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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

被災状況・被災者支援
ライフラインと医療
人工透析患者の災害対策~東日本大震災の経験から~

俣野公利

何が起こったか?

今回の災害は、M9という国内最大規模の地震であるが、16年前の阪神・淡路大震災の被害状況と大きく異なり、建物等の倒壊は比較的少ない。

地震発生時、多くの透析医療機関では、午前と午後の透析の「入れ替わり」時刻だったことから、透析治療中の被災は比較的少なく、帰宅後に、地震およびその後の津波の被害に遭っている患者が多かった。東北3県の沿岸部に位置する透析医療機関では、施設ごと津波に流された透析施設もある。

地震よりも、その後の津波の被害により、患者の生命と家屋等の生活基盤に甚大な被害が及んだ。難を逃れた患者にとって何よりも心配なのは、「次の透析治療は、どうなる?」ということだった。被災地沿岸部の透析施設は津波に襲われ、建物が無事でも水没もしくは浸水により、電気・水道・ガス等のライフラインの途絶は勿論(もちろん)のこと、医療機器等が使用不可能となった。また、災害・緊急時用に整備した自家発電装置も、その設置目的を果たすことはできなくなってしまった。

今回の災害の特徴から、被災地内陸部の施設への患者移動が起こるが、内陸部の多くの施設もライフラインの途絶により、発生後数日間は透析困難であり、一部の中核病院で透析治療可能な施設に患者が殺到する状況となった。

被災した患者の声から、当時の状況を紹介しよう。

〔宮城県 Kさん(男性)〕

「本当に大きな津波だった。もう5分遅れていたら波にのまれていた。中学校に避難し3階に上がったとき船が流れてきた。家はなくなったと実感した。地震翌日が透析だったが、行ける状態ではなかった。翌々日の日曜日、だめと思いながらも病院に行ったら透析ができた。仲間3人が亡くなっていた」

〔岩手県 避難所生活の透析患者〕

「同じ施設に通院していた透析患者で3人が死亡、8人が行方不明。津波警報が出ても、甘く考えていた人もいたようだ。地震発生直後、ガソリン不足で透析が可能となっても、通院手段の確保に苦慮した。ガソリン優先供給の証明書は発行されたが、それも制限があり苦労した。停電と断水、それに電話等の連絡手段が絶たれ不安が増幅するばかり。避難所では、透析患者であることも言えず、身体に不調を訴える患者もある。避難所での食事は、一般向けでかつ非常食であるので、食事管理・制限のある透析患者には非常に厳しい」

このように、残念ながら生命を奪われてしまった患者さんがあり、また難を逃れた患者さんも、透析治療への不安、治療確保のための苦労、避難先での身体的・精神的苦痛が数日間続いた。

また、福島県内では、原発事故による影響が今なお続いている。原発周辺地域では、避難地域が拡大されるにしたがって避難先を移動しなければならず、透析治療の施設を替えていかなければならない状況が続いている。

どう対応したのか?

1.透析医療機関

仙台市内の病院には、透析を求める患者の列ができ、1日600人の患者の透析治療を4日間連続で行うという状況になった。通常、4~5時間を要する透析治療であるが、この状況下では、2~3時間の「緊急避難的」透析が行われた。

今災害の大規模かつ広範囲に被害が及んだ状況では、被災地内だけでの治療実施は困難を極める。施設によっては、医師・施設間のつながりから、被災地外の施設での治療を確保し、患者の一時的移動と治療が行われた。

また、(社)日本透析医会の災害時情報ネットワークを活用し、被災地外での透析患者受け入れ体制が早い段階で整備された。これにより、被災地内の患者が、北海道・新潟・東京等へ数百人単位で避難し、透析治療を受けることができた。

2.患者個々は

多くは、取る物も取りあえず避難を迫られたことがよく分かる。一方、日常的な個々の対策が十分になされていたかというと、患者個々に大きな差があったことは否めない。

弊会としても、自身の治療情報等について管理し、災害手帳等の常時携帯の呼びかけを行ってきたが、有効に活用できたかどうかは、今後検証していかなければならないと考える。また、非常時に持ち出すものの準備、医療機関への連絡方法等々も、平時の対策と訓練を行っておくことが重要である。

3.全腎協として

弊会は、地震発生の翌日に災害対策本部を立ち上げ、1.被災地における透析医療の確保、2.福祉避難所の設置等の対応、3.被災患者の精神的サポート、を中心に、厚生労働省はじめ関係機関・団体、および関連企業への要望・要請活動を行った。

被災した会員・患者の動向については、現地対策本部を被災地内に設置し、当該県組織を支援しながら、現在も鋭意調査を継続しているところである。

まとめ

今回の災害による被害状況は、今しばらくの猶予を持って明確にし、検証の上、今後の透析医療・患者の災害対策につなげていかなければならない。

40年前に、「誰でも、いつでも、どこでも透析治療が受けられる」ことを願って始まった私たちの活動は今回の震災を経験して、「どんな時にでも、透析医療が受けられる」対策を早急に講じることが求められている。

引き続き、被災会員・患者への支援と、被災地の復旧・復興に向けた取り組みへの協力を行うとともに、行政・医療関係者、また関係団体等々との協働・連携のもとで、透析医療と患者を守るための体制整備を喫緊の課題として取り組んでいきたいと考えている。

(またのきみとし 社団法人全国腎臓病協議会事務局長)