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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

新法づくりに向けた提言
難病・慢性疾患のある人が福祉を利用できるためには
―障害者新法に向けて思うこと

水谷幸司

一口に難病と言っても、その症状や日常生活の状態は人によってさまざまであり、パターン化は困難である。その多くは原因も分からず根本的な治療法も見つかっていない。診断名が確定するまでに、対症療法で数多くの診療科、医療機関にかかったあげく、何十年もかけてようやく確定診断が下される例も珍しくない。進行を抑えるための治療を欠かさず行わなければならない長期慢性疾患の人たちも、その日によって身体の状態に波があり、良い状態の時は外出もでき、見た目には全く分からないが、少しバランスを崩してしまうと長期に入院したり、何日も寝たままの生活を送らざるをえなくなる。

このような人たちは、「疾病が治ってなお残る機能障害」としての障害、「固定」、「永続」、「日常的な著しい制限」というわが国の狭い障害規定の下では、「障害者」の範囲には入らず、障害者福祉制度の谷間に置かれてきた。

この間の推進会議での議論や国会の動きなどを見ていて、個人的な見解として私なりに思うことを述べてみたい。

1 「制度の谷間」とは何か

「制度の谷間」には、大きく分けて二つある。一つは、難病や慢性疾患のように症状や状態そのものを障害ととらえることがされず、現行の障害者福祉施策では対象とされていないという問題である(ただし、国内法のなかで、国民年金法における障害年金の障害概念だけは「その他の障害」として、難病や慢性疾患を障害給付の対象に含めている)。

二つは、内部障害のようにすでに現行の障害者福祉制度のなかで、心臓、呼吸器、腎、肝など一部の臓器機能障害が対象とされているが、基準がとても厳しく、実態を反映していないことから起こる「谷間」の問題がある。

この二つの谷間は、両方ともに埋めていかなければ、当事者にとっては現実に施策が受けられず意味がないことになる。

2 難病を障害の範囲に

一つ目の谷間については、難病当事者が入っていない推進会議でも多くの委員から発言があり、発達障害、高次脳機能障害とともに難病を含めた新しい障害の規定をつくる点では、大方の合意があると言える。来年の障害者基本法改正に向けて、この方向で改正を行うことでは推進会議での異論は出ていない。しかし、どのように定義すればそれが実現するのかについては多くの意見が出され、まだ結論は出されていない。

3 現行施策のなかでの谷間とは

二つ目の谷間は、すでに一部の慢性疾患に適用されている内部障害者と言われる人たちの「制度の谷間」である。心臓の例を挙げる。

心臓疾患は、今から40年以上も前の1967年に心臓機能障害として身体障害者福祉法の対象に入り、内部障害者としてわが国の障害者の仲間入りをしてきた。当時、心臓手術の際の医療費助成制度(更生医療)の適用で、高額な手術費用にあえぐ多くの患者が助かった。その後、手術による救命が主であった当時の医療から、医学の進歩によってQOLの向上やリハビリテーション(人生の目的への完全な復帰)を課題とするように変わってくるなかで、当時は長く生きられないとされてきた重症心疾患の子どもたちも、医療を受けながら社会に出ていくことが当たり前の時代になった。

現在、先天性心疾患をもつ成人は、学会の推計でも40万人以上はいると言われている。支援策の中心は、やはり医療費の負担軽減は引き続き重要だが、同時に就労や所得保障、社会参加といった福祉・生活保障のための支援策も強く求められている。

しかし、現行法制度は、施策の枠組みも、認定基準も旧態依然としており、障害者自立支援法に至っては、その介護給付のうち、心臓疾患をもつ人が受けられるサービスはごくわずかである。

このような現行法の枠組みや支給決定の仕組みをそのままにしたまま難病を法の枠内に入れたとしても、それだけでは必要な人たちが支援を受けられないことは明らかである。

4 新法に向けての課題

この間の推進会議での議論を見聞きするなかで、「社会モデル」を強調するあまり、医療や健康の課題を置き去りにするような議論が気になる。障害の原因を環境因子に求める視点は大事だが、同時に、医療によって障害を軽減させたり、現在の状態を保っていること自体を障害としてとらえることは、医療が日常から切り離せない難病・慢性疾患のある人の支援を考える上では欠かせない視点である。

障害者権利条約第25条「健康」の規定の具体化は、障害者基本法の改正や新法を考える上でも当然必要な課題なのに、その議論がほとんどない。

また、難病・慢性疾患のある人の支援のあり方については、拙速な議論で固めてしまうのでなく、新法の枠内に含めつつ充実させることとし、福祉法だけでない総合的な法改正による制度作りに向けて、中長期的な継続した検討会で実態も掘り下げつつ、検討されていくことが必要である。厚労省内には「新たな難治性疾患対策の在り方検討チーム」がすでに発足している。来年の障害者基本法改正が、新たな一歩となることを期待している。

(みずたにこうじ 日本難病・疾病団体協議会)