14号により多大な被害を受けた。宮崎市中心部も大淀川が危険水位を超え、多くの市民が避難を余儀なくされた。その際、宮崎市消防局に登録していた在宅障害者市民からの多くの救助要請に対し対応しきれなかった。下流域の大淀川の氾濫が起こらなかったのは幸いであったが、これ以降、障害者市民の災害時の避難をどのように進めていくかが議論されるようになった。

私たちのセンターでも翌年の平成18年には、障害者市民の防災講演会や障害者市民と地域住民による避難所体験等を行った。

2007(平成19)年12月、宮崎で初めて障害者市民と地域住民が一緒に避難所を体験する試みを行った。その中で、地域住民と障害者市民との交流や相互理解がほとんど進んでいないことと、障害者市民が災害時に抱く不安や要望を聴くことなく、防災計画や防災訓練が行われていることを痛感した。

また、災害時要援護者の避難を安全にもれなく行うという取り組みは行われているが、避難先で要援護者がどのような状況に置かれ、どのような困難が付きまとうのかを互いに考える機会はなかった。それ以上に、指定避難所の運営は、地域住民自らが行わなければ被災してすぐ、行政職員やボランティアが配備されるものではなく、住民自らが自治していくものという認識を地域住民の皆さんが抱いていないことに気づかされた。

宮崎市自立支援協議会の成人期くらし部会に当センターも関わっていることから、部会の課題として、障害者市民の防災問題に取り組んでいくことになり、宮崎市障害福祉課の仲立ちで宮崎県市町村振興協会の行政等との協働事業に対する助成金対象事業として、1.障がい者児(災害時要援護者)の受け入れを念頭に置いた避難所運営支援ファシリテーター養成事業、2.障がい者児(災害時要援護者)を交えた避難所体験プログラム事業、の2事業を平成21年度に宮崎市、宮崎市自立支援協議会、当センターの共催で行うことになった。

まとめ

今回の宮崎小学校体育館の避難所体験をきっかけに、中央東地区では、今年度も要援護者を交えた防災訓練を行おうと計画が進んでいる。また、全面的な協力体制をとってくれた宮崎市社会福祉協議会でも、要援護者を交えての避難所体験を各地区社協への重要な事業の一つとして支援していこうと考えているようだ。

協働した宮崎市障害福祉課および当課に事務局を置く宮崎市自立支援協議会においても、障がい者の地域生活における課題を解決していく上で地縁団体との結びつきは重要な要素となる。今回の地縁団体等との関係は、これからの活動の試金石になったのではないかと感じている。

(ながやままさひこ 障害者自立応援センターYAH!DOみやざき)