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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
相談支援事業の課題と展望

小澤温

1 相談支援事業の歩み

1990年代の初めから地域で生活する障害者の生活支援の要として相談支援事業の充実が言われてきた。相談支援事業の具体的な制度としては、身体障害者、知的障害者(障害児を含む)、精神障害者といったそれぞれの障害に応じた地域生活支援事業をあげることができる。

これらの相談支援事業に共通する事業内容としては、(1)在宅サービス(ホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイなど)の利用援助、(2)社会資源を活用するための援助、(3)地域交流、(4)家族支援、(5)社会生活を高める援助、(6)ピア・カウンセリング、(7)専門機関の紹介(リファー)、をあげることができる。

この3障害別に対応した相談支援事業の整備は、国の7か年にわたる「障害者プラン」(1995年に公表)においても数値目標化され、国庫補助事業として整備が行われた。ところが、2003年の支援費制度の施行の際に、身体障害者と知的障害者に関わる相談支援事業の国庫補助金が一般財源化され、自治体の裁量によって実施されることとなった。さらに、2006年の障害者自立支援法の施行により精神障害者に関わる相談支援事業も同様に自治体の裁量によって実施されることとなった。これにより3障害別の相談支援事業は消滅し、障害者自立支援法の地域生活支援事業の一部として、自治体の裁量に実施を委ねることになった。このことは、自治体の財政力などの要因によって相談支援事業の基盤整備に自治体間の格差をもたらすという大きな問題を今日に至るまで生み出している。

2 障害者自立支援法と相談支援事業の問題

「障害者自立支援法」において、サービス利用を希望する場合、利用者は市町村に申請しなければならない。申請は都道府県が指定する相談支援事業者ないしは利用者自身によって、市町村に申請する。

相談内容が「障害者自立支援法」の介護給付に関する場合、市町村は障害程度区分の1次判定と、その結果を勘案して、市町村審査会において支給決定の判定を行う。市町村は審査会の判定をもとに支給決定案を作成し、サービスの種類と量に関する支給決定を行う。障害程度区分は個々人の利用上限を拘束するものではないが、障害程度区分の人数が介護給付の国庫補助金の算出根拠となるため、自治体においては実質的な上限設定と考えることができる。

このことは、「障害者自立支援法」における相談支援事業のケアマネジメント業務に大きな影響を与える。ケアプラン作成では、障害程度区分の判定に基づいて決められた枠組みを前提に作成される可能性がある。なぜならば、障害程度区分の判定は、利用者の総合的なニーズの判定、必要なサービス量の判定と関係したものではなく、必要とされる介護時間に基づいたサービス受給の資格審査という性格が強い。従って、利用者の総合的なニーズアセスメントに基づいてケアプラン作成がなされるという「ニーズ中心のケアマネジメント」における考え方が適用できない可能性がある。

また、障害程度区分の判定に基づいた枠組みでケアプラン作成を行うにしても、「障害者自立支援法」で給付されるサービス種類は決まっており、この決められたサービスの組み合わせのケアプランになることが多い。

都道府県で実施されている相談支援事業者への研修では、利用者のニーズに対応したサービス(社会資源)が存在していない場合、新たな社会資源を開発し、ケアプラン作成に生かすことが強調されているが、この業務は、相談支援事業や自治体の裁量に依存しているので促進されにくい現状がある。

3 総合福祉法に求められる相談支援の仕組み

相談支援事業に関するこれまでの課題を整理すると、国庫補助事業の廃止の結果としての自治体間格差、3障害の枠にあてはまらない多様な相談対応への不備、利用者中心のケアマネジメント実施の困難さ、障害程度区分の影響を強く受ける支給決定、専門相談機関への紹介の困難、をあげることができる。従って、障害者総合福祉法(仮称)では、これらの課題の解決が求められている。

具体的な提案としては、以下、箇条書き的に示す。

1.相談支援の拠点となる総合相談センターの特徴

  • 市町村に設置(都道府県も設置可能)する。ただし、国庫補助事業で実施する。
  • 3障害にこだわらない幅広い相談に対応する。ただし、相談内容により、専門相談機関にリファー(紹介)する。
  • 利用者中心の個別支援計画を、ケアマネジメントおよびセルフマネジメントの手法により作成する。それをもとに、自治体との間で、支給決定に関するガイドラインを協議・作成し、そのガイドラインに基づいて支給決定を行う。
  • サービスに関する苦情対応、ピアサポート人材の育成と支援などのアドボカシー活動を行う。

2.都道府県の専門相談機関(既存のもの)の充実

  • 発達障害、難病、高次脳機能障害などの障害に関する相談機関の充実
  • 就労、教育、生活(所得)保障といった分野に関する相談機関の充実
  • 総合相談センターからのリファーを円滑にするために、地域自立支援協議会などのネットワークの活用

(おざわあつし 東洋大学教授)