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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

大阪労働局・ハローワークにおける障害学生等の就職支援について

渡邉和江

1 障害のある大学等学生への支援

大学等(大学院・大学・短大・高等専門学校・専修学校(高卒2年課程以上))の卒業予定者については、基本的には、学校が職業相談・職業紹介等の就職支援を行うこととなっており、職業紹介機関(ハローワーク)としては、特に援助を必要とされる場合に支援に携わることとなっている。また、ハローワークで把握した求人情報等の企業情報に関しては、学校にも提供することとなっている。

障害のある学生に関しても、基本的な支援の流れは同じだが、大阪労働局での特化した取り組みとしては、「新規学卒障害者就職面接会」(大学等卒業予定者および既卒3年以内の障害者を対象(以下「学卒面接会」という))の開催である。

面接会の趣旨としては、「障害者は健常者に比べ企業訪問、事業所見学等において不利な立場にある。より多くの事業主との情報交換の場を提供するため、障害者および企業が一堂に会する対面方式での就職面接会を実施する」ものであり、大阪労働局では、学卒面接会のほか、中途採用希望の障害者を対象にした面接会を毎年秋(9~10月)に実施しており、労働局主催では、併せて年2回の開催となる。

約10年前、平成12年度の学卒面接会では、参加企業は71社、参加学生(求職者)は72人、就職件数は36件の結果であった。その後も、毎年春(5~6月)に実施し、最近6年間(5回)の結果は表1のとおりであるが、10年前と比べると、全体的に減少傾向となっている。

表1 新規学卒障害者就職面接会実施状況

  参加
求人企業
求人数 参加
求職者
応募者数 就職数
17年度6月10日(金) 35社 47件 56人 142人 13人
18年度5月23日(火) 30社 42件 47人 98人 7人
19年度5月30日(火) 30社 44件 43人 138人 11人
20年度5月23日(火) 27社 41件 54人 115人 7人
21年度5月18日(月) 新型インフルエンザの(影響の)ため中止
22年度5月17日(月) 30社 48件 30人 111人 7人

棒グラフ 新規学卒障害者就職面接会実施状況

要因としては、いろいろ考えられるが、面接会の趣旨にもあるように、「企業訪問等において不利な立場」にあった障害者であるが、近年の情報技術の発達やパソコンの普及、携帯電話等の普及に伴い、「訪問等」が必要ではなくなったことが大きな要因であるかもしれない。従来の学卒面接会の参加者は、上肢・下肢等の身体障害者が多かったため、電子媒体が使用できれば、「一堂に会する場」が無くとも、多くの企業情報を得ることができる環境になったと考えられる。

労働局としては、学卒面接会のあり方の見直しも含め、改めて、障害のある大卒予定者等への支援を検討することとなった。

2 新卒者・若年求職者の状況

平成22年10月、厳しい雇用情勢が続く中、政府は新卒者・若年者支援の強化を盛り込んだ緊急雇用対策を打ち出し、労働局・ハローワークでも「新卒応援ハローワーク」の設置、「学卒ジョブサポーター(大学等担当)」(以下「ジョブサポーター」という)の増員など、いろいろな支援策を実施しているところである。

ジョブサポーターの職務としては、大学等を訪問し未内定者の早期把握、学生に対する個別支援(エントリーシートの作成指導等)や企業等の情報提供等を行うこととしている。

ジョブサポーターの印象ではあるが、ここ1~2年での大学等の就職支援担当者からの相談として、コミュニケーション能力に不安のある生徒、発達障害の可能性がある生徒について、なかなか就職の内定がもらえず対応に困っている、との内容が多く聞かれるようになってきた。一部の大学等ということではなく、総じて、ということである。

一方で、ハローワークに来所される若年求職者でも、短い期間に頻繁に離転職を繰り返す方の中には、その原因として、コミュニケーション能力や対人関係に困難を抱えていると思われる場合があり、その要因として、発達障害に起因する場合があると考えられている。

これらの能力は、企業が採用にあたって重視されているものであることから、採用に至らない、もしくは就職しても職場に適応できず離転職を繰り返すことになり、さらに失敗体験が重なるといわゆるニート状態やひきこもりに至ってしまうケースが少なくない状況にある。

必ずしも「障害」に結び付ける必要はないが、個人の特性に配慮した就職支援が必要であることから、厚生労働省では平成19年度から「若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム」(以下「プログラム」という)をモデル的に一部の労働局・ハローワークで実施しており、大阪労働局もその一つとなっている。

