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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2011年11月号

評価と期待

新たな就労支援の仕組みへ向けて、まず試行事業(パイロット・スタディ)を

栗原久

障がい者制度改革推進会議とその専門部会である総合福祉部会、双方から選出された10人によって「就労」合同作業チーム(座長:松井亮輔法政大学名誉教授)は構成された。平成22年10月から、臨時開催も含め7回の会議を行い報告書にまとめ、幾度かの修正を経て「障害者総合福祉法の骨格提言」に反映した。まず、そのポイントを紹介する。

図 障害者就労支援の仕組みの推移等拡大図・テキスト

総合福祉法関係では、一般就労・自営とは異なる働き方として「障害者就労センター」と「デイアクティビティセンター(仮称)」の創設がうたわれ、また多様な働き方についての試行事業(パイロット・スタディ)を実施し、法施行後3年をめどに検証、就労支援の仕組みについて検討することとしている。「デイアクティビティセンター」は、作業活動支援部門と社会参加活動等を行う部門で構成されるが、最低賃金以上を目指す「障害者就労センター」とは労働法規適用の有無が相違点である。両センターの概要は、骨格提言から引用した上の2つの図表をご覧いただきたい。

一方、障害者雇用促進法等、他の法制度に関わる内容は、次の諸点が提案されている。

「1.障害者雇用促進法に関わる事項」としては、「雇用の質を確保するための法改正」「雇用施策の対象とする障害者に就業上必要な支援を認定する仕組み」「障害者雇用率制度および納付金制度の見直し」「職場における合理的配慮の確保」

「2.障害者雇用促進法以外の法律にも関わる事項」としては「就労系事業に関する試行事業(パイロット・スタディ)の実施」「賃金補填と所得保障制度(障害基礎年金)のあり方の検討」「障害者雇用・就労にかかる労働施策と福祉施策を一体的に展開するための体制の整備」「就労合同作業チームの検討課題についてフォローし、実現化をめざすための検討体制の整備」「全国民のなかでの障害者の生活実態等を明らかにする基礎資料の整備」

以下、成果と課題を述べるが、筆者は、チームメンバーである倉田哲郎箕面市長に同行し、また代理参加してきた立場であることをあらかじめお断りしておきたい。

〈成果について〉

チームは、前半は障害者基本法改正に関する論議、後半は社会的雇用・社会支援雇用・社会的事業所といった一般就労とは異なる働き方についての検討を主に行った。このことは、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について(平成22年6月29日、閣議決定)」で示された「福祉的就労への労働法規の適用のあり方(平成23年内にその結論を得る)」というテーマを前提にしたものである。福祉的就労における工賃水準の議論にとどまらず、就労体系の仕組みそのものを大胆に議論した意義は、まず大きな成果と言って良いだろう。

次に、各構成員の所属団体等の主張を一本化し、「障害者就労センター」と「デイアクティビティセンター」という新たな機能に集約したことも、特筆されるべきと考える。確かに「障害者就労センター」でいかに「適切な仕事を安定的に確保する」のかといった詳細はまだこれからであるが、そのことが次の成果につながってくる。

それは、試行事業(パイロット・スタディ)を提案していることである。チーム会議では、賃金補填や優先発注の仕組み等が議論になったが、机上ではなく、実際に試して、その上で新たなシステムを検討しようということになった。

〈課題について〉

成果とも重なるが、最優先課題は、試行事業をどのように行っていくのかを検討する機関を早急に設置することだろう。この点、平成23年9月26日の推進会議にチームから緊急要望書が提出された。要望書では、改正障害者基本法において、初めて「多様な就業機会の確保とそのための調査・研究」が規定されたことの意義にも触れている

次に、「なお、現行の就労移行支援事業についてはその成果と課題を検証した上で、一般就労への支援のあり方について関係者の意見を十分に踏まえつつ検討する」との文章に集約されているように、今回、あまり時間が取れなかった一般就労支援のあり方を検証していくことがある。また、「障害者就労センター」「デイアクティビティセンター」構想へ、自立支援法のA型、B型等をいかに混乱なく移行していくのかという問題も重要である。

このように課題は山積しているが、今回の論議の根本にもう一度立ち返りたい。「一般就労と福祉的就労の谷間を埋める」「福祉的就労への労働法規をいかに適用するか」という課題は、そうそう簡単に解決できる問題ではない。しかし、だからこそ、3年の試行期間を経て、具体の方策を見出していくことが、不可欠と考えるものである。

(くりはらひさし 財団法人箕面市障害者事業団常務理事兼事務局長/箕面市市長政策室参与)