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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

障害者政策委員会に期待すること

「障害者政策委員会」に期待する
―真の当事者参加に向けて

小澤温

1 はじめに

障害者基本法の改正(以下、改正法とする)をめぐって、障がい者制度改革推進会議の「障害者制度改革の推進のための第2次意見書」(2010年12月)(以下、第2次意見書とする)と実際に成立した改正法との間には、第2次意見書にみられる障害者に対する積極的な権利保障という観点からみると表現的にかなりの開きがあるという批判がある。しかし、少なくとも改正法は障害者権利条約の批准を意識したわが国で初めての法律であり、この法の成立により、これまでのわが国の障害者福祉の考え方を大きく変える可能性は高いと思われる。そのためには、今回の改正法で新たに定められた内閣府に設置される「障害者政策委員会」(以下、政策委員会とする)の果たす役割は障害者の権利保障の推進の点できわめて重要である。

本稿では、政策委員会の果たす役割、委員構成、当事者参加の方法の3点を考察し、真の当事者参加に向けての検討の一助となることを目的とする。

2 政策委員会の果たす役割

政策委員会の役割は、改正法によれば、1.障害者基本計画策定にあたって意見を述べること、2.障害者基本計画策定にあたって調査審議を行うこと、3.障害者基本計画の実施状況の監視、の3点が記載されている。

1に関しては、第2次意見書では、「障害者及び関係者の参画を得て」障害者基本計画を策定すること、としており、障害者基本計画策定の過程に政策委員会の関与が明確になっている。改正法では「内閣総理大臣は関係行政機関の長と協議するとともに、政策委員会の意見を聴いて」策定することになっている。「協議する」と「意見を聴く」とでは、障害者基本計画策定の関与(政策委員会の参加)の度合いは相当な差があると考える。

そこで、政策委員会には、2にある「調査審議」権(第32条第2項の2)と第34条を有効に活用して、計画策定過程の資料とデータの提出を求め、計画の根拠となるデータの(行政とは別の)再検討、を実施して、真の参加を遂行することを期待したい。

3に関しては、「障害者基本計画の実施状況を監視し、必要があると認めるときは、内閣総理大臣又は関係各大臣に勧告する」とあり、「勧告」というこれまでの法になかった強い権限の表現が使用されていることは、政策委員会の権限強化の点で大きな前進であると考える。

3 政策委員会の委員構成

改正法では、委員構成は、障害者、事業者、学識経験者のうちから内閣総理大臣が任命するとしている。第2次意見書では、「障害当事者、学識経験者等で構成し、障害当事者が過半数を占める」としており、相当な違いが存在している。大きな違いは、事業者が入ったことと当事者が過半数を占めることが削除されたことの2点である。この違いは、改正法における政策委員会の性格に関する根本的な違いがあると思われる。

第2次意見書では、当事者(サービス消費者)主権という思想が色濃く反映している。一般的に、障害者福祉では、行政、事業者、当事者の3者関係は対等ではなく、情報量、政治力を考えると、行政と事業者のパワーは圧倒的であり、当事者の立場は非常に弱いことが言われている。そのため、当事者に一定程度の力を付与することによってかろうじて対等性が保たれることになる。第2次意見書はまさに当事者主権(消費者主権)の価値観によるわが国のこれまでの障害者福祉政策の根底を変える大胆な提案であり、抜本的改正にふさわしい内容である。他方、事業者が入らない議論は非現実であり、現実のサービスの推進はできないのではないかという現実主義(現実からの段階的な進展を目指す)的な意見もあり、改正法は結果的には後者の考えを反映したと思われる。

障害者権利条約の大きな流れから考えると、今後の方向性としては、第2次意見書にあるような改革が望まれるが、現実的には時期尚早ということもあり、次回の改正に、価値観の転換を期待したい。

4 当事者参加の方法

ここでは、推進会議・総合福祉部会における筆者の経験から、特に、知的障害者の参加に焦点を絞って検討する。総合福祉部会においては、原則、すべての事前配布資料にはルビを振り、会議の際には支援者を付け、会議の際の発言、説明で、理解しにくい場合はイエローカードを示して、分かりやすい説明を求めるなどの工夫がみられた点は従来の会議よりも格段に当事者参加を意識していた。

その後、筆者は総合福祉部会に参加していた知的障害の当事者と一緒に障害者施設の入所者実態調査を推進し、知的障害者にも分かりやすい調査票や調査ツールの開発を検討している。その際、当事者は、総合福祉部会の会議に関して、資料の読みにくさ、議論の分かりにくさ、知的障害の当事者としての発言のしづらさ、などの問題点を指摘していた。

このことから今後の改善に関しては、以下の3点を提案したい。1.会議資料の文章は短く、単語が平易で簡潔であること。2.会議資料はできれば絵、イラストで表現すること。3.議論を理解するのに支援者による平易な言葉への翻訳の時間がかかるので、話題が変わるような議論の間では時間を十分とること。

ただし、これはあくまで、一案であって、現実の会議でこのような取り組みが可能かどうかはさらに検討しないといけない。当事者参加(知的障害に限らないすべての当事者)の方法に関しては、事前に当事者団体や政策委員会の当事者委員(予定者)からどのような方法が一番望ましいのかについて十分意見を聴いた上で会議を運営することを要望したい。

(おざわあつし 筑波大学教授)