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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

ワールドナウ

アフリカにおける自立生活センターの設立支援

中西正司

2010年8月7日~20日、JICAの「アフリカ地域障害者の地位向上」プロジェクトのフォローアップ協力のための調査団の専門家の一員としてケニア、マラウイ、南アフリカを訪問し、各国政府機関からの情報収集と自立生活(IL)センターに関するセミナー/ワークショップを開催し、今後、アフリカ地域で自立生活センターの設立支援が可能であるかを調査した。

ケニア

成田を出発してから17時間、ドバイ経由で7時間の休息後、さらに7時間の飛行でナイロビ空港に到着した。ケニア空港のアクセスが不安であったが、PBL(リフト車)が横付けされ、自分の車いすもドアサイドで受け取れるなど、意外と障害者への対応ができるのにまず驚かされた。空港はナイロビ国立公園の中にあり、空港を出て市内に向かうと、車窓から野生のキリン数頭が長い首をゆらしながらゆっくりと走っていくのがかすかに確認できた。

ケニアは憲法改正の国民投票が終わった直後であった。新法には、選挙または任命による機関の定員の5%が障害者であることという障害者条項を含んでおり、障害者団体は関連障害者法の改正を迎え、活気に満ちていた。ジェンダー・子ども・社会開発省(MGCSD)事務次官Nyikal氏も、「よい時期に訪問してくれた」と話していた。

○セミナー

セミナー参加者の中には四肢マヒ者や盲ろう者も含まれ、自立生活運動の説明を熱心に聞いてくれた。特に、これまで法律はあってもその履行が行われなかったところから、重度障害者のニーズに基づく草の根レベルの福祉サービス、特に介助サービスの実施や年金、住宅制度の充実など求められている課題と自立生活運動の目指すところが完全に重なっていることから、彼らの心を強く打ったようである。

IL研修の終了と同時に、2つのILセンター設立の活動がスタートしたことは喜ばしい。1つはAdoptAccessという空港のアクセス化などに取り組む活発な団体である。代表者はジェンダー・子ども・社会開発省の副大臣と親戚関係にあり、政治力も活動力もある団体である。もう1つはEcumenical Disability Advocacy Network(EDAN)で、そのなかの若手リーダーで構成されている。この団体は歴史を持ち政府との関係もよく、今回のセミナーをケニア側で用意してくれた実施能力のある団体である。今後、この2団体がケニアにおいて核となってIL運動を進めていってくれることを期待している。

○家庭訪問

Roseはリウマチによる障害があり、学校の教師をしている。われわれが訪問したときはすでに授業を終え休息中で、自宅のベッドで迎えてくれた。彼女は24時間介助を必要とし、教職の給料から介助者費用を支払っている。将来、病気が進行したときに、教師を続けられなくなることと介助者を雇えなくなることを心配している。そのために、自立生活センターについての説明を熱心に聞き、センター設立に加わりたいという強い熱意を示してくれた。

ケニアにこれほど重い障害者が地域で生活していることに驚きを感じた。どの国にも先駆者がいるものである。彼女がILセンターのリーダーとして育ってくれることを期待している。

マラウイ

マラウイは人口1,500万強の小国であるが、それが故に障害者団体もFederation of Disability Organisations in Malawi(FEDOMA)という連合体組織にまとまっており、そこから多くのリーダーが研修に集まってくれた。研修は熱気に満ちており、具体的な質問が多数あったほか、全員が自ら自立生活運動への参加を表明した。視覚・聴覚・身体の各障害者が連帯して自立生活センターを形成しようとしている点がうれしかった。特に、家庭訪問をしたRachel KachajeやStella Nkhonyaはリロンゲ市内に住み、ILセンターの中心的存在となりえる。

また、FEDOMAの現会長Mussa Chiwaulaは政府に強い影響力を持ち、障害者法の改正に努めており、アクセス運動に強い関心を持っている。自立生活運動にも強い関心を持ち、現在ブランタイヤにある事務所の一部機能をリロンゲに移し、IL部門として来年発足させる意向を伝えてくれた。

