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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
「利用者負担」について

藤岡毅

新法のあり方として注目を集める論点の一つが利用者負担であろう。

1 応益負担の廃止

訴訟団と国(厚生労働省)との2010年1月7日付基本合意文書第1項で「国(厚生労働省)は、速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し」とされており、その点は議論の余地はない。

2 応能負担か利用者負担撤廃(原則全額公費負担)かの推進会議、部会での意見

(1)食材費、光熱水費等の実費の負担のあり方は、議論が別になるので、ここではその点を除いた、障害がある故に生じる施策利用の負担について述べる。

(2)2010年2月15日の第3回推進会議での意見をみる限り、負担の撤廃すなわち原則全額公費負担との意見かそれに近い立場がほとんどである。

応能負担を積極的に否定する論も少なくない。障害故に生じた負担は社会全体で負担するべきとするのが今回の改革の理念に合致するからと思われる。

(3)同年9月21日の第7回総合福祉部会に提出された意見では、低所得者(市町村民税非課税)は無料、仮に負担を求める場合は本人のみに限定すべきとの点はほぼ一致している。

部会の配布した議論のポイントに関する文書でも、「多くの委員が、障害に伴う費用(障害のない市民には発生しない費用)はあるべき姿として利用者負担をなくすべきと考えていると見られる」とまとめている。

3 私見

(1)障害者福祉の支援とは、憲法、権利条約等により、他の者との平等原則、生存権保障、個人の尊厳保障、だれもが排除されないインクルーシブな社会を理念とする。

障害とは、個人の参加を拒む社会的障壁であり、バリアを除去するための費用を社会の側でなく、本人の側に負担させることは、障害福祉の原理に反する根本矛盾である。

自立支援法は「共に支え合う」との美辞により本人負担を根拠付けたが、障壁に直面している被害者に負担させる以上、この場合は障害自己責任を覆い隠すレトリックである。

公共のスロープや障害者用トイレを利用する者に対して、他の人は階段やトイレが無料であるにもかかわらず、費用を負担させること。これは差別であろう。

(2)では、所得の高い障害者だけ所得に応じて費用負担させれば、差別でなくなるのか。所得の多寡と関係なく、負担させること自体が障害のない市民との平等に反する差別である。

障害者福祉は、労働、教育、コミュニケーション、生活、政治その他、あらゆる社会生活全般に及ぶものであり、利用者負担制度自体を相容(い)れないものとして積極的に否定するはずである。

(3)事業所は、利用料を遅滞した利用者との契約を解除できるが、それにより公的福祉支援が打ち切られる事態は、人権保障としての福祉と到底言えず、利用者負担制度の根本矛盾を象徴している。

4 利用者負担制度をなくすことが財政上、合理性があること

(1)前記第7回部会で厚生労働省から配布された資料では、平成21年7月の介護給付費等(自立支援医療は除く趣旨と思われる)利用者負担率は1.94%であったが、102億円を投入した結果、平成22年4月の利用者負担率は0.37%になった。つまり1.57%が102億円であり、残る0.37%の無償化所要額は計算上24億円である。

ただし、自立支援医療に関しては、低所得者無償化に100億円程度必要と言われているので、全面無償化にはさらに金額は増えると思われる。

(2)利用者負担制度があるため、当事者は自治体から所得証明書等を取得し、あるいは障害福祉部署による課税部署への調査に同意した上で「利用者負担減免申請」を郵送等で行い、福祉担当者は、証明書を確認し、課税部署へ照会調査を行い、1人ずつ負担区分を決めて、上限額決定を行う膨大な事務を強いられている。所得証明書発行は実務上無料だが、本来は1通400円程度の手数料コストが掛かっている。

また、事業所は、利用者の支給決定書などから各自の負担区分を把握し、月の利用量に応じて、上限の範囲で利用者負担の請求書を作成し、費用を掛けて発送し、口座振替または集金活動をしている。複数の事業所を利用する場合、上限管理の連絡調整と管理業務も煩雑である。

このように、利用者負担制度を維持するために、自治体、本人、事業者が全国で掛けている労力とコストは膨大であり、試算すれば100億円どころの数値でないだろう。

(3)要するに利用者負担制度を維持するより、廃止したほうが経済メリットがある。今回の改革で支援の対象となる障害者の範囲が広がることで全体の必要費用が増加する場合も、利用者負担制度を維持するためのコストもそれに連動する以上、論旨を変える必要はないであろう。

(4)「無料だとモラルが崩壊する」という言説者は、この4月以降90%以上の障害者は無料である以上、すでにこの国の障害者のモラルは完全崩壊状態というのであろうか。

私が総合福祉部会に出した意見として、国民平均所得の10倍以上稼いでいる人については、国民感情を考えて応能負担も考えられるとした。

ただし、実際にそれだけ稼いでいるこの国の障害者は稀(まれ)と思われる。

(5)報酬月払いは、日割りに比べて個人の利用者負担が増えるという議論も利用者負担を廃止すれば解決する。

5 結論

新法では、障害福祉施策の利用者負担制度は廃止するべきである。

(ふじおかつよし 障害者自立支援法訴訟弁護団事務局長)