音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

  

「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

わがまちの障害福祉計画 佐賀県唐津市

唐津市長 坂井俊之氏に聞く
直接出向いて話を聴いて、現場主義の障害者支援

聞き手:松尾清美
(佐賀大学准教授、本誌編集同人)


佐賀県唐津市基礎データ

◆面積:487.48平方キロメートル
◆人口:130,257人(平成23年8月1日現在)
◆障害者の状況:(平成23年3月31日現在)
身体障害者手帳所持者 6,942人
療育手帳所持者 1,067人
精神保健福祉手帳所持者 462人
◆唐津市の概況:
佐賀県の最北部に位置し玄界灘に面している。古代「唐(から)」とは朝鮮や中国の呼び名で、唐へ渡る津(港)という地名の由来どおり、大陸への玄関口として古くから大陸との文化交流が盛ん。国の特別名勝「虹の松原」、伝統工芸「唐津焼」、唐津くんち「曳山」、唐津城、呼子の朝市といか活き造りなど全国的に有名なものも数多い。平成17・18年1市6町2村が合併して新唐津市となる。佐賀県内第二の都市で西九州自動車道が走り、JR筑肥線の快速なら博多駅までは1時間強の距離。
◆問い合わせ先:
唐津市保健福祉部障害者支援課
〒847―8511 唐津市西城内1―1
TEL 0955―72―9150
FAX 0955―72―9178
http://www.city.karatsu.lg.jp/

▼唐津市の特色、魅力についてまず、ご紹介をお願いします。

唐津市は、農業・漁業・水産加工業を基幹産業とする豊かな自然に恵まれた歴史と観光のまちです。たくさんの観光客が訪れる唐津の魅力は、唐津城や唐津市呼子(よぶこ)町の名物の朝市、「イカの活き造り」をはじめ市の財政に貢献している唐津競艇などがあります。

唐津城から見渡すと、唐津湾に沿って緩やかな弧状を描いて広がる国の特別名勝「虹ノ松原」が羽を広げた鶴の姿に見えることから、唐津城は、別名舞鶴城とも呼ばれています。温暖な気候、大陸との交流の歴史を背景に、「唐津焼」や唐津くんちの「曳山」に代表される伝統的な地域文化が育ちました。

唐津を代表する伝統工芸である唐津焼は、茶人豊臣秀吉候の頃から発展し、発祥の地と言われる旧北波多村周辺には今も当時の窯跡が点在しています。また、江戸時代、唐津は天領でしたので、幕府から派遣された譜代大名が他の地域から唐津に赴任して数年後に国へ戻るときに、幕府に献上したり地元に茶器を持ち帰るなどで、唐津焼は広まっていったようです。

▼合併後の平成18年3月に策定した総合計画の中で、『新市の将来像』として「生涯を通じた安全・安心都市」を掲げてまちづくりを推進しておられますが、障害者計画ではどのようなことを目指していますか。

人が生まれてから亡くなるまでのライフステージに応じた対応ができるように、平成19年3月に策定した障害者基本計画では「自立と思いやりのまち・からつ」を基本目標として、障害のある人への情報提供、相談支援体制の充実・強化、関係機関の連携強化の3つを重点項目に置き、一人ひとりが互いを認めあい、互いを支えあっていく市民の“絆”のもとに、優しさと温かさのある安全・安心のまちづくりを目指しています。

唐津市には7つの離島がありますが、島であっても情報共有ができるようにと、合併事業の第一にブロードバンド化を掲げました。19年度から3年をかけましたが、すべての島に海中ケーブルを引き、市内すべてが光ケーブルでつながり、市議会の様子はもちろん市内のいろいろな情報や広報紙等、地域格差のない情報提供を行っています。

▼障害のある人の地域生活支援についてはどのようにお考えですか。

障害のある人のさまざまな意見を現場でしっかり汲み取り、自立した生活を送れるよう施策に生かしていくことが何より大切なことと思っています。そのため、私自身障害のある人たちの会合には努めて出席し、直接いろいろな意見を聞きとるようにしています。現在、新採職員にも2日間の施設研修を実施していますが、5日に延ばすよう検討しています。

▼現在、最も力を入れている障害者就労支援事業の取り組みをお聞かせください。

障害のある人やそのご家族とのお話しの中で、一番多かったのが就労に関する相談でした。市管内の21年度の障害者雇用率は2.27%で、国が定めている障害者雇用率の1.8%を上回っていますが、もっと職業的自立を促進する必要があると感じていました。一般就労ができずに、特別支援学校卒業と同時に福祉的就労をされる子どもさんが多かったからです。そこで、できる限り一般就労して給料をもらって自立してほしいという願いから、20年度から唐津特別支援学校の生徒さんの職場体験の受け入れを庁内で始めました。

また、障害者支援課内には手話通訳者が常駐するコミュニケーション支援センターを設置しておりましたので、22年度からは佐賀県立ろう学校の生徒さんの職場体験も受け入れています。生徒さんには、市役所の仕事の体験だけではなく、体験期間中は公共交通機関を利用して通勤してもらい、一般就労や地域での生活を実現するための買い物・支払い・釣り銭の管理などの生活体験も希望があれば職員が同行しています。