視覚障害者で教育科学技術省の特別教育副局長David Njaidi氏はFEDOMAの前会長であり、自宅を訪問した際も、今後の日本研修への障害者代表派遣について政府内で協力を惜しまないと言ってくれた。

セミナーの質疑応答では、自立生活センターの権利擁護活動に衝撃を受けたとのコメントや、自立生活を実現させるまでにどれくらいの時間がかかったのか、センター設立のために政府をどのように動かしていけばよいのか、といった質問が出された。

今回の研修参加者を中心に、今後月1回、IL運動の研究会を発足させてくれることが決まった。彼らの期待に沿えるよう、DPI日本会議と自立生活運動のリーダーとしてできる限りの協力をしていくことを誓った。

南アフリカ

南アフリカは、いくつかの省庁の局長クラスに障害当事者がいるという意味で、日本よりはるかに障害者の行政参加が進んでいる。政策決定部門に障害者がおり、女性・子ども・障害者省の局長、副局長なども、自立生活運動をぜひとも推進したいと述べた。社会開発省の車いすのManthipi MolamuRahloa障害担当局長も、障害者の自立生活支援に非常に積極的な賛意を表明してくれている。

障害者団体は数多くあるが、与党アフリカ民族会議(ANC)の傘下にあるDisabled People South Africa(DPSA)が影響力を持っているようで、省庁で働く障害当事者の中にもDPSA出身の活動家が複数名いた。

自立生活運動と同様の理念を持ち地域で暮らしている人たちは、四肢マヒ者協会(QuadPara Association South Africa:QASA)を構成し、全国17か所で5人~8人のグループホーム型居住をし、政府からの補助金20%と民間から自ら集めた資金で同数の介助者を正規職員として雇って生活をしている。政府からの資金が少ないため、共同生活を余儀なくされているが、本来一人ひとり個別の介助者を持ち、日本型の自立生活を目指していることがワークショップの中で判明した。

今回のワークショップには、そのうち4つのセンターの所長が参加しており、南アフリカがアフリカ全体のIL運動の推進の窓口になり、アジア太平洋障害者センター(APCD)のような広域研修センターをヨハネスブルクにつくることを希望している。また、共同で日本研修への参加要望書を出してくれれば政府も受け入れるとの内諾を得ている。この合意に向けて、南アフリカのすべての障害者団体リーダーがセミナーの背後で会議を開き、合意に導いてくれたことを感謝している。

Ms. Liness Masebo宅訪問

職業訓練センターの生徒であるLinessの家を訪問した。彼女の家は、公営住宅の払い下げを受けた業者が運営する4軒並んだタウンホームであり、彼女は間借り人で、家のオーナーはセミナー参加者のStellaである。

Stellaは現在、省庁に勤務しているが、彼女も職業訓練センターで秘書コースを取り、2年間仕事を探してようやく現在の仕事を得た。彼女は職を得て住居を得たことから、彼女のジンバブエ国境に近い村からLinessと姪と3人の子どもを呼び寄せて一緒に居住している。生活は厳しいというが、リビングには応接セットとテレビ、台所には洗濯機、オーブン、電気コンロ、子どもには自転車を買い与え生活は安定しているように見えた。この応接セットやテレビは家具付きでレンタルされているという。子どもたちを中等教育学校まで行かせるつもりである。

今回の調査において、アフリカにおいても自立生活運動の展開が十分期待できることを確信した。各国政府も積極的に支援を約束してくれているので、日本政府としても政府職員と障害者リーダーの本邦研修と、タイなど途上国での補完研修を継続してもらいたい。将来的には、APCDのような研修センターをヨハネスブルクに作り、さらにケニア・マラウイなどにILセンターのショーケースが展開できるように支援していきたい。

(なかにししょうじ DPIアジア太平洋ブロック議長)