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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年6月号

実践例
施設から地域へ…まずは住宅問題の解決から!

長位鎌二良

去る4月11日、縁あって宮古島市に沖縄県内では3つ目、離島では初の自立生活センターまんたがオープンした。宮古島市へ単身赴任となった私は、移住する約2か月も前から不動産屋にアパートの仲介を依頼していたものの、良い返事がもらえずにいた。電動車いすに乗った進行性の障害のある重度障害者だからなのか!?ようやく見つかったというので、代わりにスタッフに物件の視察と改修箇所の確認をお願いした。重度障害者にとって一番気になるのは、入口の段差、そしてトイレと風呂場の間口である。スタッフによれば、若干の改修で十分使えるとの返事だったため、賃貸契約の準備を依頼した。しばらくして雲行き怪しい返事が返ってきた。どうやら改修工事に大家が難色を示しているというのだ。私はすかさず、「もちろん退居時は現状復帰で…!!」と返事したが、今回の話は無かったことにしてほしいとのこと。

これまで何回も引っ越し経験のある私が賃貸交渉決裂というのは初めてのことで、正直ショックを隠しきれなかった。気を取り直して、次の物件を当たった。開所準備でたまたま宮古島入りしていた私は、紹介された一軒家を自分の目で確かめようと現場に向かった。家の周囲をぐるっと回り、外観は文句なしの物件で気に入った。ワクワクする気持ちを抑えながら玄関の鍵を開けてもらう。残念ながら入口には30センチくらいの段差があったが、住宅改修のノウハウは十分なほど蓄えており、どのような改修をすればいいかは一目見てすぐイメージできた。

後日、担当者から大家のメッセージが伝えられた。まずどのような改修を行い、予算は如何ほどなのか設計図も含めて提出してほしい。また、地元の保証人をたててほしいという。早速、地元の施工業者を紹介してもらい、簡単な設計図と見積を取り用意した。しかし保証人については、宮古島に親戚や保証人を頼めるほど親しい友人がいるわけでもない。それなのに島内の保証人というのはあまりではないかと担当者に食らいついた。大家と直接交渉したいと担当者にお願いした。

大家は、主に土地や一軒家を専門に取り扱う地元老舗不動産の代表者で、実に強気な方で、「私は別に障害者だからといって差別や偏見を持っているわけではない」と言いながら、やたらとあれやこれや突っ込んでくる。私はめげずに地元保証人の件、退居時の現状復帰の件を強く申し入れた。「敷金を改修代の見積以上に倍増しても構いません!」とまで言い切ったのに、忘れもしない、4月1日の開所式後の打ち上げの席にやってきた担当者がすまなさそうな表情で「申し訳ございません…」。またもや交渉決裂。思わず「何だよそれ!!」と叫んでしまった。

仮住まいのマンスリー住宅も予算の限界があり、住宅が見つかるまでの間、事務所暮らしを決意する。地元の福祉用具店からリースで借りた電動ベッドを休憩室に運び入れ寝泊まりした。風呂はないのでタイル張りのトイレを利用し、外の水道からホースを引っ張ってきて水を浴びる。宮古島と言えども4月の夜に水風呂はさすがに気合いものである。ありとあらゆるお世話をしてくれたスタッフには涙が出るほど感謝の気持ちで一杯だった。

その苦労も実ったのか、開所式から約1か月後の5月2日、ついにアパートの契約に漕ぎ着けた。長かった…。そして良かった…。これまでとは別の不動産の仲介によるもので、大家もかなり理解のある方だった。おそらく宮古島では希な物件だと思うが、どちらかというとユニバーサルデザインに近い仕様のマンションで、半階上がった1階部分にはコンクリートでできたスロープでアクセスできる。これを見て思わず感動してしまった。室内も広いリビングが中心にあり、和・洋室の2部屋共に入口には全く段差がない。トイレと浴室の間口は決して広いとは言えないが、工夫すれば何とかなる。

翌日から、ホームセンターで仕入れた木材を加工し、スタッフと共同作業で手作りのバリアフリー化を目指す。時間はかかったが玄関スロープ、トイレおよび浴室の段差解消には“すのこ”を活用し、完璧に近い状態で敷き詰めることができた。私の親父は大工で、木材を加工している様子や現場で家を組み立てるその勇ましく格好いい後ろ姿を小さい頃はよく観察していた。また、自立支援のおかげもあって住宅改修はお手の物である。

私が初めて自立生活をスタートしたのは20歳の頃だったが、あの時は病院職員の配慮もあって、町営住宅の申込から家財道具の調達などすべてお任せだった。今回、重度になって初めて自分の住まいの住宅改修、バリアフリー化に挑んだことになる。各市町村にはバラツキはあるが住宅改修工事を公費で行うことができる。しかし、問題は住宅改修以前のことにある。民間住宅を重度障害者でも容易に借りることができるシステムづくりが求められている。地方の重度障害者の「施設から地域へ」というのは、大都市のようにはいかない。特に沖縄県は数多くの離島を抱え、離島には障害者の自立に対する認識・理解、そして受け皿が欠けているのだ。介護制度はある程度整いつつあるなか、住宅問題についてはなおざりにされているのが現実だ。

バリアフリー住宅不足の解決策として、たとえば今あるアパート、マンションなどの賃貸物件のバリアフリー化に必要な改修費の一部補助、新規賃貸物件のバリアフリー化については、優良住宅として国や行政等のお墨付きと優遇措置、保証人の行政介入など、法律や制度的に何とか解決策をだしてほしい。そうすれば民間も動くというものである。これらが解決されないと障害者、特に重度障害者の地域移行は相当困難な状況が続くと思われる。“住まい”あってこそ、必要なサービスに転じていくのが自立の流れだから…。

(ながいけんじろう 自立生活センターまんた代表)