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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

障害者政策委員会に期待すること

実情と条約に即した推進体制を望む

桐原尚之

1 はじめに

この間、障害者権利条約(以下、条約)の批准に向けた国内法整備として、障害者制度改革が行われてきた。2011年8月5日、障害者制度改革の目玉であった改正障害者基本法が施行された。改正障害者基本法の第32条以後には、障害者政策委員会が規定されている。改正障害者基本法の成立過程には、政府・民主党が障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)を軽視するような場面もあった。それでも、最後の砦として死守したのが、障害者政策委員会を含む推進体制の規定であったように思う。何かと思い入れの深いものとなった障害者政策委員会だが、どうあるべきかについて、私の考えを述べていきたいと思う。

2 障害者団体の参画と推進会議との連続性

条約4条3項には、障害者団体の政策への関与が規定されている。そのため、委員の過半数以上が障害者団体の代表者であるべきと考える。この間の推進会議の議論は、私たち障害者の悲痛の叫びからなるもので、非常に内容の深いものばかりであった。これまで、障害者の生活を左右する法律であるにもかかわらず、障害のない世間の声による提言が盛り込まれ、障害者は沈黙を強いられてきた。この沈黙を破らない限り、障害者のための実情に配慮した質の高い法体制を得る事はむずかしい(Tina & Amita,2006:2)。

実情を取り入れた施策の推進に当たって、推進会議の構成員が、障害者政策委員になるべきと考える。施策の策定と施策の推進には、連続性がなければならない。仮に、施策を進める段階になって、メンバーが入れ替わるようなことがあれば、連続性は失われ、これまでの議論も参考までに過ぎないものとなってしまう。構成員を障害者政策委員とし、引き続き、条約の国内履行に向けた議論を展開してほしい。

3 監視と勧告、議論の進め方

中央障害者施策推進協議会から障害者政策委員会に改正されて、新たに「監視」「勧告」等が規定された。まず「監視」は、条約33条に規定する監視と同質のものでなければならない。すなわち、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)の「障害者権利条約モニタリング―人権モニターのための指針 専門職研修シリーズNo.17」に基づき、「監視」が行われるべきと考える。これは、都道府県や市町村の合議制の機関および審議会に対しても同じことがいえる。

次に「勧告」だが、施策を総合的に判断して勧告を出すというよりは、一人ひとりの障害者の生活に目を向けて、たった一人の差別事例であっても、場合によっては、省庁への勧告を出すという姿勢があっていいと思う。

4 地域格差

これまで、障害者のことを家族が代弁するような参画のあり方が目立ってきた。また、精神障害者の家族会の代表者が精神障害当事者の代弁をしていて、かつ、精神障害当事者の団体と異なる見解を示した場合、家族会の意見が優先的に政策に取り入れられるような場面もあった。あくまで、家族会は家族の立場から主張すべきであり、精神障害の問題は、精神障害当事者の団体の意見が最優先されなければ、実情を踏まえたものになり得ない。

筆者の住む青森市では、2011年8月24日、障害者支援課長らが「精神障害当事者を市町村の合議制の機関・審議会の委員に採用する予定は今のところない。精神障害については家族会の代表者を採用する予定」などと発言した。いまだ、精神障害者や知的障害者の委員採用に抵抗のある自治体は多いのかもしれない。こうした場合、地域の精神障害者団体だけでは、精神障害のある委員を採用させることが難しい。すると、中央の障害者団体との協力が不可欠となる。日本障害フォーラムは、「地域のことは地域で」を基本としているが、協力を要する地域への積極的な協力もしていく必要があるだろう。

5 私が取り組む課題

普段、私は、精神病院から何らかの理由で退院できない仲間の退院支援活動をしている。2003年、厚生労働省は、7万2千人の社会的入院患者の退院を掲げたが、一向に進んでいない。退院が進まない理由だが、一般に言われる社会資源の不足というより、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下、精福法)の手続きが退院を難しくしているのだと活動を通じて分かった。

精福法は、条約に反している。こうした、条約に反する法律の改廃についても継続的な議論が不可欠であり、障害者政策委員会による所轄庁への勧告が求められる。

障害者政策委員会は、障害者基本法の枠組みのなかで動くことになる。なので、障害者基本法や障害者計画に明文化されていない事柄が取り扱われないような場面も想定される。しかし、障害者基本法を条約の履行という視座から読むことで、明文化されていないさまざまな実体を、解釈でもって運用することができる。条約履行こそが、第一義であるということを共通認識にさせていかなければならないし、そのための動きも同時並行で求められる。

6 何よりも障害者の運動との連帯

しかしながら、障害者政策委員会だけでは、条約の国内履行に向けた施策の推進も限界がある。最後は、その後ろに障害者の運動があって、初めて実情に即したものになるだろう。だから、筆者は「望む」のではなく、「望ましい」ものに向かって共に取り組んでいきたいと思う。

(きりはらなおゆき 全国「精神病」者集団運営委員、NPO法人青森ヒューマンライトリカバリー 理事長)


【参考文献】

Tina & Amita,2006,“First person stories on forced intervention and deprived of legal capacity”2(訳=桐原尚之, 2006,「イタリア保安処分体験者手記」全国「精神病」者集団:2)