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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

自治体の支援施策 神奈川県横浜市
横浜市の住環境整備事業

小田芳幸

1 はじめに

高齢者や障害者が安心して在宅生活を送るためには「福祉用具の活用」「住環境の整備」「人の支援」が障害の状況に応じて整っていることが求められる。留意したいことは、福祉用具の活用や住宅改造は「障害・介護・環境」の適切な評価に基づいて実施されなければその投資効果が半減してしまうことである。また、ハード面を整備すれば安心した生活が保障されるというものではない。生活者である「障害者や家族」のニーズに基づき、「人の支援」といったソフト面を含み込んだトータルなケアプランを前提にしなくてはならない。

2 横浜市住環境整備事業の特徴

1993年より実施されている横浜市における住環境整備事業は、住宅改造費と移動リフターや段差解消機といった自立支援機器の購入・設置費の一部を助成する横浜市の単独事業である。制度の概要は表1に示した通りであるが、この事業の大きな特徴は、各区の福祉保健センター職員、横浜市総合リハビリテーションセンター(以下、リハセンター)の専門スタッフ等が連携してアドバイスを行っており、助成金の有無にかかわらず住環境整備に関する技術的な相談が受けられることにある。そのため、適切な評価とプランを前提とした制度であるということができる。

表1 住環境整備事業の概要(横浜市)

(1)住宅改造費

助成限度額:
120万円(所得により自己負担あり)
対象者:
1.1級、2級の身体障害者手帳をもっている方
2.知能指数が35以下の方
3.3級の身体障害者手帳を持っている方で知能指数が50以下の方

*介護保険の対象となる工事については、介護保険支給限度基準額を住環境整備事業の助成限度基準額から差し引く(介護保険優先)

(2)自立支援機器(所得により自己負担あり)

対象機器 機器購入費 機器取付費 助成対象者
移動リフター 100万円 40万円 1・2級の下肢・体幹機能障害で屋内移動が困難な方
*階段昇降機は、1・2級の内部機能障害者を含む
階段昇降機 100万円 12万円
段差解消機 55万円 20万円
環境制御装置 60万円 7万円 1・2級の四肢機能障害の方
コミュニケーション機器 30万円 3万円

*介護保険の貸与対象となる場合は、介護保険が優先される

(3)申請窓口

各区の福祉保健センター

また、住環境整備事業のシステムは、先行して実施されている在宅リハビリテーション事業を基に構築されていることである。

在宅リハビリテーション事業は、リハセンター開所(1987年)以来、障害児・者、高齢者の地域での生活を支援するために、横浜市における地域リハビリテーションの大きな柱として実施されている(表2)。この事業は障害や加齢に起因する生活上の問題を整理し、解決策を提案する訪問サービスであり、そのなかで専門的な技術支援を行っている。ご本人・ご家族への支援はもちろんのこと、各区の福祉保健センターなど関係機関への後方支援の役割を担うことも大きな目的となっている。とりわけ、関係機関からの依頼内容によって編成を変えるリハセンター専門職(リハ科医師、ソーシャルワーカー、理学療法士、作業療法士、建築士等)と関係機関によるチームアプローチを原則としていることが特徴的である。

表2 事業の流れ
図 事業の流れ拡大図・テキスト

3 横浜市住環境整備事業利用の実際

次に、住環境整備事業の利用についてリハセンターが関わった事例を紹介する。

【事例概要】

専業主婦であるAさん(52歳)は、会社員の夫と大学生の娘の3人で横浜市内で生活している。H20年3月に脳出血を発症、市内脳神経外科病院から回復期リハ病院を経て、H20年9月より在宅生活となった。左片マヒ(身体障害者手帳1級)が残存し、移動は下肢装具を装着しての介助歩行と右手足駆動の車いすであった。本人の「自宅に戻りたい」との強い希望から、介護保険(要介護度3)よりベッド、ポータブルトイレ、車いす、シャワー椅子を用意して在宅生活を開始した。

【経過】

主に大学生の娘がAさんの介護を担い、約1か月が経過した。本人より「排泄はトイレを使いたい、浴槽に入りたい」との希望が出される。家族から相談を受けた福祉保健センターケースワーカーは、「複雑な住宅改造」であることからリハセンターに対応を依頼する(表2)。リハセンターでは、住宅改造にとどまらない総合的な支援を考える必要があると判断し、リハ科医師、ソーシャルワーカー、理学療法士、建築士のチームを編成して福祉保健センターケースワーカー、ケアマネジャーと合同訪問を行った。

【支援プラン】

Aさんの身体機能、介護状況、家屋環境等の評価後に家族を交えてのケアプランを検討した。リハ科医師より、体力・耐久力向上と家事動作の再獲得などを目指して障害者支援施設(機能訓練事業)利用の提案がなされるが、施設利用に積極的になれないAさんを考慮し、まずは在宅で以下のプランを実施することとした。

1.排泄動作の改善(トイレの改造)

2.1人介助で入浴(浴室改造、入浴補助用具利用)

3.立位の耐久性向上および家事動作の再獲得

4.社会参加の検討(段差解消機の設置)

【結果】

Aさんの身体機能や介護力を考慮して、トイレ、浴室、廊下の段差解消の工事が実施され、リハセンター理学療法士による動作指導・介助指導を行った結果、トイレ動作は自立し、入浴は軽介助で行えるようになった。また、立位訓練・家事動作訓練をリハセンター理学療法士・作業療法士が訪問により実施、それに基づいて訪問看護師や家族が継続して取り組んだ結果、立位の耐久性が向上して調理の一部が自助具を使用して行えるようになった。さらに、自立支援機器である段差解消機を設置し、電動車いすがレンタルされたことから買い物等の外出が単独で行えるようになった。

Aさんは介護保険の通所サービス利用には否定的だったが、電動車いすにより外出が自由になることから中途障害者地域活動センターへ通所するなどの社会参加にも意欲がもてるようになった。日中独居になることを心配していた家族の不安も払拭され、Aさん家族の生活の再構築を図ることができた。

4 おわりに

住環境整備は、手すりの設置などの簡易なものを除けば、前述した事例のように多様なニーズに応えられるチームアプローチが必要である。チームの中心は当事者と家族であるが、建築事業者だけではなく、障害の評価、機能の予後予測が可能なリハビリテーション関係者が加わることが最低の条件である。なぜなら住環境整備は、日常生活動作の自立や介助負担の軽減にとどまらず、社会参加を含む「その人のこれからの生活」を予測したプランの一つとして実施すべきだからである。

横浜市における住環境整備事業は、障害のある人たちがリハビリテーション専門職とともに地域で「どんな人生(生活)を送っていく」のかを考える機会を提供するものであり、費用の助成と専門職による支援というハード・ソフトの両者を備えた制度として機能している。

(おだよしゆき 横浜市総合リハビリテーションセンター相談調整課長)