音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年7月号

被災状況・被災者支援
緊急支援と障害者・高齢者
~難民を助ける会の支援活動の経験から

野際紗綾子

本稿では、難民を助ける会の東日本大震災被災者支援活動について、海外における災害支援の経験も踏まえながら振り返ると同時に、今後の展望と課題について考えたい。

●震災直後からの緊急支援の流れ(2011年3月~6月)

難民を助ける会は、東日本大震災に際し、災害2日後から被災地入りし、支援活動を行っている。宮城県仙台市と岩手県盛岡市の2か所に事務所を開設し、約25人のスタッフが常時被災地域で活動している。県の障害福祉課や地域福祉課や関連団体と調整をしながら、宮城県、岩手県、福島県、山形県で、特に支援の行き届いていない避難所や障害者施設、高齢者施設、避難所以外の場所で避難生活を送る方々、離島等、約600か所、6万5千人以上の被災者の方々に、食料、生活必需品や燃料を直接届けてきた。

●支援の特徴と国際NGOの役割

支援の特徴の一つは、国際NGOとして、「迅速性」や「柔軟性」といった海外の経験を日本に活(い)かせたことである。物資を最初に届けたのは、3月14日の昼、その日の食事もままならない仙台市内の避難所であった。段差だらけの体育館前で立ち往生している車いすの少女を目にして以来、毎日3~10台の車輌に食料や生活用品等の支援物資を搭載して被災地の障害者・高齢者施設に届けるのと同時に、安否確認を行い、在宅避難者・二次避難先も含めて物資配布を行ってきた。

宮城県の障害福祉課は、3月14日に県内の5施設の情報を提供したが、当会の配布報告と、各施設からの報告を受け、17日には県内の全入所施設の確認情報を提供し、「現在、県でできることは電話をかけることのみだが、電話がほとんどつながらないので、可能であれば、物資配布と一緒に安否確認もお願いしたい」との要請を受けた。

今回の震災では、岩手県大槌町はもとより、仙台市内でも、被災地の行政機能も甚大な損害を被ったため、当会のような民間団体が行政の補完的役割を果たしてきたと言えよう。

岩手県地域福祉課、各県の社会福祉協議会、日本障害フォーラム(JDF)、宅老連絡会、施設長ネットワーク等と連絡を取りながら、状況把握と物資配布を同時に行ってきた。配布した物資は、食料品(米・みかん・バナナそれぞれ2トン、飲料水13トン等)、生活用品(紙おむつ60,232枚等)、燃料(軽油13,600リットル、灯油4,400リットル、ガソリン2,060リットル)、事務用品・パソコン機器、家電製品、福祉機器(介護ベッド、車いす)等多岐にわたる。

●今後の活動予定(2011年6月)

これから力を入れていく活動の一つに、障害者・高齢者施設の修繕がある。ジャパン・プラットフォームの約3億円の資金に加え、国内外の助成金を活用して、岩手県と宮城県の約50の障害者・高齢者施設の修繕や作業所のパン製造機械等の機械設備の購入を行う。

厚生労働省から2011年4月26日付で、「東日本大震災に係る社会福祉施設等災害復旧費国庫補助の協議について―東日本大震災に係る社会福祉施設等災害復旧費事務取扱要項」の通達があったが、通常は申請から支給まで1~2年かかってしまう上、一部の経費は施設側が負担しなければならない等、本震災でどこまで行政が迅速に対応できるか未知数であった。

そのような状況下で、岩手・宮城両県の福祉課やJDFと協議し、国庫補助金の支給まで体力が持つかどうか危ぶまれる施設を中心に、前記の財源を活用しながら修繕活動を開始している。

2011年5月から、さまざまな施設から「一刻も早く、施設や設備を修繕して、業務を再開することで、利用者さんに仕事や活動を提供しなければ…」という電話が鳴り止まない中、ここでも、国際NGOの持ち前の迅速性を活かしながら、行政の補完的役割を果たしていると言えよう。

●今後の展望と課題~課題や目的を共有して、ともに、前へ

緊急支援の初期段階では、ガソリンの入手が極めて困難な中で、わずかなガソリンを使って被災地まで辿り着き、複数の団体や行政機関が気仙沼市内の同じ障害者施設で出くわす、というようなことがあった。これは、関係者間の調整の不備によって起こるものであり、関係者が一同に介して情報や課題を共有して、共に今後の計画を構築するような調整会議が求められている。

海外の災害支援の現場では、「クラスター会合」と呼ばれる分野別調整会議が災害直後から開かれている。東日本大震災という未曾有の災害は、一機関・一団体の対応能力をはるかに超えたものであることは周知の事実であり、関連団体・機関と密接に連携をとりながらの迅速かつ柔軟な支援が求められている。また、関東に本部を置く団体として、移動距離や原発等の問題から、支援対象地域、援助内容や規模の甲乙をつけず、全体としてバランスをとりながら活動するよう、最大限の調整と立場を超えた協力が必要であると強く感じている。

なお、被災地の状況や被災者のニーズは、刻一刻と変化している。支援の最新情報については、次のウェブページを参照されたい(URL:http://www.aarjapan.gr.jp/)。

インド洋大津波、ミャンマー(ビルマ)サイクロン、スマトラ島沖地震、パキスタン水害…海外の災害支援の現場で、いつも後回しにされてきたのが、障害をもつ人々だった。支援から取り残される人々を、絶対につくってはならない。障害の有無にかかわらず、人として当然の権利を享受できるよう、これからも活動を行っていきたい。

(のぎわさやこ 特定非営利活動法人難民を助ける会東北事務所長)