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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

列島縦断ネットワーキング【岩手】

私たちが輝くことで精神障害者への理解を広めたい
―キララの取り組み―

佐々木隆也

はじめに

「俺たちみんな障害者!正真正銘、手帳付き。俺は2級。統合失調歴、もうすぐ40年」「私は1級。同じく統合失調歴、40年」。高らかな声で、堂々と舞台で演じるキララのメンバー。「みんな障害者だけど、助け合って自分たちでやっているんですよ。できないことはできる人が助けて、できないことはあまり責めないで、どうやればいいかみんなで考える」。これは、キララの活動の一つとして行っている「キラりん一座」の演劇「心、天気になあれ」の一場面です。

キララは、「心の病と共に生きる仲間達連合会キララ」の略称で、「当事者の視点で心のバリアフリーを推進!当事者も家族も地域も元気にしよう」といろいろな活動を行っている精神障害者を中心とした団体です。2004年に結成し、2010年2月、地域精神保健福祉機構(コンボ)主催の第6回精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)を受賞しました。岩手県の最南端の山間地、東磐井郡と一関市を拠点とするキララについて紹介します。

シンポジウムから生まれた当事者活動

2003年12月、岩手県一関保健所大東支所(2008年3月廃止)の声かけで、心の病を抱えている仲間が集まり、地域で初めての精神保健シンポジウムの運営に携わりました。受付や司会、音響係などを私たち精神障害者が行い、大成功。これがキララ誕生のきっかけとなりました。私たちもやれる!主役になれる!そう思いました。それから9か月かけて、会則や活動内容、名称などを話し合い、2004年9月、キララは結成したのです。

会則第1条には、「仲間との交流を通じて幸福への意欲向上を図る」と目的を掲げました。デイケアや作業所、居住地などの枠を越えて、だれもが気軽に集えて、参加することで「役立つ、楽しい、わくわく、自信がつく、ホッとできる」そういう活動を行う当事者主体の会を目指しました。

話し合いを大事に、悩み、楽しみ、挑戦する活動!

キララは、月1回の定例会を基本の活動とし、年1回のシンポジウムの主催や心の病気についての理解を深め、苦手なことに対応する力を身につける講座「キラりん講座」、後で詳述する「キラりん一座」による演劇活動、家族や当事者との交流などを行っています。

月1回の定例会では、活動の企画や準備、ピアカウンセリングなどを行います。企画の柱になるのは、自分たちの体験と悩み、自分たちが何をやりたいと思うかなので、この定例会での話し合いがとても重要です。夜のお花見、居酒屋での忘年会、一泊合宿、地域のお祭り参加など、いろいろな「初めて体験」を企画、実現してきました。そして、それらの体験から得たことを精神障害者の声としてシンポジウムで発信するのです。

このシンポジウムでの発信までの過程が、次に述べるキラりん一座という演劇活動への挑戦につながりました。

演劇で広める精神障害の理解「キラりん一座」

キラりん一座は、キララのメンバーとボランティアらでつくる演劇集団です。2006年に結成し、最初はシンポジウムで上演していたのですが、県内各地から依頼を受けて公演するようになりました。

自分たちの体験をもとにした作品作りから、キャスト、スタッフのすべての活動を当事者とボランティアで行います。舞台では、当事者自らが精神障害者の役を演じますが、不安や緊張に弱いので、台本を見ながら演じられるように工夫をしています。

みんなで作った作品は全部で6つ。発病後の就労や再発に悩みながら当事者会で元気になっていく本人と母親の葛藤を描く『心、天気になあれ!』シリーズや、社会的入院、うつ病や自殺問題を取り上げ、心の病と幸せについて考える『トンネル抜けたら!』シリーズがあります。

私たちは、この演劇活動のおかげで観客の皆様、招いてくださった関係者の方々とふれあい、受け入れてもらうことに喜びを感じることができます。演じる私たちと観客との間に一体感が生まれることも多く、励ましを受けることで自分たちも救われているのです。まさに舞台劇ならではの骨頂なのです。

この演劇に熱心に取り組んだのが、キララ前代表の佐藤正広(さとうまさひろ)さん(2009年10月、白血病で逝去)でした。正広さんの生き方から、「心の病になっても大丈夫、幸せになれる」ということを私たちは学びました。正広さんの生き方はキラりん一座の演劇とともに、IBC放送「いのち伝えたい」で紹介されました。

一緒に取り組む仲間がいるから、障害者である自分を演じることができます。劇の内容だけでなく、劇に取り組む姿から、精神障害の理解にとどまらず、心の病とともに生き抜くためのヒントを皆さんに感じていただいていると思います。

リリー賞受賞とこれからの活動

キララ前代表の佐藤正広さんが亡くなった半年後の2010年2月、キララは、前述の「第6回精神障害者自立支援活動賞(リリー賞)」を受賞しました。私たちは、前代表の遺影を抱いて、こぞって受賞式出席のため東京へと新幹線で向かいました。当時の副代表(現代表)の佐藤英明(さとうえいめい)さんは、式で次のように述べました。「賞を頂戴し、喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。私たちが輝くことで地域に精神障害への理解を広めるとともに元気を伝えたい!楽しみながら活動していきたい。“心の病と共に生きる”活動を広げ、地域の皆さんと頑張りたい」。リリー賞受賞は頑張ってきた前代表と私たちへの最大のご褒美でした。

その喜びをかみしめ、私たちは新たな活動を始めました。2010年7月、心の病の当事者に対して自殺についてのアンケートを実施し、秋のシンポジウムでその結果を報告するなど、自殺予防にも取り組むようになりました。その背景には、自分も自殺未遂を繰り返しながらも他の未遂者を救いたいという佐藤正広さんの思いがありました。キラりん一座の公演だけでなく、メンバーがパネラーとして地域で発言する機会も増えました。

キララという当事者会で活動することで、私たちは自分の居場所を見つけるとともに役に立つ喜び、自分が変わってきた喜びを感じています。「キララの活動を通して話せるようになった」「友達が増えた」「自分で自分が好きになった」「心の自由が広がった」という声が寄せられています。当事者故に当事者の視点で障害や生き方を伝えることをこれからも続けたいと思います。

終わりに

私たちキララは、周りから見ると大きく輝いているように見えるかもしれませんが、一人ひとりの輝きは小さいです。けれども、仲間同士が関わりあうことで大きく輝いているのです。2009年冬、メンバーの一人が病気で隣町の病院に入院しました。メンバーの車で送迎しながら付き添いもしました。また、火事に遭ったメンバーにはみんなで火事見舞いを出しました。このような関わりがキララの力と輝きになっています。これからも「役立つ、楽しい、わくわく、自信がつく、ホッとできる」活動で、地域に障害の理解とともに元気と優しさを広めていきたいと思います。

(ささきたかや 心の病と共に生きる仲間達連合会キララ副代表)