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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

事業所運営への当事者参加
―すみれ会の取り組み

細川潮

今から40年前、北海道札幌市在住の4人の精神障害当事者が集まり、「精神障害者回復者クラブすみれ会」が誕生しました。当時は、一緒に食事をしたり、ウイスキー工場に見学に行ったりして親睦を深めていたようです。やがてメンバーも増え、細々と作業もするようになり、施設を構え、当事者が運営する「すみれ共同作業所」を設立しました。札幌市に働きかけ、補助金が下りることとなるに従い、施設の規模も大きくなっていきました。

私たちのモットーは「のん気、こん気、げん気」というものです。当事者が運営している組織らしい、決して無理をしないという姿勢が良く表れていると思います。このことから、当事者であるスタッフも、週に5日開所しているうち、1日休みをとっても良いことになっています。そして、「ひとりぼっちの精神障害者をなくそう」と現在まで活動を続けています。

その後、障害の重いメンバーのために、「すみれ第二共同作業所」を開設することになりました。第一作業所は、主にダンボールの箱折などの作業が中心で、第二作業所は、印刷物の製本作業がありますが、憩いの場としての役割が中心です。これらは、共同作業所が地域活動支援センターに代わった現在でも続いています。

活動の場は、札幌市全域、北海道全域までも広がっています。すみれ会が母体となり、「札幌市精神障害者回復者クラブ連合会」「北海道精神障害者回復者クラブ連合会」を設立しました。また、すみれ会は「障害者の生活と権利を守る北海道連絡協議会」に加わり、行政に精神障害者のことを理解してもらうために、また、生活向上のために、活動をしています。

今から5年前に「障害者自立支援法」が成立した後、すみれ会はNPO法人を取得し、2つの作業所もそれぞれ「地域活動支援センターすみれ第一、第二」と名称を変更しました。

運営についてですが、2つの施設には、それぞれメンバー、スタッフを交えたミーティングがあり、これを施設ごとの運営に生かしています。また、月に一度、第一、第二のスタッフ合同で「スタッフミーティング」を開き、各施設で出されたメンバーの意見などを反映して、月間の活動予定の原案を決めるほか、両施設やすみれ会からの会計報告、関連団体の活動報告がなされます。そして、これらを第一、第二の両施設のスタッフ、メンバー参加の「全体ミーティング」に提示して話し合います。

NPO法人すみれ会の細やかな運営は、主に不定期に開かれる常任理事会や、定期的に開かれる理事会(健常者の外部理事6人もこれに加わります)に委ねられます。これまで書いたさまざまなミーティングの意見を踏まえて話し合うのです。

また、健常者の外部理事の方々は、当事者同士で決めた事項が一般社会常識に即して、果たしてどうなのかを判断し、意見を述べてくれます。問題がある場合は、常任理事会でもう一度話し合います。そして、これらを受けて、年度初めにすみれ会総会を開くのです。

すみれ会の話し合いの特徴は、あくまで全員一致が原則です。決して少数意見を無視しません。もし、意見が割れた場合は、一致するまで原案を練り直します。

スタッフもメンバーも当事者とはいえ、40年間も続いてきたのは、決して、形式的ではない、スタッフとメンバーの、また、経験ある健常者の方々との信頼関係があるのだということをはっきりさせねばなりません。それは、援助するものと、援助されるものとの間にありがちな上下関係ではなく、同じ目線の、同じ仲間としての意識です。すみれ会のスタッフも、メンバーも皆がそれぞれに主役、皆が平等であるという気持ちが深いのです。

ですから、たとえ理事長、施設長と言えども独断で事を強引に決めたり、推し進めようとすると、メンバーや他のスタッフからものすごい反発の声が上がるのです。

しかし、こうしたすみれ会の運営にも課題はあります。それは、皆が主役、皆が平等であるという意識の悪い面が出る場合です。このため、運営が個人のわがままに振り回される危険性がついて回るのです(現にわがままが過ぎて退会したメンバーやスタッフもいました)。このために、会議の場が、個人攻撃の場となってしまいやすいのです。

また、当事者が中心という意識で物事を推し進めすぎると、果たして、決めたことや、主張していることが一般社会の中で、また、他の障害をもった方々との関係の中でどうなのかということや、それが広く社会の支持を得られることなのかという点が見えにくくなってしまうことも上げられます。これらは、当事者バッシングにつながっていく恐れがあります。

さまざまな課題をはらみながらも今日もすみれ会は活動しています。毎月発行しているすみれ会の会報「すみれ会便り」は、多くの精神障害当事者を励ます役割を果たしています。これからも、すみれ会は、精神障害当事者が互いに支え合う場として、また、次のステップへ踏み出すための「港」としてあり続けたいと思います。このためにも、精神障害当事者も、支援者の健常の方々も互いに「仲間」「同じ目線」で協力し合い、指摘しあうことが必要なのではないでしょうか。

(ほそかわうしお NPO法人すみれ会常任理事)