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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年11月号

報告

第33回総合リハビリテーション研究大会

引馬知子

3年継続する共通テーマ「総合リハビリテーションの新生をめざして」

第33回総合リハビリテーション研究大会は、2010年9月3日(金)、4日(土)の2日間、東京大学安田講堂・山上会館において開催されました。今研究大会から2012年の第35回研究大会までの計3回は、「総合リハビリテーションの新生」が共通テーマとなっています。

第1日目は、日本障害者リハビリテーション協会会長の金田一郎氏の開会挨拶の後、大会実行委員長である大川弥生氏から、3年にわたる共通テーマ設定の意図が説明されました。まず、リハビリテーションとは単なる機能回復訓練ではなく「全人間的復権」、つまり、生活機能低下(障害)のために人間らしく生きることが困難になる人々の人間らしく生きる権利の回復を意味することが確認されました。全人間的復権は、医学、教育、職業、介護、工学等々、さまざまな専門分野の協力があって初めて可能となる、これをまとめて総合リハビリテーションと称するとの説明がありました。

近年のリハビリテーションを取り巻く状況は、当事者の積極的参加、人権意識の向上、制度改革、障害者権利条約の批准への準備、専門的な職種の増加等が示すように大きく変化しています。こうしたなかで、従来の固定観念を越えて、当事者を中心に多様な専門領域の人々が協力し合う、真の連携システム・プログラムを、「新生・総合リハビリテーション」として構築していく必要性が提起されました。

その後、2日目正午過ぎまで、本稿で紹介する3つのシンポジウムが行われました。2日目午後には、3つの分科会『小児の生活支援と領域・機関連携―個別支援計画における「共通言語」を探る』、『総合リハビリテーションに生かす工学』、『総合リハビリテーションセンターにおける医療部門の位置づけ及び役割と機能―現状と課題及び今後の展望』が開催されました(当日のプログラムは、http://www.normanet.ne.jp/box参照)。

シンポジウム1『総合リハビリテーションの新生』

シンポジウム「総合リハビリテーションの新生」は、上田敏氏、阿部一彦氏を座長に、両氏を含む8人の専門家により行われました。大川弥生氏は、当事者の自己決定を尊重し生かす専門家の技術・知識の向上や連携、予防的視点の重要性に言及し、サービス中心から本人を中心とした総合リハビリテーションへの転換が提起されました。その際の、ICF(国際生活機能分類)の共通言語としての使用が説明されました。

上田氏は、リハビリテーションの目的・理念等を、主要な国際的動向を追って紹介し、聴衆にこれらの理解を促しました。その内容は、WHOの医学的リハビリテーション委員会の第一次報告(1958年)から、国連の障害者権利条約(2006年)及びその第26条ハビリテーションとリハビリテーションまでの、多年にわたる経緯や議論を含むものでした。

日本理学療法士協会会長の半田一登氏は、九州労災病院での経験から、日本の「総合リハビリテーションに関する施設」が急性期リハに偏っており、「総合リハ」からかけ離れている現実が報告されました。高齢社会の到来によって、自宅復帰すればリハビリは成功であるという高齢者仕様のリハビリが見受けられ、リハの概念はある意味で後退しているのではないか。急性期リハ、回復期リハ、生活期リハ等に共通した、横断的な総合リハの概念整理、共通言語の醸成、組織的分業と協業が求められるとの提起がなされました。

日本介護福祉士会会長の石橋真二氏からは、自立に向けた介護を総合リハビリテーションの一部と捉えることや、介護におけるICFの活用等が述べられました。ロボット工学を専門とする松本吉央氏からは、工学が総合リハビリテーションに寄与するには、人の生活をみた分析、工学系学科における「人をみる技術」の講義の設置、ICFへの理解、支援目的の明確化等が求められるとの指摘がありました。日本身体障害者団体連合会理事であり、仙台ポリオの会会長・全国ポリオ会連絡会副代表でもある阿部氏からは、ポストポリオや、若い頃の頑張りや無理の積み重ね、周囲の理解や対応不足により生じる二次障害の問題が説明されました。二次障害の予防には、生活・就労上の適切な対応と、障害者権利条約やソーシャルインクルージョンが大切と述べられました。