プログラムでは、(一部の)ハローワークに配置している専任の担当者(ここでは、「ナビゲーター」と呼ぶ)が、そういったコミュニケーション能力等に困難を抱えている若年者を対象に、本人の特性の理解に努め、適職の選択、履歴書・職務経歴書の書き方指導等の求職活動から、場合によっては面接への同行、就職後の職場定着支援まで、マンツーマンによる一貫した支援を実施することとしている。また、必要に応じて医療機関や精神保健福祉機関等の専門機関への誘導や、就職支援機関(発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター等※1)との連携も行っている。

これまでのナビゲーターの活動実績としては、表2を参照されたい。障害の有無にかかわらずの支援ではあるが、年々、支援対象者が増えている状況が見て取れる。

表2 ナビゲーターの活動実績

  支援対象者数 就職件数 専門支援機関へ
誘導した者
平成19年度 98人 30件 132人
平成20年度 93人 28件 87人
平成21年度 123人 37件 53人
平成22年度 279人 108件 110人

棒グラフ ナビゲーターの活動実績

3 障害学生等への就職支援の取り組み

説明が長くなったが、このプログラムにおけるナビゲーターの個別支援をコミュニケーション能力等に不安を持つ大学生等にも実施する取り組みを、平成23年4月から大阪労働局管内のハローワークで、試みとして開始したところである。

概要としては、ジョブサポーターが大学等で把握した要支援者の情報をナビゲーターへ連絡し、情報共有をした上で、両者が大学等を訪問し相談を行うことや、要支援対象者をハローワークへ誘導し相談するなどの支援を、大学等と連携しながら実施をする。もちろん、本人の了承を得た上での支援になる。繰り返しになるが、当該学生個人の特性の把握に努め、求職活動から就職後の定着支援までマンツーマンによる一貫した支援を行おうとするものである。

また、障害者等の特性を企業に理解していただいた上で、長く働き続けるための配慮・環境を求めるためには、ハローワークだけではなく専門機関・就職支援機関等との連携が欠かせないものである。定着支援を行うことで、本人の不安を減少させ、企業の安心・信頼も得ることができ、それがまた別の就職の機会を創り出すきっかけとなることもある。もちろん、成功のために一番必要なのは、本人の就職への意欲であることは忘れてはならない。

取り組みはまだ始まったばかりで、残念ながら現状ではご紹介できるような実績は無いが、少しずつでも個別支援を進め、障害学生等の就職促進につなげていきたいと考えている。

4 今後の課題

学生等に限った話ではないが、コミュニケーション能力等に困難を抱える若年者の支援に関して、いくつかの課題がある。

一つは、当該支援が必要であろうと思われる方の、自身の特性の認識と受容の問題である。周りが、この人には支援が必要だと感じて勧めても、当の本人は困難を感じておらず、支援を断られるケースが少なくない。制度・施策があっても、本人の同意が無ければ成り立たない状況がある。

もう一つは、支援施策は「障害者」を対象としていることである。本人が自身の特性を認識し受容したとして、たとえば発達障害の場合、その診断が出るまでに長い時間がかかっている現状がある。初診から診断確定まで、目安としてまずは6か月と聞いているが、その間の就職支援をどうするか。ハローワークでは、職業訓練、職場実習、トライアル雇用制度等の支援策もあるが「障害者」でないと活用できない。企業へ職業紹介を行っても、「障害者」でないと助成金(※2)がもらえない、等々である。

現状では、一般的な求職者対象の短期間の職業訓練の活用や、「障害者」にこだわらない企業への就職あっせんなどを行っているが、時間のかかる支援になってしまっている。

必要な方に必要な支援を行うことの難しさを、今更ながら感じているところである。

(わたなべかずえ 大阪労働局職業安定部職業対策課障害者雇用対策係)


【注】

※1
発達障害者支援センター=発達障害者が充実した生活を送れるように保健、医療、福祉、教育、労働などの関係機関と連携しながら、本人やその家族に対する支援を行うとともに、地域の支援体制の充実を図る機関。

障害者就業・生活支援センター=障害者の身近な地域において、雇用、保健福祉、教育等の関係機関の連携拠点として、就業面および生活面における一体的な相談支援を実施する機関。

※2 特定求職者雇用開発助成金
新たにハローワーク等の紹介により障害者等の就職困難者を継続して雇用する労働者として雇い入れた事業主に対し、賃金相当額の一部を助成する制度。