この事業をさらに一歩進め効果的に支援するため、市役所に勤めながら、一般就労に必要な知識や能力を身に付けていただくことを目的に、22年度から「障害者就労支援事業」を開始しました。この事業は「障害のある人を雇用してください」と事業所の方に頼むだけでなく、市が率先して雇用対策に取り組む必要があると感じましたので、障害のある方を本市の臨時職員として直接雇用するようにしたものです。期間は最長1年間で、賃金は時給650円です。受け入れるに当たって、一番注意を払い、慎重に進めたことは配属先です。上手くコミュニケーションが取れないと、勤務が継続できずに離職される可能性があるからです。昨年は3人の方(知的、身体、精神)を雇用しましたが、幸いにも1人も途中でリタイアすることなく勤務され安心しています。この中から1人が本年4月に一般就労できて喜んでいます。

仕事内容や勤務時間については、佐賀障害者職業センターのカウンセラーやジョブコーチ、ハローワーク唐津と綿密に打ち合わせをしながら、本人に適した仕事を探しながら進めております。今後も試行錯誤を繰り返しながら、改善点(支援体制の強化)や課題(継続的な仕事の提供)はありますが、よりよい支援方法を構築し、一人でも多くの方を一般就労に繋げたいと考えています。

▼ほかに就労関係で支援されていることはありますか。

主に精神に障害のある方が通所されている地域活動支援センター「はまゆう」では、社会復帰に必要なコミュニケーション能力の習得のために、市役所の職員を相手に市指定のごみ袋の予約受付や商品届けの訓練を行っています。徐々にコミュニケーションの不安を解消し、少しでも工賃をアップして就労意欲を高め、最終的には社会復帰できるよう市役所を開放しています。物販を通じたコミュニケーション支援を通じて、市職員の障害のある方への理解も深められています。

また北部地域自立支援協議会(19年度設置)では、障害のある方への地域の支援体制の課題などについて協議する就労支援部会を立ち上げ、情報の共有と共に関係機関のネットワークの構築を進めているところです。

▼唐津市が実施している特色的な事業があれば教えてください。

唐津市は佐賀県内の自治体で唯一7つの離島を有し、すべて定期船が運行されています。離島の方は、本土に比べ交通面で時間的な制約などを受けたり、船舶運賃が必要となったりするハンディがあるので、福祉船舶利用助成事業を行っています。島に住んでいる重度障害者の方へ船舶料金の半額を助成(助成券を48枚交付)するもので、病院への通院に使ったり、お買い物や知人宅に行くときに使ったり、使い方に制限をかけずに自由に使えるようにしています。また、就労訓練を行う施設へ通所する方で公共交通機関を利用する方には、その交通費の一部を助成し、公共交通機関の乗り方や降り方も学べるようにしました。現在、40人ほどの方が利用されています。

▼今後、力を入れて取り組んでいこうと考えている事業はありますか。

「唐津市障害者福祉会館」は34年が経過し老朽化しています。また、市町村合併、障害者自立支援法などによる障害者や子どもの支援に関する各種施策、ニーズの多様化により施設が手狭になっています。このため、21年度から22年度にかけて市内各障害者団体やボランティアなどの支援団体、学識経験者、県および市からなる「障害者福祉会館あり方検討委員会」を設置し、検討を重ねていただき平成23年2月に提案を受け、今年度は、障害者支援の拠点整備に向けて庁内検討委員会を組織して、1.会館に導入する機能および事業、2.整備の場所、3.整備スケジュール、4.管理および運営、などについて審議を行い、整備に関する方向性を出していくことにしています。

また、みんなにやさしいユニバーサルデザインのまちづくりを推進するため、JR唐津駅周辺地区およびJR東唐津駅周辺地区を重点整備地区として「唐津市交通バリアフリー基本構想」を策定し、22年度にはJR東唐津駅にエレベーター、多機能トイレ、2段手摺り、盲導鈴を整備しました。今年度は、唐津駅と東唐津駅の周辺地区に視覚障害者誘導用ブロック設置、歩車道の段差解消等の整備を行う予定です。

これまで紹介した事業は、障害のある人の社会参加を促進するため、社会参加を躊躇している障害のある方の背中を後押ししたり、就労訓練に高い意欲を持って継続して取り組むにはどのような方法がよいのか、を考えて進めてきました。離島を抱える本市の特色ある独自事業を展開していくことで、合併後も障害者施策の水準を引き上げることができたと思っております。本市においても他市町と変わらず財政状況は非常に厳しい状況ですが、障害者施策を停滞させるわけにはいきません。限られた予算で大きな効果が産み出せるよう工夫を凝らしながら、引き続き特色ある事業を展開していきたいと考えています。


(インタビューを終えて)

唐津の発展と福祉の充実のためには、「やって経験しないと分からない」という現場主義を謳い上げながら精力的に活動されている坂井市長に唐津の特色と障害福祉施策についてインタビューしました。リズムと歯切れの良い言葉使いで、障害をおもちの方々との交流エピソードを交えながらお話しいただき、市民や現場の声を大切にして取り組む姿勢を感じました。坂井市長は地元のホテルマン時代に手話と出会い、以来手話歴24年のベテラン、聴覚障害のある方の友人も数多いと言います。奥様も要約筆記の会長や唐津市ボランティア連絡協の唐津支部長を務めるなど長くご夫婦共に福祉の実践家でもおられ、今後の唐津市に期待がふくらみました。