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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

わがまちの障害福祉計画 神奈川県小田原市

小田原市長 加藤憲一氏に聞く
人と人をつなぐケアタウン構想の原点は、障害者との活動

聞き手:小川喜道
(神奈川工科大学創造工学部教授)


神奈川県小田原市基礎データ

◆面積:114.06平方キロメートル
◆人口:198,429人(平成22年4月1日現在)
◆障害者数:(平成22年4月1日現在)
身体障害者 6,366人
知的障害者 1,408人
精神(手帳所持者) 600人
精神(通院医療) 1,766人
◆小田原市の概況:
小田原市は、神奈川県の西部に位置し、古くから人、もの、情報などが行き交う要衝となっている。平成12年に特例市に移行し、一つの自治体として行政の質を高めることはもちろん、歴史的にもつながりの深い県西地域の1市8町(南足柄市、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、箱根町、真鶴町、湯河原町)との広域的な連携も進めている。また、現在では、「いのちを大切にする小田原へ」「希望と活力にあふれる小田原を」「市民が主役の小田原に」を市政運営の柱に掲げ、市民主体のさまざまな検討組織を立ち上げ、市民参画による市政運営を進めている。
◆問い合わせ先:
小田原市福祉健康部障害福祉課
〒250―8555 神奈川県小田原市荻窪300
TEL 0465―33―1467  FAX 0465―33―1317

▼小田原市に対する市長の思いとは、どのようなものですか。

私は、生まれも育ちも小田原です。家は代々農業をやってきまして、この小田原の土地にはとても深い愛情をもっています。市の南西部は箱根連山につながりますし、中央を酒匂川が流れ足柄平野を形成し、南部は相模湾に面しており、自然に恵まれています。実は、小田原のすばらしさというものは、県外に出て働いたり、いろいろと経験を積む中で強く感じてきたものです。市長となりまして、このすばらしさをぜひ活かしていきたいと思っています。

▼その素晴らしさとはどのようなものですか。

もちろん、海あり山あり、自然に恵まれていること、また、伝統文化・技術などもあること、これらはとても大きな財産なのですが、それと共にここでは土地柄として自治会の組織率が高いこと、また、地区社協の活動が活発であることなど、住民一人ひとりの力が挙げられます。その土地に住んでいるお子さんやお年寄りが豊かに暮らせる、つまり、お金に換算できないことがどれだけ整っているか、が大事だと思います。

▼人と人とのつながりを政策の基盤にしていきたいということですね。

地域でもっとも大切なことは、そこでの支え合いだと思っています。人が人として豊かに暮らすという視点に立つと、今は、弱い立場の人が暮らしにくくなっている現状があります。もう一度、その「支え合い」というものをしっかりと取り戻すことが地方自治体として、とても大事だと思っています。「いのちを大切にする小田原」として、もちろん、自然環境を守るという前提を持ちつつ、医療、教育、福祉についてはしっかりやりたいと思っています。

▼その具体化はどのように考えておられますか。

マニフェストに「人と人とのつながり」というものを掲げる上で、私の人生の中での経験が大きかったです。娘が重い病を患い、その後遺症として脳に障害が残りまして、特別支援学級、そして特別支援学校高等部に上がり、現在はおかげさまで働く場をいただいています。親としての思い、また、娘を通して出会った方々、その中にはとても重い障害をおもちの方もいらっしゃって、そのご家族の状況などを見てきて、そこから得た学びは、私の施策に色濃く反映しています。

特別支援学校を出てから、とたんに行き場がなくなってしまう。学校から帰ってくると居場所がない。友達ができない。社会からの疎外感を感じる。本人、家族とも苦しむことになっている状況を強く感じています。それを何とか支えていきたい、これが発想の原点にありました。

▼制度的な支えも必要ですが、人とのつながりによる支えというものが大切だということになるのでしょうか。

加えて、地域には高齢者の介護という領域があり、そこでいろいろなサービスがありますが、たとえば、デイサービスが終わった後の場所を利用することも考えていきたいと思います。ケアのマインドとスキルをもった人がいるのですから、それを活かしていく方策もあると思います。高齢者分野を障害者にも活かし、うまく共有していければいいと思っています。

わが家は娘のことで経験していますが、どのご家庭でも、だれでもそうした状況になる可能性があり、他人事ではないのです。理解し、手助けし合う地域の仕組みを作りたい。つまり、世代を超えて、障害種別を超えて、支え合う、それが私の「ケアタウン構想」の基盤になっています。

▼そのケアタウン構想について、お教えください。

この構想を練るのに、学識経験者やさまざまな現場の方々に参加していただいて、昨年度1年間かけて議論いたしました。それを基に、22年度は5地区で、高齢者や障害者など地区ごとにテーマを絞ったモデル事業を試行しています。たとえば、国の高齢者の地域包括ケア推進事業を受け、地域の方々が集える交流の場に24時間365日対応窓口サービスを加えた「ふれあい処ひとやすみ」、障害者と住民のふれあい活動、住民による子育てサロン活動、などです。

