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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

ワールドナウ

障害者権利条約と雇用就労問題をテーマに
“2010アジア太平洋盲人福祉会議”

指田忠司

昨年10月29日(金)から11月1日(月)までの4日間、千葉市のホテルと東京のすみだ産業会館を会場に、「2010年アジア盲人福祉会議日本大会」が開かれた。この会議は、WBUAP(世界盲人連合アジア太平洋地域協議会)と、社会福祉法人日本盲人福祉委員会が主催したもので、内閣府、厚生労働省、文部科学省などが後援した会議であった。

日本でこの種の国際会議が開かれるのは、1991年以来で約20年ぶり。今回はWBUAPの中期総会を兼ねていたことから、WBUAPの19か国・地域の代表約130人が出席したほか、欧州盲人連合の関係者や、WBU(世界盲人連合)の本部役員なども参加した。その結果、国内参加者とスタッフを合わせて参加者約250人という、これまでにない規模の会議となった。

今回の会議では「障害者権利条約の批准と視覚障害者施策の充実を目指して―平等な就業機会と生存権の保障―」というテーマが掲げられ、このテーマに沿って、基調講演や分科会、シンポジウムなど、盛りだくさんのプログラムが組まれた。以下、千葉会場を中心に会議の模様を紹介する。

活発だった2つのフォーラム

第1日目の10月29日(金)には、いわゆるプレイベントの形で、女性フォーラムと青年フォーラムが開かれた。WBUでは、1990年代から女性委員会の活動が活発で、世界大会や地域の総会では必ず女性フォーラムが開かれているが、今回もWBUAPの女性委員会と日本盲人会連合(日盲連)女性協議会が協力して、「わかちあい、学びあい、ともに力を―女性の地位向上を目指して」をテーマにフォーラムが開催された。

また、次世代への運動の継承を念頭において、青年層の組織強化も注目されていることから、地域総会としては、2003年のシンガポール大会以来2回目となる青年フォーラムも企画された。ただ、WBUAPの組織としてはまだ青年委員会がないことから、日盲連青年協議会が中心になって「共有・思考・創造―各国における青年を取り巻く諸問題と組織強化」をテーマとするフォーラムを企画した。

これら2つのフォーラムには、40人規模の会場が用意されていたが、いずれも倍以上の参加者であふれ、熱心な意見発表と質疑が行われた。

基調講演と記念講演

10月30日(土)は、開会式の後、障がい者制度改革推進会議の議長代理で、JDF幹事会議長の藤井克徳氏が「日本における障害者制度改革の概要と関係者に問われるもの」という演題で基調講演を行った。藤井氏は、障害者権利条約の批准に向けた国内の動きとして、目下進められている障害者制度改革の検討状況について報告し、JDFなど障害当事者の運動が今後ますます重要になってきていることを指摘し、視覚障害者の立場からも積極的な提言を期待している旨を強調していた。

続いて、海外からの講演者2人が演壇に立った。初めにWBUのM・ダイアモンド会長が「世界盲人連合の役割―現在と未来と」と題する講演を行った。ダイアモンド会長は、2008年8月の就任以来、WBUとして取り組んでいる1.代表、2.能力開発、3.情報の共有、4.組織強化という4つの戦略目標について紹介しながら、視覚障害者の教育、雇用、社会生活などにおける各国、各地域における取り組みの方向性について語った。

2人目の講演者は、欧州盲人連合のリハビリテーションに関する委員会の委員長のF・リード博士で、博士は「欧州連合における視覚障害者の労働活性化―成果と課題」と題する講演を行った。博士は、これまでの雇用就業対策の中心が求職障害者のためのものであったことを指摘して、これからは、何らかの理由で求職活動に至っていない不就業者に注目して「隠れた多数派」としての不就業者対策に取り組む必要があること。その場合、ソーシャルファームの考え方が注目されることを指摘していた。

この日の午後には、WBUAPの総会(代議員会議)と加盟各国からのカントリー・レポートがあった。また、これと並行して、アジア地域で視覚障害関係の事業を行っている国内5団体の活動を紹介する分科会も別会場で開かれ、国内の参加者の関心を集めていた。

分科会とシンポジウム

10月31日(日)は、代議員会議の後、障害者権利条約と能力開発をテーマとする2つの分科会が開かれた。

障害者権利条約に関する分科会では、タイのM・ブンタン上院議員の報告や、WBUのCEOのP・ハーティン博士からの報告を中心に、視覚障害者の立場から、この権利条約をどのように生かすかについて議論された。また能力開発に関する分科会では、デンマーク盲人協会との協力で進められてきたモンゴルとラオスにおけるプロジェクトの成果が、それぞれの関係者から報告された。

この日の午後に行われたシンポジウムでは「視覚障害者の平等な就業機会の保障」をテーマに、オーストラリア、香港、日本からの発表に加えて、前述のF・リード博士とP・ハーティン博士からも、雇用問題への取り組みに関する提言があった。

WBUAP総会と「千葉声明」

今回の会議は、WBUAPの総会も兼ねていたが、その点について言えば、理事会や委員会の報告の後、組織強化に向けた定款の改正や、2012年までの行動計画の見直しなどが審議され、今後の組織的活動の基盤整備への基礎固めが行われた。そして10月31日午後の全体会では、本会議のまとめとして「千葉声明」が提案され、全会一致で採択された。

その骨子は次のとおりである。

1.障害者権利条約の署名、批准、実施及び監視について各国にタイムリーな働きかけを行うこと。

2.失業と経済的非活動が、視覚障害者の社会からの排除をもたらす原因であることを認識し、各国において就業機会の拡大に取り組むこと。

3.青年フォーラムでの議論を踏まえ、地域内における青年の問題について情報交換を進めるために、メーリング・リストを立ち上げること。

4.女性フォーラムの熱意あふれる議論を踏まえ、視覚障害女性の地位向上のため、各国において工程表を策定するよう働きかけるとともに、女性差別撤廃条約とリンクする形で展開すること。

5.デンマーク盲人協会など、地域各国における権利保障の促進を通じた当事者団体の強化支援に感謝するとともに、将来に向けて連携をさらに強めること。

このような「千葉声明」の採択の後に開かれた送別パーティーでは、各国の代表が歌声を披露するなど、和やかな交流の時間が流れた。そして、翌日は、会場を東京都墨田区のすみだ産業会館で開かれた国際視覚障害者用機器展“サイトワールド2010”に移して、最新機器の見学と、シンポジウム「視覚障害者とICT」が行われた。

(さしだちゅうじ WBUAP会長)