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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

ポスト自立支援法―新法づくりと総合福祉部会

佐藤久夫

1 障害者制度改革の現段階

新政権の「障がい者制度改革」は、昨年12月に「推進本部」が設けられてからまもなく1年が経とうとしている。この間、マスコミや関係者の多くの期待と注目を浴びてきた。

しかし現時点では、法制度の改革など具体的な成果はない。これまでになされたことは、改革のための組織を作ったことと、改革のスケジュールを定めたことである。実を結ぶかどうかはすべて、今後にかかっている。

改革のための組織を図1にまとめた。その骨格は「推進会議」を中心とし、そのもとの二つの分野別「部会」である。「福祉」と「差別禁止」以外の部会も検討はされているが、今のところ予定はない。雇用、教育、所得保障などの分野の改革は従来の省庁の審議機関が検討することになりそうで、そこにどれだけ推進会議の意向が反映されるか、そのためにどのような調整が可能かが課題となる。

図1 障害者制度改革の検討組織
図1 障害者制度改革の検討組織拡大図・テキスト

推進会議は6月7日に「第一次意見」を提出、それに基づく「閣議決定」が6月29日に出され、2011年「障害者基本法抜本改正」、12年「障害者総合福祉法制定」、13年「障害者差別禁止法制定」とスケジュールが定められた。この3つを前提に障害者権利条約を批准したいというのが、第1回推進会議での福島担当大臣(当時)の説明なので、この批准は13年と予想される。閣議決定では前記3法以外の分野も具体的項目を掲げ、おおむね12年内に検討を対応するとしている。

「福祉」分野では、「障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意文書」(2010年1月7日)で、「遅くとも平成25年(2013年)8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する。」と約束している。そのためいち早く「部会」を立ち上げ、表1のスケジュールで進めている。

表1 障害者総合福祉法制定へのスケジュール

2010年 4月 総合福祉部会設置
  4―6月 新法実施までの当面の課題(要望)
  6月 9分野30項目92の論点の整理
  7―9月 3分野ずつの意見表明と共通理解促進
  10―12月 9つの作業チーム・班での議論(第1期)
2011年 2―4月 8つの作業チームでの議論(第2期)
  5月 障害者総合福祉法の骨格素案
  8月 障害者総合福祉法の骨格案
2012年   通常国会に法案提出
2013年 8月 新法の実施

なお、部会委員は55人であり、より詰めた議論をすべく、10月からは「作業チーム」に分かれての議論を行っている(表2)。

表2 部会作業チームおよび合同作業チーム

  チーム
第1期部会作業チーム
(2010年10~12月)
1.法の理念・目的
2.障害の範囲と選択と決定 1.障害の範囲
2.選択と決定・相談支援プロセス(程度区分)
3.施策体系 1.訪問系
2.日中活動とGH・CH・住まい方支援
3.地域生活支援事業の見直しと自治体の役割
合同作業チーム
(2010年10月~2011年3月)
就労(労働及び雇用)  
医療 第1期(精神医療)
第2期(その他)
障害児支援
第2期部会作業チーム
(2011年2~4月)
1.選択と決定・相談支援プロセス
2.地域移行
3.地域生活の資源整備
4.利用者負担
5.報酬や人材確保等

2 新しい障害者福祉:予定(予想)される変化

総合福祉部会での議論は、障害者権利条約(特に第19条など)や前記「基本合意文書」に基づいて行われている。したがって、障害のない市民と平等な社会参加がなされるような支援を受けることは障害者の基本的権利であり、国・自治体にはそれを提供する義務がある、という理解が基本となる。現時点ではまだ部会の結論は出ていないが、これまでの議論では、次のような意見が出されている。意見の一例として読んでほしい。

(1)法律の名称は「障害者総合福祉法」がよいのではないか。前文を設けて、意義と趣旨を明確にしたほうがよい。

(2)障害者が非障害者と同じように地域で生活するために必要な支援は基本的人権であり、当然のインフラとして国や自治体が整備する義務を負うべきである。

(3)障害児である前に子どもであるということから、障害児福祉は児童福祉法に戻す。就労関係やコミュニケーション保障は福祉法の下から独立させるべきではないか。

(4)障害者手帳を要件とせず、継続的または断続的な支援ニーズのあるすべての障害者を対象とする。障害者手帳がない人の場合、医師の意見書・診断書など、機能障害を示す何らかの証拠が求められる。

(5)障害程度区分は廃止し、個別ニーズを評価して支援の種類と量を決める方式とし、このプロセスに権利擁護の仕組みを組み込むべきである。重度者が排除されないよう、通所・入所施設支援での個別の支援必要程度を評価し「報酬」に反映させるべきである。

(6)支援・サービス体系は、介護保険統合を前提としないのでより分かりやすいものにしたい。できるだけ制度は単純にし、柔軟な運用ができるように。

(7)支援・サービスに係る応益(定率)負担原則は廃止し、応能負担かゼロにすべきである。応能負担とする場合、負担能力を本人の収入のみで評価すべきである。

(8)事業者への支払い方式は、日額・月額併用方式が良いのではないか。

(9)通所・入所施設の新体系への移行期間(2012年3月)については、延長(2013年8月の新法実施まで自立支援法以前の制度の存続の保障)すべきではないか。

(10)介護保険優先条項は撤廃、または65歳になっても従来の支援や負担の継続が保障されるような制度にすべきではないか。

総合福祉部会や作業チームの検討の経過は、厚労省のホームページで毎月紹介される。障害当事者、事業者、自治体関係者などの意見(簡潔な結論とその根拠も)が広く寄せられ、良いものを実現したい。ただし、部会の委員からの提出でないと部会資料として扱われないので、協力してくれる委員とまず相談する必要がある。

3 新しい障害者実態調査

今回の制度改革で注目すべき動向の一つに「障害者実態調査」がある。

前記の「基本合意文書」で「2 国(厚生労働省)は、障害者自立支援法を、立法過程において十分な実態調査の実施や、障害者の意見を十分に踏まえることなく、拙速に制度を施行」したと反省した。

そこでまず、在宅障害者については、精神障害者や慢性疾患に伴う障害者を含めた総合的な「生活のしづらさなどに関する調査:全国在宅障害児・者等実態調査」を定期的に行うこととなった。とりあえず2010年に試行調査を行い、来年、本調査を行う。

一方、「施設入所者・精神科病院入院患者実態調査」についても、11月には総合福祉部会委員の話し合いでおおむね「生活実態や希望を聞く調査は必要である」との合意が形成された。いつどのような調査となるか不明であるが、これら2調査は実施されれば、全く新しい画期的なことになろう。

(さとうひさお 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会長)