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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
障害程度区分と支給決定プロセス

竹端寛

はじめに

道具は、ある目的を果たすために存在する。障害程度区分や支給決定プロセスも、障害のある人の暮らしを支えるための道具であり、方法論である。それらの方法論が、時代や社会が変化した後も目的達成のために最適な手段かについては、時に検証が必要である。

そこで少しだけこの道具の歴史的変遷を振り返った上で、新法づくりへの期待へとつなげたい。

支給決定プロセスの歴史的変遷

ご承知のように、障害程度区分は要介護認定基準を改良して生まれたものである。この要介護認定基準は、施設入所者がどのような行為に何分ぐらいの時間をかけているか、を時間に着目して調べた、1分間タイムスタディという全国調査が土台となって出来上がった方法論である。当時、その方法論がなぜ必要だったかについて、「ミスター介護保険」と呼ばれた山崎史郎氏は、次のように語っている。

「介護の必要性とその程度を客観的で、透明性の高い形で判定することは、介護保険の『公正・公平性』を確保する『必須の条件』だと考えていたからです」1)

介護保険制度では市町村が支給決定を行うことになったが、90年代はアセスメントソーシャルワーカーがいる自治体は少なく、また社会福祉士や介護福祉士、精神保健福祉士といった国家資格保持者も少なかった。故に、認定基準の客観性や透明性、公正・公平性を専門職で担保することができないなら、それに変わる客観的尺度の設定は、制度普及には「必須の条件」だったのである。

ただ、この要介護認定基準という道具は、あくまでも部分的なものしか測れない道具である。障害程度区分に応用された時に極大化したその限界とは、ADL以外の「見守り」や「陰性症状への対応」といった支援の必要性は測りづらいことだった。故に、精神障害者や知的障害者では、二次判定で区分が変更されるケースが頻発した。同種の問題は認知症でも見られることから、現在、認知症の家族会は要介護認定基準自体の廃止を訴えている。

またこの道具が、在宅調査ではなく入所施設調査で作られたことによる限界も見逃せない。施設は集団管理型一括処遇が可能な場であり、介護時間は標準化しやすい一方、在宅であれば、一人ひとりの生活に合わせて介護時間が変わるため、標準化しにくい。もちろん入所施設でも昨今ユニットケアなどの個別化が進むなか、10年以上前に作られた入所施設データに基づく基準で測り、それを国庫負担基準や支給量と連動させることに、限界がきているのである。

あるべき姿を求めて

ではどうすべきなのか? 今、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会では、障害程度区分の廃止とそれに代わる協議・調整による支給決定プロセスのための体制構築について、作業部会で具体的な議論がスタートしている。このことに関連して、介護保険制度を構築してきた識者からは、たとえば次のような声が上がっている。

「要介護認定審査会制度を廃止し、ケアマネージャーに要介護度の判定を委ねるべきだとの考え方が一部に見られますが、極めて公的性格の強い財源であること、恣意的な判断を排除する必要があることから、全国統一ルールに基づく合議制の現行審査システムを維持することが適当であり、制度を維持し、発展させていくうえで不可欠である」2)

これは社会保障審議会での厚労省幹部の発言等とも一致する見解であるが、筆者はこの見解には疑問を感じている。その理由は、公的財源をつぎ込んで高齢者・障害者ケアを構築している他国では、コンピューター判定システムではなく、専門職による査定を行っている、という(厚労省も知る)事実が覆い隠されているからである。

また、この論理が正しいのならば、医療現場における支給決定の恣意的判断も疑うべきであり、医師の裁量を認めないことを検討すべきだが、そのような議論は寡聞にして知らない。

介護保険制度創設前夜の十数年前と今とでは、支援に関わる人材も圧倒的に増え、主任介護支援専門員研修や相談支援専門員現任者研修等の質の向上も続けられてきた。当時のアセスメントソーシャルワーカーは、質・量共に不十分というのが所与の前提であったが、その前提は大きく崩れたのである。

さらに言えば、介護・介助の標準化は一定程度可能だが、それ以上は一人ひとりのニーズと状態に合わせたケアの個別化が必須である、というのも、ここ十数年のケア研究の蓄積として積み上がっている。その中で、十数年前の道具を絶対視することは、障害があっても高齢になっても、住み慣れた地域の暮らしの中で自分らしく暮らす、という福祉サービスの目的達成の方法論としては不適切と言えないだろうか。

総合福祉部会で、障害程度区分から協議・調整モデルへのパラダイムシフトの方向性が打ち出され、それを現実的に可能にするための工程表やガイドラインなどが生み出されることを期待してやまない。

(たけばたひろし 山梨学院大学法学部政治行政学科)


1)大熊由起子「物語・介護保険 第30話・あんみつ姫とアメリカンフットボール」
http://www.yuki-enishi.com/kaiho/kaiho-30.html

2)和田勝「介護保険10年―創設過程と今後の課題―」地域ケアリング、2010年7月号