「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号
新法づくりに向けた提言
日本型社会支援雇用制度の確立を
北村典幸
なぜ無職なのですか?
「ずっと作業所でガンバって働いてきたのに、いざ就職しようとしたら、履歴書には職歴として作業所のことは書けなかった。どうして無職なのですか?」
就労支援事業で働く障害のある人から、こんな質問を受けた。もちろん、理屈としての説明はできるが、本人は納得できない。その理由は、ここであえて説くまでもないと思う。
小規模作業所から法定施設に移行し、措置費制度から支援費へ、そして自立支援法へと制度は変わりつつも、労働を通して社会に参加し、たとえ少額ではあっても、労働の対価としての賃金を得てきた障害のある人々は、全国に大勢いるはずだ。
労働者としての権利が保障されていないこのような状況は、障害者権利条約第27条に背くものである。
現場に蔓延しつつある自立支援法病?
「福祉サービスを利用しているのだから、利用料を払うのは当然だけど、逆に手当をもらうというのは理解できない」
これは、相談支援事業で働く20代前半の現役職員が、就労支援事業を見学して発した言葉である。私はその職員に対し、すかさず「あなたは自立支援法病ですね」と切り返した。もちろん、その理由も説いて聞かせた。
自立支援法の施行から5年目を迎えると、当然ながら、こうした「自立支援法世代」と言われる若い福祉職員が増えてきていることになる。しかし、私はこうした状況に対し危機感を拭(ぬぐ)えない。働いている障害のある人々から利用料を取るから、こんな矛盾や問題が起きるのだ。
ILO(国際労働機関)が日本政府に対し勧告したように、応益負担はいち早く廃止すべきである。
自立支援法の総括の上に立った新法を
当法人が運営する身体障害者通所授産施設(定員20人)では、自立支援法が施行される前日の2006年3月末日をもって、5人の利用者が施設を退所した。理由はもちろん「応益負担」にある。
その5人とも、施設では縫製部門の中心的な役割を担い、製造に欠かせない存在であったが、翌日から発生する賃金を上回る利用料という仕組みに対し、納得できずにやむなく退所していった。その自立支援法は、皮肉にも「就労支援の強化」を大きな旗印に施行されたのだが…。
自立支援法施行の前年(2005年)に、全国の法定社会福祉施設から企業等への一般就労に移行した者は2,387人であったが、自立支援法施行から2年後の2007年に一般就労に移行した者は、旧法および新体系事業を合わせて1,608人にとどまっていた。
また、「工賃倍増」を謳うも、2009年厚労省より公表されたデータでは、自立支援法の施行直前月である2006年3月の平均工賃が14,035円であったのに対し、約3年後の2009年7月は14,031円(4円減)と、ほぼ横ばいという結果であった。
このように、一般就労への移行も、工賃倍増も、自立支援法によって好転させることができなかったことは、明らかに前政権の失策にほかならない。どんなに加算を付けようが、いくら緊急対策を打とうが、基本的な路線に誤りがある以上、部分的な手直しでは、すでに手の施しようがなくなってしまっているのだと思う。
だから、政権交代で自立支援法の廃止と新たに制度改革への道程が拓(ひら)けたことは、必然的な結果であると言える。
そして、新法づくりは自立支援法に代わる総合福祉法の制定にとどまることなく、最低でも障害者雇用促進法の抜本的な改正がなくては、障害のある人々の就労支援は真の改革には結実しないことも明らかである。
具体的な提言
私なりに考える制度改革への期待は山ほどあるのだが、就労分野に限ってみれば、1.障害者基本法に障害者の労働権を明記すること、2.民間事業所に対する法定雇用率はぜひとも5%に照準を合わせてほしい、3.雇用納付金は最低賃金水準に、4.調整金・報奨金は見直し、公的賃金保障制度の創設を、などである。
かなり急進的で粗っぽい意見かと思われるのは覚悟の上で、あえて勇気を出して問題提起をしたつもりである。
しかし、特に4の公的賃金保障制度については、権利条約の批准に向けて、障害のある人が障害のない人と差別なく同等に働く権利が保障されるためには、国際水準に照らしてもぜひとも実現していただきたいと切に思っている。
公的賃金保障の内容は、一般事業所や就労支援事業所で、いくつかの段階的な基準を定めることが必要だと考える。この公的賃金保障を、最低賃金ベースで現行の就労継続支援事業(B型)だけにあてはめて試算すると、約7百億円の財源を要するが、行政刷新会議による事業仕分けで、今年度は2兆円の財源を確保したことを思えば、決して不可能な数字ではないと思う。
たとえば、GDP(国内総生産)に対する障害者関連給付をフランス並みに引き上げるとすると、約9千億円が必要となるわけだが、そのことによって、少なくともフランスのような障害者雇用制度にまでは到達できるならば、とりあえずは制度改革は合格点を付けられると私なりに思っているし、期待をしているのである。
(きたむらのりゆき 社会福祉法人あかしあ労働福祉センター(北海道)常務理事・総合施設長)