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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年2月号

列島縦断ネットワーキング【京都】

京都の魅力と人の力を結集して
「京野菜くっきい」でみんなを笑顔に!!

石井雄一郎

障がいをもった方と共に働く

私の会社(グラン・ブルー)は熱帯魚店を営んでおります。熱帯魚の販売はもちろん、店舗や施設向けの大型水槽の設計・施工・メンテナンスが主な仕事です。仕事の関係上、障がい児の入所施設や老人ホーム、病院等への出入りも多く障がいをおもちの方々への関心はありました。そんな中、京都中小企業家同友会障がい者問題委員会で就労支援センターの方々にお会いする機会があり、現在の障がい者就労の機会の少なさ、受け入れ企業の少なさを聞くに至り、何か協力できることはないかと考え始めたのが就労訓練の受け入れでした。

初めて訓練に来てくれたのは30代前半の男性Y君でした。精神障がいという病気で、私たちもどのように接していいのかも分からない状況でのスタートでしたが、支援体制も充実しており、Y君自身も就労意欲の強い方でしたので問題なく訓練も進み、3か月後にはトライアル雇用、さらに3か月後には正社員としての雇用に至りました。この間、他の社員との関係も良好で、Y君の仕事に取り組む姿勢や熱意に新たな気付きや働く喜びを感じる社員も多かったと振り返ります。私もY君のように就労に熱意を持った方々が身近に大勢おられることを知り、もっと一緒に働きたいと思いを新たにしました。

菓子工房ぐらん・ぶるーの立ち上げ

私の会社では、熱帯魚店と別に「アクアリウムカフェ」という、熱帯魚や海水魚の水槽に囲まれながらゆっくりとくつろいでいただくショールームを兼ねたカフェも運営しています。この店では、お料理もスイーツも手作りで提供していたのですが、もっと多くの障がいをもった方と一緒に働けるお店を作ろうと考え、スイーツだけを独立させることにしました。その中でも、クッキーならば比較的工程も簡単で、共有できる作業工程も多いという単純な理由でした。しかし、同じようなクッキーはどこのお菓子屋さんや施設でも作っておられます。みんなで働き続けるには売れなくてはいけません。利益が出て初めて継続できるのです。

そこで、私たちの作るクッキーの魅力について考えました。京都に住む私たちが作れる私たちのオリジナル、しかもお客様に関心を持っていただける商品。そんな中から生まれて来たのが「京野菜くっきい」です。京都独自の伝統野菜をふんだんに用い、京都の方、観光で来られた地方の方に気軽に京野菜の風味や滋味を味わっていただきたい。そういう思いで製作に取り掛かりました。

グラン・ブルーは商売が得意な企業ですから、商品開発にはパティシエさんが当たり、販売先開拓には営業が当たります。就労支援センターさんは就労意欲を持ったメンバーさんの支援に当たっていただきました。みんなの強みを合体させた事業です。そして、菓子工房立ち上げから1年が経過しました。

菓子工房ぐらん・ぶるーの1年

現在、菓子工房には3人の健常スタッフと4人の障がいをもったスタッフ、そして就労支援センターのスタッフさんが働いています。内訳は知的障がいをもつ雇用社員1人、グループ就労訓練の精神障がいをもつ方が3人です。仕事の内容は1.くっきい生地仕込みの補助作業、2.菓子袋への商品ラベル貼り作業、3.焼き上がりくっきいの袋詰め・シーラー作業、4.商品箱の組み立て、5.化粧箱への箱入れ、6.店頭への陳列、7.接客です。ほかに、お寺の門前市や販売していただいているお得意先でのイベント販売応援などです。

開店当初はお得意先も少なく、お客様も少なかったのですが、徐々にお得意先も増え、根気良く続けている地域清掃活動のお陰で地域の方々とも仲良くなり、1年かけてようやく運営も軌道に乗り始めました。スタッフみんなの笑顔と意欲が地域の皆さんに認められたお陰です。最近では、地方の企業の仕入れ担当者さんの企業見学も増え、皆さんが少し緊張しながらも笑顔の挨拶でファンを増やしてくれています。新たな就労支援センターや施設の職員さん、特別支援学校の先生や生徒さん、多くの方が来てくれます。

しかし、売り上げが順調に伸びるとともに工房が手狭になり、生産能力も追いつかなくなってきました。私たちのファンになっていただけるお客様や企業様が増え、有り難いことなのですが、このままではみんなが疲れてしまいます。うれしい悲鳴ではあるのですが何とかしなければなりません。今はグループ就労訓練の方も一緒に菓子工房を立ち上げてきた仲間です。一緒に会社を大きくしたい。もっと仲間を増やしたい。そこで、開店してまだ1年足らずなのですが、もう一度考えました。

菓子工房の拡大・移転

きっかけは京都市保健福祉局主催の京都市障がい者職域開発研究会でした。市の職員さんから声を掛けていただき参加したところ、全国の障がい者雇用を推進しておられる事業主さんに直接お話を伺い、学ばせていただくことができ、大いに啓発されました。そしておぼろげなイメージだった私のビジョンが鮮明になり、新たな事業展開に踏み出しました。

まずは、菓子工房の拡大です。敷地や工場の資金等の大問題もありましたが、理念をご理解いただけた銀行さんのお陰でクリアできました。次はスタッフです。現時点では、週20時間の就業時間をクリアすることは難しいが、働く意欲は十分伝わってくる。そんなみんなと一緒に働き続けていくためにはいかにすればよいか。たとえ短時間でも働いて、会社が大きくなって、お給料も増えていく。生活のリズムも大切です。将来の保障も大切です。会社を無くす訳にはいきません。

これらの問題をクリアできる一つの選択肢として、私は就労継続支援A型事業所での菓子工房・カフェ運営を考えました。障がい者スタッフの生活と就労の両面から支援でき、またそのためのスタッフも充実できる、私にとっては最良の選択かと思えました。しかし、ハードルは高く理解していただける仲間作りも大変です。でも、勇気をくださる仲間も確実に増えています。何よりも勇気づけられるのは、スタッフの笑顔です。この冊子が発行される2月には「きっずかふぇ&菓子工房ぐらん・ぶるー」として、新たな一歩を歩み出しているはずです。

ぐらん・ぶるーのビジョン

私たちは、「きっずかふぇ&菓子工房ぐらん・ぶるー」の運営会社として「株式会社 京のちから」を設立しました。障がいの有無にかかわらず京都の力を結集して住みよい地域社会を作りましょう。安心して将来の夢を語れる町づくりを目指しましょう。そんな思いを込めて名づけた会社です。当面は、多数雇用事業所として運営し、就労継続支援事業所としての認可を待つ予定です。

私たちは、子どもから大人まで、生まれ、育った地域で、安心して暮らしていける、将来の明るい生活を想像できる地域社会を目指して、みんなで小さな一歩を踏み出します。新たに生まれてくる子どもたちが等しく希望を持てる社会、仕事をしたいと思う人が障がいの有無に関係なく働ける社会にしたいと思います。育児に疲弊するお母さんお父さん、子どもの障がいに悩むお母さんお父さん、自らの障がいを克服すべく頑張る方、ノーマライゼーションに真剣に取り組んでおられる皆さん、すべての方の力を合わせて、より良い社会作りに少しでも貢献できるよう私たちは全力で頑張ります。

(いしいゆういちろう 有限会社グラン・ブルー代表)