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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

知的障害者の政策への参加と意思決定支援

柴田洋弥

知的障害者と意思決定支援

わが国では長らく知的障害者を「指導・訓練」の対象としてきたが、1980年代から本人の意思を尊重しようとするさまざまな動きがあり、1990年のILSMH(国際知的障害協会連盟)第10回大会(パリ大会)に5人の知的障害者が参加したことを契機として、知的障害者を権利主体として支援する機運が高まった。

それは三つの分野で進んだ。第一に知的障害の軽い人による当事者活動が各地で始まり、当事者向けの情報誌・紙が発行され、全国的な会議も開かれるようになった。第二に通所・入所施設等で、生活や社会参加活動の場面で利用者が選択し決定できるような支援を目指すようになった。第三に相談支援や福祉サービス利用契約などにおいて、本人の選択と決定を尊重するようになった。

これらのどの分野においても、改正障害者基本法に明示された「意思決定支援」が丁寧に保障されるべきである。意思決定支援の過程では、本人の意思と支援者の意思が相互に深く影響しあう。知的障害者への「意思決定支援」とは、その人の根底にある願いを尊重しつつ、その人がよりよい意思決定をできるよう、その人との信頼関係に基づいて根気よく行われる専門的支援であり、支援者の意思の押し付けであってはならない。

1995年に全日本手をつなぐ育成会「本人活動支援基調セミナー」(注1)が開催され、以後、当事者活動支援のあり方についての研修が重ねられた。しかし、現在でも支援者の意思を知的障害者がそのまま語っているような場面があり、支援の専門性を高める必要がある。

知的障害者の会議参加への支援

さて、このような当事者活動を背景として、東京都では1990年代後半に、障害者施策推進協議会や障害者ケアマネジャー養成研修等に知的障害者が委員として参加するようになった。以後、知的障害者の参加する会議が増え、このたび国でも障がい者制度改革推進会議や総合福祉部会に知的障害者が構成員として加わった。今後は、障害者政策委員会等への知的障害者の参加をさらに進めるべきである。

知的障害者が会議に参加する時の意思決定支援について、知的障害者代表としてスウェーデンFUB(知的障害育成会)の理事に選ばれたオーケ・ヨハンソンは、1990年のILSMHパリ大会で「援助者と知的障害者とは良く知り合うことが必要だ。会議や委員会の前には議題について話し合い、援助者は難しい言葉を前もって説明しておく。本人がテーマからはずれた発言をする時は援助者が注意する。しかし本人が代表だということを忘れないことが大事だ。援助者が会議の間に本人に内容を説明することも大切だ。会議が終わった後は、2人でどんな話があったか、これからどんなことが必要かを話し合う。このような援助者がいなければ、我々知的障害者は会議に参加できない。また援助者を知的障害者が自分で選べることが大切だ。そのための権利を獲得しなければならない」と発言した(注2)。

FUBは、会議参加の意思決定支援者として「ハンドレーダレ」という制度を設けている。東京都知的障害者育成会も東京都の会議に参加する知的障害者に同様の支援者を派遣しているが、今後、このような支援者を公的な制度にしていく必要がある。

知的障害者が参加する会議では、参加者全員が発言や文章において分かりやすい表現にすること、ゆっくり話すこと、事前に分かりやすい資料を配布して検討する時間的ゆとりを設けることなどが必要である。

また会議中の知的障害者の発言に対して、その真意を他の参加者がきちんと理解する姿勢が必要である。総合福祉部会でそれがなされたとは言いがたい。「知的障害者も参加した」というアリバイ作りのための参加となってはならない。

支援者の会議参加も必要

政策を話し合う会議に、重い知的障害のある人は参加できない。会議に参加する知的障害者が重い知的障害のある人のことを十分に理解できるとは限らず、日常的な接触がなければ一般的にその代弁は困難である。「わたしたち抜きに私たちのことを決めないでほしい」というスローガンは万能ではない。

このような会議には、重い知的障害のある人の状況を総合的によく理解している支援者の立場の人の参加が不可欠である。家族代表の参加も、このような支援者としての参加として意義を有している。

さらに知的障害者代表として選ばれた委員が、自分と異なる環境の人を理解することにも困難が伴う。代表者が会議に参加するだけでなく、知的障害者の当事者活動の場に会議のメンバーが出向いて直接に意見を聞く場を設けることや、会議の経過を分かりやすい資料にして当事者活動で議論し、それを会議に反映させることも重要である。

知的障害者の会議参加は極めて重要ではあるが、そのあり方ついて今後、さらに検討を重ねる必要がある。

(しばたひろや NPO法人東京都発達障害支援協会副理事長)


注1)「本人活動への支援者の役割…本人活動支援者基調セミナー報告書」(全日本手をつなぐ育成会発行、1995年)

注2)「知的障害をもつ人の自己決定を支える…スウェーデン・ノーマリゼーションのあゆみ」(柴田洋弥・尾添和子著、大揚社発行、1994年)