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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年10月号

知り隊おしえ隊

夢を叶えよう!
憧れの旅に出よう!

柳川ともみ

夢は叶うもの? はかないもの?

「長い闘病生活とリハビリ生活の末、夢の夢だったまさかの車椅子で初めての海外旅行、憧れのスイス。

マッターホルン、生涯の思い出です。展望台では萎えた足がピクピクして、立てるのかと思いました。

あのときの空の色が凄かった!あんなに綺麗なブルーに会えた事が夢のようですよ。吸い込まれそうな色でしたね。

御世話になり、素晴らしい思い出をありがとうございました」

これは私が添乗員としてご一緒したKさんからいただいた手紙です。Kさんは四肢のマヒに加え常に体全体に激痛があり、車いすでの生活をしている方です。

1989年、脳性マヒで車いすを使っている友人と北海道に行ったのが、私と障害をもつ人との初めての旅でした。その後、脊髄損傷で車いすを使う主人と結婚し、日本各地や海外への旅にも出かけてきました。

障害、特に歩行に障害があると「旅は行かれないもの」「行ってはいけないもの」というイメージがあります。主人との旅もトラブルがなかったわけではありません。新婚旅行でバリ島へ行こうとツアーに申し込んだものの、旅行会社からはなかなか参加OKの返事がもらえず、「車いすを利用していては無理だろうか」とあきらめかけたこともありました。

しかし、何かをあきらめた人生はQOLが高いといえるでしょうか。QOLのL(Life)を、人生・生命・生活、どのように捉えたとしても、楽しみを持ち、人としての生を謳歌することができてこそQOLが高いと私は考えています。

それを実践すべく福祉業界から旅行会社に転職したのが1995年、そこで障害をもつ人のための専門部署を立ち上げ、企画・手配・添乗業務等を10年間担当しました。

主に担当したのは車いすや杖を使う方々、視覚に障害のある方々の旅ですが、週3回の透析を受けている方や酸素ボンベが必要な呼吸器疾患の方の旅も手配しました。

2005年に退職した後は、障害がある人にもない人にも「障害があっても旅はできる」ことを啓蒙する活動をしています。

今回は「旅に行きたいけど不安、心配…」「だけど行きたい!」と思われている方々に、夢を実現させるためのポイントを紹介します。

ステップ1 自分の障害を把握

「一般のツアーに参加するか、障害がある人に配慮されたツアー(以下、バリアフリー旅行)で行くか」

これは、その方のもつ障害と、ツアーの内容等によって選択する必要があります。車いすを使われる方にはバリアフリー旅行の方が向いているとは思いますが、私自身、主人と一般のツアーに参加したこともあります。

また、バリアフリー旅行といっても完璧にバリアフリーな環境ではありません。

たとえば、車いす用トイレがあっても神社仏閣は玉砂利・敷居の連続、触れる展示物に点字があっても海外では読めない(英語の墨字を英語の点字に置き換えているので、点字が読めても英語が分からない方にはアルファベットの羅列です)、ハンディキャップルームなのにベッドが高すぎて移乗ができない・手の届かない高い位置に物が置いてある等…。

旅先のバリアフリーは「万人に」対応できていても「あなたのための」配慮には欠ける場合が多くあります。そのため自分の障害を十分に把握して、どうしても譲れない配慮や設備と、不都合だけど多少はガマンできる困難とを鮮明にして、あなたにとって必要な配慮がある旅に出かけましょう。より多くの配慮が必要であればあるほど一般のツアーよりもバリアフリー旅行、バリアフリー旅行でも大人数で行く団体ツアーよりもオーダーメードの個人旅行をお勧めします。

ステップ2 旅力(たびちから)の確認

「車いすを使用していますが、どこの観光地(国)がバリアフリーですか」「目の不自由な者が楽しめる場所を教えてください」といった質問を受けますが、決まった答えはありません。それはその方の障害の程度や行動能力、家族などのサポート体制等によって、旅先のバリアフリー度が全く異なるからです。

