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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年4月号

列島縦断ネットワーキング【福島】

聴覚障害の人も楽しめる字幕つきプラネタリウム投映の実施

安藤享平

福島県にある郡山市ふれあい科学館は、平成13年に開館した、宇宙をテーマとした展示物やドーム径23メートルのプラネタリウムを有する施設です。私は開館以来、プラネタリウム解説を行っております。

今回、さまざまな方のご協力により、聴覚障害者の方にも内容を伝えることのできる「字幕つきプラネタリウム」を実施することができましたので、その取り組みについてご紹介いたします。

プラネタリウムと字幕

これまでにも、全国のいくつかのプラネタリウムで、聴覚障害者に対応した取り組みを行っています。その方法としては、1.字幕を映す、2.手話通訳を映す、3.赤外線補聴システムや磁気誘導ループを導入する、などがあります。

かつては字幕をスクリーンに映すには、あらかじめスライドフィルムに字幕を焼き付け、数百枚に上るスライドを用意する必要があったり、OHPで要約筆記した手書き原稿を映し出す方法などで、非常に負担のかかるものでした。現在ではパソコンも非常に便利になったこと、ここ数年でビデオプロジェクターも非常に安価になってきたこともあり、ハードルが下がったといえます。

一方、暗い室内環境を求めるプラネタリウムの中で、明るい映像を映し出すと、美しい星空を十分楽しめなくなるということもあり、そのバランスをうまく取るためのノウハウが必要であると言えます。

これまでの当館での取り組み

これまでにも、当館では聾学校の児童・生徒を対象に、プラネタリウムを用いた学習を行っています。少人数であったことから、引率の先生に手話通訳をお願いし、先生の手元を照らすことで内容伝達を図ってきました。

また、当館のプラネタリウムの座席にはヘッドホンのジャックが備わっており、チャンネルを選ぶことで、同時通訳やスピーカーからの音声を聞くことが可能になっています。軽度の難聴の方には、ヘッドホンで音量を上げて聞いていただく方法も取っていました。

しかし、これらの対応は大人数を対象とする場合や、重度の場合には対応できませんでした。何とか解決できる方法でできないかと思っていましたが、ノウハウもネットワークもない中で、一歩を踏み出せない状況でした。

今回の取り組みが実現するまで

きっかけは、市の障がい福祉課の職員の方からの電話でした。要約筆記サークルの方が、ボランティアでプラネタリウムに字幕をつけられたら、という話が出ているとのこと。早速、要約筆記「香久池サークル」の松永壱夫さんと打ち合わせを行い、実験的な企画としてスタートさせることにしました。

初めての試みでしたので、まずはサークルのみなさんにプラネタリウムをご覧いただきました。イメージを持っていただいた上で、解説を録音したものの文字起こしを行っていただきました。専門用語などの表記確認のため、ということでしたが、改めて私も話し言葉を字幕にすることの難しさを認識することになりました。伝えたい内容が、文字にすると逆に通じにくくなる部分もあり、かなり手直しを加え前ロールとしました。そして、リハーサルに臨みましたが、多くの課題が浮かんできました。

まずは、解説内容の流れと前ロールがあまりに違うことで、現場での連携入力の負担が相当大きいということでした。当館のプラネタリウムは「生解説」で、その時、その場に応じたお話をしていますので、「原稿」というものがありません。さらに星空の様子は少しずつ変わっていきますので、前ロール作成から日が経つと、異なる内容が出たりしてきます。この部分は、あらかじめ何度かの解説を前ロールとしておくこと、実施日の内容を想定して校正をあらかじめ行っていくことで、対応することにしました。

もう一つは、文字を映すビデオプロジェクターの課題です。夕暮れの情景と満天の星空では、室内の明るさが大きく異なります。スクリーンに映す文字の明るさも、その場に応じて変えなければならないのです。プロジェクターの設定だけでは対応しきれず、試行錯誤の結果、レンズの前にフィルターを抜き差しすることで対応することにしました。

また、字幕をスクリーンのどの位置に出すのが適切なのかも、検討を重ねました。映画と違い、プラネタリウムでは広い丸天井のあちこちの星を紹介します。字幕と対象となる星があまりに離れていると、目線の移動が多く、字幕と場面がうまくつながらなくなるのです。一方で、字幕を映す位置が突然変わると字幕を見失う可能性などもありました。結果として、話の流れなどから最も視線移動の位置が少ない場所を基本の位置として、若干の移動で済むようにしました。

そのほか、難聴者協会の方のご協力でリハーサルに立ち会っていただき、スクロール方式での字幕投影では見づらいこと、また文字の大きさや色も含めて、さまざまな改善点のご指摘を踏まえて、実施となりました。

2回の取り組みから

1回目は平成22年8月29日に行いました。字幕を担当した香久池サークルのみなさん、プラネタリウムを担当した当館も手ごたえを感じ、第2回目の実施につながりました。1回目のアンケートで、難聴者の小学校低学年の児童が漢字をすべて読み取れなかった、という意見があったことから、2回目はそれに対応した新たな試みを行うことにしました。

1回目は一般向けのプラネタリウムの内容でしたので、第2回目は子ども向けのプラネタリウムで行うこと、幼児から読めるように振り仮名をつけるという方針で、2回目は平成23年2月19日に行いました。1回目の経験を踏まえて、準備はスムーズに進みましたが、新たな課題も出てきました。

一つは子ども向けの内容のため、テンポよく進める私の話すスピードがどうしても早くなり、字幕の移り変わりが早くなってしまったことでした。

二つ目は、ひらがな表記を増やすとともに、すべての漢字に振り仮名をつけたことから、大人にとっては読みづらかったことなどで、どのように両立させるか、今後の課題です。

アンケートをみると、観覧者の中で聴覚障害の方の割合は20%弱と多くありませんが、難聴者を含めた家族全員が内容を理解でき、共通の会話の話題が深まったということ、字幕により聞き逃した部分もフォローできることなど、情報保障という観点以上に、多くの効果も見出すことができました。

ようやく踏み出した一歩ですが、星を楽しむ輪をより広げられるように続けていきたいと思います。最後に、今回の実施に関してご協力いただいた多くの方に感謝申し上げます。

(あんどうきょうへい 郡山市ふれあい科学館学芸員)