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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

1000字提言

ニュージーランド 2011 ラグビーW杯

木島英登

共に喜び、共に悲しむ。時には叫び、涙する。テレビでは味わえない臨場感。会場が一つになる瞬間がなんとも言えない。ところが車いすだと、この楽しみを得ることに少々苦労する。

スタジアムや劇場のバリアフリーは改善され、車いす席が設置されるようになったが、電話での別問い合わせでの購入がまだまだ多い。はっきり言って面倒である。とりわけ海外となると困ってしまう。本場でスポーツ観戦したい。劇場で鑑賞したい。世界イベントに参加したい。その夢へのハードルが最初から挫けてしまう。

ニュージーランド(NZ)ラグビー代表の試合を見るのが夢だった。W杯を見に行きたい。うれしいことに大会公式サイトに最初から車いす席の記述があった。それも重箱の隅のような場所でなく、分かりやすい場所に。前回のフランス大会は公式サイトに「車いす席は電話で問い合わせしてください」の1行のみだった。パリ在住の友人に問い合わせてもらったが明確な回答は得られず、試合会場でダフ屋から通常チケットを買い、ゲートで係員を説得して車いす席エリアに入った。スタンドは超満員だが、車いすの観戦者は10台ほど。100台ほど入れるのにもったいない。2002年日韓サッカーW杯も車いす席はあるのにガラガラだった。

NZは違った。海外からも車いす席の購入が可能で、用紙を記入して返送し、半年前の2月にチケットが届いた。これで不安なく旅行ができる。友人を誘い3試合を観戦した。移動はレンタカー。携帯用の手動装置をオートマチック車に装着して運転。ラグビー観戦以外は自由きままな旅。

座席に加え、もう一つ配慮がほしいのが、会場へのアクセス。移動不自由者(=障害者ではない)のアクセスに関する記述(専用駐車スペース)も公式サイトに明記されていた。私は外国人。NZの駐車許可書は持っていないが、お手製のステッカー(車いすマークに外国人旅行者と記述)を持参した。

ハミルトンでの試合。会場周りは交通規制や通行止めなので、専用駐車スペースへ入る道には警備員が厳しくチェックしていると思ったらだれもいない。素通りして、スタンドの裏へ。住宅街の路上が専用駐車スペースだが、そこにも警備員はいない。だれでも入れるが、不正な自動車はいなかった。

世界的イベントなのに、この緩さ、大らかさ。簡単で快適。それで何の問題もないのが素晴らしい。過度な優遇ではない気軽な配慮、人々のモラルの高さ。これこそ本当のノーマライゼーションである。

(きじまひでとう 車いすの旅人、バリアフリー研究所代表)


*世界100か国以上を訪問。
詳細はhttp://www.kijikiji.comで。