同じ段差も、同じようなホテルスタッフのサービスも、ある人には問題なく快適であっても、別の方には不十分・不満足と感じてしまうのはありうることです。

まずは自分の持っている旅力(たびちから)を確認しましょう。何ができるかできないか、ホテルにはどんな設備がほしいのか、だれと一緒に行くのか、1人旅か、同行者に介助を依頼できるのか(またはできないのか)等々。

たとえば、自宅で奥様の見守りがあれば入浴できる男性も、奥様と一緒にホテルの大浴場には入れません。すると、この男性は入浴をする旅力(たびちから)がないことになります。日常(自宅等)での能力と旅力(たびちから)は違うことも忘れないように。

ステップ3 困難を乗り越える工夫

旅先には困難な出来事がたくさんあります。それを乗り越えるために、ハード(建物や福祉用具などの設備)とソフト(障害への配慮と介助等の人的サービス)を上手に組み合わせる工夫が重要です。

たとえば、歩行が困難で長時間歩けないなら車いすを用意しましょう。時間に余裕を持たせる行程にすることも大切です。視覚に障害がある方には、触・聴・嗅・味という視覚以外の四感で旅を楽しんでいただきましょう。前述の入浴時に奥様の見守りが必要な男性には、家族用の貸切風呂か露天風呂付きの部屋がある宿はいかがでしょう。市販のスプレー式酸素ボンベは飛行機内に持ち込めませんが、呼吸器疾患の方用の酸素ボンベは可能です(注:一定の条件あり)。

「こんな配慮はしてもらえないだろう、無理」と決め付けあきらめてしまう前に、航空会社や旅行会社に相談してみましょう。

こういった知恵や工夫の積み重ねで旅は可能になってくるのです。

ステップ4 困難はバリア?ワクワク?

旅先での数々の困難!でもそれをバリアと感じるかどうかはあなたの心次第です。

段差を困難と考えれば世の中バリアだらけ。でも「段を避けて遠回りしたら、ステキな景色を見れた」「坂道を一生懸命車いすで上がっていたら地元の人が助けてくれた、国際交流ができた」と考えてみるといかがでしょう。困難をどう乗り切ろうかとワクワクしてみたり、チャレンジ精神を持って世の中を眺めてみるとバリアが少なく思えるものです。

辛いバリアの数を数えるのではなく、克服できた困難や楽しかった思い出の数を数えてみませんか。

旅への準備完了!後は一歩踏み出すだけ

旅力(たびちから)を確認し、いろいろな工夫をすることを、私は「旅への明らめ」と呼んでいます。夢や希望を明確にして、持っている力や必要としている物事を鮮明にすることが明らめです。

自分を明らめてみると、障害があっても旅は叶う夢だと感じてきませんか?その夢を叶えるために、一歩踏み出してみましょう。

旅とは…

最後に、旅とは何でしょうか。冒頭にご紹介したKさんは「旅はビタミン剤」と言います。「旅を1錠処方すれば健康をもたらしてくれる。激痛も和らぎ、次の目標に向かいリハビリも日常生活にも張り合いが出て楽しく過ごせる」と。

ビタミン剤の旅は非日常なもの、生きていくために必要不可欠な物ではありません。旅を物見遊山や娯楽と考えている人もいます。

でもKさんの言うとおり、非日常の旅によって充実した日常を過ごせるようになり、その充実した日常が次の旅へのエネルギーとなり、次の旅がまた日常生活に張り合いをもたらせてくれる…そんな効能を持っています。

その効き目は、Kさんが障害を抱えてから世界5大陸を制覇したことでも証明されるでしょう!

旅は、あなたのLifeにとってもビタミン剤になるでしょう。多くの方々が充実した素敵なLifeを過ごせるように、私はこれからも旅というビタミン剤を処方していきます。

さあ、あなたも旅に出かけませんか。

(やながわともみ 社会福祉士・バリアフリー旅行コーディネーター)


★高齢者・障害を抱える方がより旅行に行かれる社会を作るためにブログを通して啓蒙活動を行っています。ぜひご覧ください。

空港の見える我が家から~ももたんの旅日記~
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