市には25のエリアがあり、それぞれ地理的なまとまりがあります。高齢者や障害者の方々の支援の仕組み、集まる拠点づくりなど、各地区での実践を踏まえたアイデアを持ち寄って、地域としての包括的なパッケージを作っていく予定です。その地域の営みというものを活用していきたいと思ったわけです。特にシニアの方々に、世代を超えた貢献を期待しています。

図 ケアタウン構想の体系拡大図・テキスト

▼私も「ふれあい処ひとやすみ」を訪問させていただきましたが、スタッフの方も温かく、また、足湯などを設けてあり、立ち寄りたくなる工夫がありますね。ところで、市長はかつて障害者のボランティア活動をされていたと聞きますが…。

高校の時に生徒会活動をしていまして、その時にたまたま、頸髄損傷の方が訪ねてこられ、アルミ缶を集めるのに協力してほしいとお願いされ、土曜日に学校が終わってから、リヤカーを引きながら小田原城周辺、海辺、商店街を回りまして、アルミ缶を集めていました。そこで、障害者の方とも交流させていただきましたが、大学は京都だったものですから、そこでも京都の頸髄損傷会の立ち上げなどのお手伝いをさせてもらっていました。

障害をもつ方の苦労というのは、本当に当事者でないと分からないので、それを解消するようにしなければならないという強い思いがあります。孤立感というものも解消していきたいと思います。だからこそ、地域で弱い立場の方を理解し、支えるということを当たり前のこととしていきたい。地域総ぐるみで支えるというのが、ケアタウン構想なのです。

▼今、課題として取り組んでいることはありますか。

子育ての中で発達障害のお子さんが増えていると言われていますが、これから重要な問題になってくるかと思います。保育現場で「気になる子」が増えていて、現場の対応が遅れているということ、これは早急に考えなければならないと思っています。これは、構想の中で重要な領域としています。予算が微々たるものですが、現在は、臨床心理士が巡回するなどをしています。将来的には専任を置くようにしたいと思っています。

また、障害者の就労の場が少ないということもあり、この地域になかった特例子会社や就労継続支援A型の設立に向けた支援に取り組み始め、特例子会社については設立され、障害者の採用が始まったところです。それから、知的障害のある特別支援学校の生徒の職場体験を市で受け入れておりまして、このような生徒を、来年度から市の非常勤職員として雇用しようということで、準備を進めています。

▼役所が率先して、職場体験の場を提供するのはとても大事なことですね。

知的障害の方は市役所での作業は難しいと思われがちですが、担当課から、職場体験の生徒が、どうすれば前日より作業が早くなるか考えたりしているとの報告も受けており、それぞれの障害者の個性を活かした作業をしてもらえば、コスト的にも、仕事にできることはあると考えています。

▼ケアタウン構想の中に、障害者施策をどのように盛り込んでいくのでしょうか。

障害者に対する支援を拡充していくことはもちろんですが、障害者にも地域活動に参加していただくように進めていくことが大切だと思っています。現在、モデル事業にNPOの障害者団体が取り組んでいます。障害者に対してサービスをしていくだけではなく、障害者が地域の中で活動することを支援していくこと。それが、ノーマライゼーションの理念や、ケアタウン構想につながるものだと思います。

▼最後に、市長として思いを…。

ケアタウン構想を事業メニューに落とし込んで試行を始めているところですので、今後は、実践の中でこの方向は間違っていないということを実感してもらえるよう進めていきます。国の大きな流れとして地域包括ケアがありますが、公的ケアと共に地域の皆さんの自発的動きと組み合わせていく、この方向で間違いないと思っています。

縦割りでない、子育てのことも、高齢の方も、障害の方も、地域の方も一緒になって地域づくりをしていくことが、当たり前になるよう一歩一歩進めていきたいと思っています。小田原がそういう意味で先行事例になれるよう、がんばっていきたいと思います。


(インタビューを終えて)

加藤市長から、京都や神奈川、また全国の頸損会の方々の名前が飛び出したことに驚きました。学生時代に頸髄損傷者のボランティア活動や身体障害者の登山会に参加されており、その頃の思い出話をたくさんしてくださいました。誌面の関係で載せられないのが残念です。小田原市の障害者福祉は、財政的に厳しいという前提はありますが、市長の経験や実感をもとにしっかりと施策として反映されることを期待しています。

【参考】

小田原市ケアタウン構想報告書
http://www.city.odawara.kanagawa.jp/__filemst__/9707/saishuhokoku.pdf