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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2010年12月号

ほんの森

頸損解体新書2010
―ひとりじゃないよ―

全国頸髄損傷者連絡会 編集

評者 澤村誠志

全国頸髄損傷者連絡会
〒162―0051
新宿区西早稲田2―2―8 全国財団ビル
頒価2000円(A4判、164頁)
TEL 03―3208―1655
FAX 03―3341―5017

今回、全国頸髄損傷者連絡会より、1991年から19年ぶりに新たに「頸損解体新書2010」が出版された。かねてから三戸呂克実会長をはじめとして頸髄損傷者連絡会の自立生活に向かっての素晴らしい行動力を垣間見ながら、常に頭が下がる思いをしてきた。

1991年の実態調査後の医療技術とリハ工学技術の進歩により、人工呼吸器を使用する頸髄損傷者も在宅生活に移る可能性が増え、QOLが向上している人々が増えている。しかし一方では、制度の谷間に取り残され、情報に接する機会もなく、採算が合わない多くの看護ケアが必要なために入院医療を拒否される現実の姿がある。その立場から、改めてこの頸損解体新書2010に接し、全国頸髄損傷者連絡会の持つ情熱、企画性、調査に基づく数々の提案、今後の目指す方向についての多くの示唆を得ることができたことに感謝したい。

本書は、まず頸髄損傷当事者の受傷後から社会参加までの生々しい体験が語られている。この障害当事者の生の声をすべてのリハ医療従事者に届かせたい。長くリハ医療に関わってきた一員として、国際的に最低の医療費政策による地域医療供給体制の崩壊が起こりつつある中で、頸髄損傷者の方々のニーズに応える医療体制をとることのできない無力さ、歯がゆさを感じざるを得ない。

第2部には、全国の頸髄損傷者736人の方々について、重度頸髄損傷者が抱える問題、高齢化と性別による問題、健康、生活環境、外出の壁、就労の壁、自立生活と社会参加を促進する上で必要な社会的支援のあり方に関する基礎資料が作成された。まさにこれこそ、障がい当事者の目線での貴重なデータである。

この調査の結果を受けて、第3部では、自立生活に向けての社会的条件整備の課題として、頸髄損傷者の拠点となる医療機関の整備、専門職の養成、自立支援システムの構築、住環境・福祉用具の整備、交通・まちづくり、雇用・所得保障、そしてセルフヘルプの意義と重要性が述べられている。

だれもが、365日24時間安心して、住み慣れた地域で、仲間と共に、活(い)き活きと住み続けるインクルシーブ社会の創造を目指したい。その意味で、本書の果たす役割や意義はきわめて大きい。医療関係者だけでなく、社会福祉、職業、教育、リハ工学、まちづくりに関係する方々にぜひ一読をお勧めしたい。

(さわむらせいし 兵庫県立総合リハビリテーションセンター名誉院長)