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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

被災状況・被災者支援
南相馬市における
日本精神保健福祉士協会の支援活動

青戸忍

今回の大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

南相馬市について

福島県南相馬市は、平成18年に1市2町の合併により誕生。人口は約7万人。東京電力福島第一原発の北10~40キロにほぼ収まり、原発から半径20キロ圏内は避難区域、20キロ以上30キロ圏内は緊急時避難準備区域となっている。このたびの震災の被害は甚大で、死亡者542人、行方不明者156人、1,800世帯が壊滅状態となった。

南相馬市での支援活動に至った経過

日本精神保健福祉士協会(以下、当協会)は、3月下旬から被災地域において情報収集および派遣調整を行っており、当初相馬市で活動するこころのケアチームの補完要員および公立相馬病院の臨時精神科外来のサポートを検討していた。しかし、福島医大からの情報で南相馬市には自治体からのこころのケアチームや保健師派遣もなく、精神科の診療機能もようやくクリニックが再開する程度であることを知り、相双保健所の保健師を訪れ、状況確認を行った。そして急きょ、南相馬市を中心とした支援活動を決定。4月19日より南相馬市に支援に入った。

南相馬市での支援活動概要

基本的に2人1組として、1週間交代で支援活動を行い、当協会が宿泊先、自動車、専用の携帯電話、PC等を確保し、自己完結型の支援を目指した。そして、南相馬市における精神保健福祉活動の補完機能としての支援を心がけ、基本的には地元保健師の要望に基づいて、避難所の巡回相談、在宅精神障害者の状況把握等を行った。精神科医の診察が必要と思われる人に精神科診療所を紹介したり、住民や市役所職員向けメンタルヘルスに関する啓発・相談活動を実施。このほか、支援活動スキームは現地情報をもとに、柔軟に改変していくこととし、必要であれば、保健師活動の雑用・周辺業務等のサポートも行うこととした。

当初、市内には5か所の避難所があり、主に学校の体育館、教室が使われ約400人が避難されていた。医療チームとして、長崎大学チームと長崎県医師会から医師、看護師、歯科医などが派遣されて避難所や在宅を巡回しており、精神的フォローの必要な方については、保健師を通じて、当協会精神保健福祉士に依頼が入った。精神科診療所は3か所再開しており、必要に応じ、通院付き添いなども行った。

状況に応じた活動の変遷

当初は、保健師チームに配属され、5か所の避難所を巡り、避難されている人たちの話をお聴きすることを主とした。地震で家屋が崩壊された人、津波の被害に遭われた人、原発事故のために避難されている人などの話を伺った。皆さん、壮絶な体験をされているが、話を丁寧に伺っていくと、ご自分の考えや困り事を整理されて、自らのペースで少しずつ乗り越えようとしていらっしゃるのがよく分かった。

受診が必要と判断した際には、保健師や避難所に常駐している看護師と相談して医療機関を紹介した。また常駐看護師より対応が困難だったり、関わりが必要な方の紹介を受け面談を行ったが、そういった方々の中に精神障害のある方がおり、対応の仕方を常駐看護師とともに考え、またアドバイスも行った。必要であれば、継続ケースとしてフォローを重ねた。また、自立支援医療利用者への訪問も保健師・看護師とともに実施した。

現在は、仮設住宅が500戸整備され、入居者への健康調査訪問を行っている。現地の職員の皆さんとは「これからは、皆一緒に頑張ろうではなく、一人ひとりに合わせた支援をしましょう」と話し合いながら「個別ケアの必要性」を確認した。職員自身も被災者であり多忙な業務を行って疲弊しておられ、職員に対してのメンタルケアも行った。普段から何げなく職員をケアすることも心がけた。

また、活動事例を通して、精神保健福祉士はこころのケアの関わりと福祉専門職の活動(たとえば各種制度利用のアシストなど)ができることを伝えた。福祉事業者や精神科医療機関との連携もケースを通し徐々に行っている。

終わりに

南相馬市の人々のひた向きに生きる底力を感じたが、現在も見通しが立たないことで心労されている方、津波への恐怖、原発への怒りを訴える方、また避難所生活の長期化によりそれまで抱えていた悩みを表出される方、そして津波により家族が亡くなられた方も、皆さんそれぞれが多様な心理的状態にあり、今後ますますこころのケアが大切になると思われる。

そして震災、原発の被害、さらには風評被害まであり、甚大な被害を受けておられる南相馬市の方々に対し、今後も正確な情報を得ることと、そこでひた向きに生きている人たちをじっくり支援し続けることが大切である。

現在、仮設住宅が整備されても、食費や生活費がかかることを懸念したり、部屋が狭いとの噂もたって相当数キャンセルがでている。避難所も気温が高くなると、衛生面の問題や暑さの問題もある。今後さらに、県外の避難所から市内の避難所に戻ってくる人もおり、さまざまな場面での問題がいろいろな立場の方から噴出することが予想されるが「淡々とじっくりと」関わることが大事だと思われる。

支援する側も、精神的な重圧は想像以上に大きく、自らを奮い立たせ支援にあたるが、さまざまなニーズや状況に対し柔軟に、そして適切に対応することの難しさを感じた。今後も現地のニーズを満たすために必要な機能を備えた、息の長い支援活動を行っていくことが大切であると考える。

(あおとしのぶ 社団法人日本精神保健福祉士協会鳥取県支部)