日本発達障害ネットワーク事務局長の氏田照子氏は、発達障害に対する社会の理解や、当事者と家族への支援体制作りの大切さを、ご自身の体験と活動を通じて語られました。

最後に、全国「精神病」者集団運営委員の桐原尚之氏は、優生思想などに触れ、当事者たちはリハビリテーションを求めつつも、同時に疑っているとの問題提起がありました。資本家は働く人を大切にし、健常者中心の社会が形成される一方、それから外れる者を軽視した統治がかつては行われていた。しかし近年の統治は、“個々人に生きるために積極的にならせるように”と変わってきている。その帰結を見据える必要性を示しました。

シンポジウム2『総合リハビリテーションの視点から「働くこと」を考える』

働くことを考えるシンポジウムでは、研究大会常任委員長でもある松井亮輔氏と愛知医科大学の木村伸也氏を座長として、岡野茂氏、増田一世氏、引馬知子、藤井克徳氏の4人が報告を行いました。岡野氏からは、職業リハビリテーション機関としての「東京障害者職業センター」の現状が報告されました。多様な障害者への就労支援が求められつつあるが故の医療・教育・福祉の連携、当事者・事業主・就労支援を支える専門家のスキル向上、就職のみならず職場定着、認知障害への支援が課題であるとの説明がありました。

増田氏の報告は、精神障害のある者が一人の生活者として街の中で生きられるための活動を40年間続けてきた、「やどかりの里」の実践に基づく内容でした。福祉と労働が連携し、障害者の働く権利に立脚した新たな法制度が支える「社会支援雇用」の実現が提起されました。就労支援の養成現場に携わる引馬は、社会福祉士に関わる近年の法改正と就労支援の関係性を説明しました。こうしたなかで、福祉分野からはすでに就労支援に多くの専門家を送り出しつつあること、しかし、障害者権利条約第27条やディーセントワーク(人間らしい働きがいのある仕事)を真に支える専門家の育成はこれからであることを指摘しました。さらに、就労支援に関わる多様な専門家の連携や共通スキルの醸成、コーディネートについて一層の検討が求められることに触れました。

日本障害者協議会常務理事の藤井氏からは、ディーセントワーク、障害者権利条約、当事者本位をキーワードに、日本の福祉的就労と一般就労があまりにも分離していること、これからは福祉も雇用もという対角線モデルを当事者中心に作り出すことが重要だとの提起がなされました。座長の松井氏は全体のまとめとして、日本の障害者制度における権利性の欠如、障害のある人の働く場からの排除、ディーセントワークの問題が障害のみにとどまらないことを提示されました。

シンポジウム3『総合リハビリテーションの視点から災害を考える』

災害を考えるシンポジウムでは、大川弥生氏を座長として、河村宏氏、山崎登氏、大川氏の3人が報告を行いました。河村氏は、障害者放送協議会の災害時情報保障委員会の委員の立場から話されました。要援護者の自助には、理解できる形態を用いた情報と知識のタイムリーな提供が必須であり、これらの結果として要援護者が自立して安全な行動をとれ、さらに共助の担い手にもなり得るとのことでした。

NHKの解説委員である山崎氏は、最近の災害を取材して、被害者や犠牲者の災害の質に変化があると指摘されました。たとえば地震直後よりも、地震後の生活のなかで死に至る人が多い。避難後の生活支援のあり方を検討しなければ、日本の防災対策は前に進まない。高齢者・障害者の問題、災害弱者の救助の問題、つまり地域の防災力は、地域の普段の取り組みが左右することもあげられました。大川氏は、中越地震等で観察した生活不活発病等を、ICFを活用しながら説明し、災害においても生活機能低下の予防が重要であると述べられました。また、障害の多様性を再考して、各自治体の防災対策とその機能を考える必要性を提起されました。

以上のように、総合リハビリテーションが多角的に検討された2日間の大会には、432人が参加しました。報告内容の詳細は、『リハビリテーション研究』146号(2011年3月発行)に掲載されます。総合リハビリテーションの新生に向けた3年間の議論のはじまりとして、現状に対する多くの問題提起がありました。同時に、当事者を権利の主体とし、当事者や専門家間の相互理解と繋がりを深めるなかで、全人間的復権が実現することを再確認する2日間でした。

(ひくまともこ 田園調布学園大学人間福祉学部准教授)