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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年1月号

列島縦断ネットワーキング【兵庫】

地域の声に応える「ほっとステーションぽてと」の取り組み

安福ひとみ

はじめに

就労継続支援B型事業所ほっとステーションぽてと(以下、ぽてと)は、平成15年に私が精神科病院に勤めていた時に、外来の患者さんたちと一緒に病院の中に喫茶店を作ったのが始まりです。そして、自分たちの集い働く場所を地域に作ったのは、障害者自立支援法が成立した平成17年でした。とにかく法人格を取らないと事業ができないということで、何も分からないままNPO法人の認可を受けるために定款を作りました。作業療法の一環のような法人作りでしたが、今はその目的の事業にかなっており、少しもぶれていないことを今さらながら実感しています。

特定非営利活動法人(NPO法人)ひやしんすの目的は、

1.障害者が自ら働く場である「喫茶店」を設立運営する(小規模作業所)。

2.地域の一般市民や高齢者・障害者への相談や生活支援などを行う。

事業誕生のきっかけ

ぽてとは、兵庫県神戸市北区の山間の静かな住宅街にあります。電車の駅から徒歩1分の「Cafeぽてと」という喫茶店が活動の拠点になっています。鉄道会社が40年ほど前に開発した小さな街で、現在は多くが高齢者世帯となっている地域です。

設立当時に借りたのは駅の裏の小さな物件でした。運営は本当に大変でしたが、みんなで壁紙を貼ったりペンキを塗ったりと、手作りで5か月かけて喫茶店の開店準備をしました。

日中、道を歩いている人のほとんどが高齢者で、杖をついている人や歩行車を押している人が多くいました。店の前は急な坂道だったのですが、休みながら登っていても喫茶店に立ち寄る人はほとんどいませんでした。暇だったので一人のお客さんとゆっくりお話しをしたり、自分たちの居場所にしてのんびりしていました。

そんな時にこの地域の自治会長さんが来店し、こんな相談を持ちかけられました。「ここは、若い人がどんどん出て行ってしもうて、年寄りばかりが残っとるんや。自治会が老人会になってしまっとる。何かしよう思ても役員の仕事が増える言うて反対されるんや。どなんしたらええやろか?ぽてとさん、一緒に頑張ってくれへんやろか?」

この言葉を聞いて、私はこれこそがぽてとの進む道や!と思い込み、ありがたく引き受けました。それから、ぽてとと自治会の共同企画で「さくら祭り」と「かたらい喫茶」が始まりました。

さくら祭り

この地域の真ん中あたりに美しい桜並木があります。自治会長さんはそこで住民が集うさくら祭りを開催したいと懇願していました。でも、企画するには、当然役員さんの協力が必要となります。ただ役員さんにそれを望むと自治会が崩壊してしまうと危惧しての相談ですので、ぽてとがそれを全面的に引き受けることにしました。

1回目はどれくらいの人数が集まるのかが分からないために出店や景品などは、残っても大丈夫な物をぽてとで用意しました。当日は、ボランティアや学生などたくさんの人に協力してもらいました。結果は大盛況で、それ以降、毎年さくら祭りは行われており、年々参加する人や出店も増え、今では地域のほとんどの方が参加するという街一番の行事になっています。

かたらい喫茶

さくら祭りが始まった平成19年に自治会館が新築されました。その自治会館で、毎週土曜日に地域の方の交流の場として、かたらい喫茶ぽてとが始まりました。

かたらい喫茶は、イベントとして映画会や健康教室、音楽や体操を使ったレクリエーションなどを行い、お茶を飲みながら交流を深めるというもので、ぽてとと自治会が共同で企画をしました。現在では、地域のボランティアさんたちが喫茶を行うなど新たな展開があります。そして、それまで行っていたうたごえ喫茶やトールペイント教室、映画会などは現在、Cafeぽてとで継続して開いています。

宅配弁当サービス

かたらい喫茶で自治会の役員さんと仲良くなるにつれて、さらに地域のニーズが見えてきました。

Cafeぽてとのお客様たちのニーズはコーヒーよりもお昼ご飯でした。そこで、ぽてとでお昼の軽食に力を入れるようになりました。さらに、お店に来られない方にお昼を届けてほしいとの声があり配達できることをアピールし、平成20年4月から本格的に宅配弁当サービスを始めました。高齢者が多い地域での精神障害者が貢献できる仕事になることを期待しました。メンバーが急な対応に困らないように登録制にして、決まった方にサービスを行っています。サービスとは10分100円。ちょっとしたお手伝いで、買い物・草引きなどが好評です。

また登録時には、健康状態・緊急連絡先などを伺い、1日2回(配達時・回収時)の見守りが含まれていることから、家族の方が安心して留守にできるようになっています。

現在は20人ほどが登録しており、毎日利用している方や、家族が出かけるなど必要な時にだけ利用されている方もいます。配達の範囲はメンバーが歩いて行ける範囲と決めていますが、遠方の希望者も多くいます。最近はケアマネジャーからの紹介で利用希望者が増えてきており、多くは介護保険対象者でインフォーマルな資源として活用されています。

さくらホーム

この地域には、高齢化により人が住まなくなった住宅が多くあります。そこで、平成21年8月より街の中の空き家を借りて、さくらホーム(共同生活援助)を開設しました。4人定員で現在3人の精神障害のある方が住んでいます。その年の12月30日、小道を挟んだ向かいの住宅が全焼しました。一人暮らしのおじいさんが住んでおり、外出中の出火でした。年末のため、さくらホームの入居者は外泊中であり幸いだと私は思っていました。ところが、後日、入居者の一人の男性が、「もし家にいてたら手伝えたのに」と悔しがりました。その時に、おじいさんがさくらホームができた時に、「若い人がいてくれると頼もしい、明るくなっていいわ」と言ってくれたのを思い出しました。非難されることばかりを恐れていましたが、高齢化の進む地域でのグループホームの役割があることを感じました。

このことがきっかけで、おじいさんがさくらホームにお茶をしにきてくれるようになり、交流が始まりました。地域の方が頼りにしてくれるホームがこの街の中にたくさんできたら、だれもが安心して暮らせる住みやすい街に繋がっていくのではないかと思います。

終わりに

先日、宅配先のおばあちゃんから「ぽてとさんに出会えて、寝たきりの生活の中にまた頑張りたいという気持ちを持てるようになりました。ありがとう」というお手紙をいただきました。一般業者が行うサービスとは全く違い、障害をもっているメンバーだからこそ与えられる元気があると思います。今までたくさんの経験を積んできた高齢者にとって、サービスを受けながらも、障害のある方の自立に向けての手助けができる!そう思えることで感じられる優しい気持ちの表れではないかと思います。

高齢化の進むこの小さな街の中にもまだまだサービスを必要としている方がたくさんいると思います。ぽてとのできることは本当に小さなことですが、感謝の気持ちと安心をお届けすることで高齢者の豊かな人生を支援することができると感じています。そして、そのことによって夢を持つことをあきらめかけていた障害をもって生活しているメンバーが、社会の中で感謝され貢献することを再び喜びとし、尊厳を取り戻すことに役立っていると確信しています。

(やすふくひとみ 特定非営利活動法人ひやしんす作業療法士)