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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

障害女性の権利をめぐる日本の状況

DPI障害者権利擁護センター

DPI(障害者インターナショナル)障害者権利擁護センターは、1995年の設立以来、あらゆる障害(身体・知的・精神・難病等)をもつ人が受けた不当な扱い、本人や家族が抱える悩み・不満に対し、障害者自身が相談に乗ることにより、問題を当事者の立場から明らかにすること、自らの経験を生かし具体的な問題解決を図ることを目的として、東京都を中心に活動している。現在は5人(視覚障害・肢体不自由・慢性疾患)が従事し、そのうち障害女性相談員は3人である。

社会に女性差別が存在している現在、障害者が例外となることは、あり得ない。男性中心の社会の中で女性は二流市民、健常者中心の社会の中で障害者も二流市民。女性であって、障害があるのなら、その矛盾や困難は複合され、より深刻となり、解決もいっそう複雑になる。このような状況を、障害女性相談員の視点から紹介する。

1 2010年度における障害女性の相談内容

2010年度は全体で995件の相談があり、その相談内容は、就労9%、教育1%、自立支援法関連24%、暴力・虐待10%、移動・アクセス4%、住宅・財産管理20%、生活保護法関連5%、その他(入店拒否、書店・飲食店の接遇、障害年金等)27%であった。また、障害種別は、肢体不自由10%、視覚障害4%、聴覚障害3%、内部障害3%、精神障害48%、知的障害15%、不明・その他(手帳なし、難病等)17%であった。

図1 2010年度相談内容の内訳
円グラフ 2010年度相談内容の内訳拡大図・テキスト

このうち障害女性の相談内容の内訳は、就労0%、教育2%、自立支援法関連55%、暴力・虐待23%、移動・アクセス0%、住宅・財産管理2%、生活保護法関連7%、その他11%であった。また、障害種別は、肢体不自由4%、視覚障害8%、聴覚障害0%、内部障害4%、精神障害46%、知的障害15%、不明・その他(手帳なし、難病等)23%であった。

図2 2010年度障害種別の内訳
円グラフ 2010年度障害種別の内訳拡大図・テキスト

全体との比較で、障害女性の相談内容は自立支援法関連が約半数を占め、暴力・虐待の割合も高くなっている。自立支援法関連では時間数などの決定内容への不服よりも、介助者や事業者に関する不服が多く、障害女性のニーズを相談支援事業で対応しきれていない状況が考えられる。暴力・虐待では緊急性の高い相談は少なく、本人が加害者へ直接訴えるための文書作りなどの要望が多かった。施設の場合は、家族や友人からの通報が多かった。

図3 2010年度障害女性の相談内容の内訳
円グラフ 2010年度障害女性の相談内容の内訳拡大図・テキスト

一方、就労と移動・アクセスの相談は0件であった。これは障害女性の社会参加が進まない状況が考えられる。障害種別の割合は全体とほぼ同じであるため、図は省略した。

2 厚生関係施設のバリアフリーについて

特別区人事・厚生事務組合は、東京23区(特別区)が共同で処理する事務を行う特別地方公共団体である。生活保護法に基づき、生活上の支援を必要とする人が一定期間入所する「更生施設」、住居のない要保護者の世帯へ住宅扶助を行うことを目的とする「宿所提供施設」、社会福祉法に基づき、生活困窮者のために安価な使用料で住居を提供することを目的とする「宿泊所」の設置、運営管理を行っている。ここに設置されたバックアップセンターは、東京23区の福祉事務所と連携しながら各施設の入居調整を行っている。要するに何らかの事情で行き場をなくした人が、地域生活に移るまでの間、利用できる施設である。

2010年度、当センターでは避難などの緊急対応を要する相談はなかったが、社会資源を把握しておく必要はある。先日、これら施設のバリアフリー状況を問い合わせたところ、「フローリングで浴室も段差のない部屋は6部屋ある。ただし、エレベーターが狭い、ベランダや非常出口に段差があるなど、車いすで移動できない箇所があり、厳密にはバリアフリールームとは言えず、『バリアフリー対応』と呼んでいる」とのことだった。また、「バリアフリーを必要とする人を待っていてもなかなか埋まらず、その必要がない人も入っているため、空き室がない状況だ」という説明もあった。

なぜ「バリアフリーを必要とする人を待っていてもなかなか埋まらない」のか。障害者は家庭内で暴力を受けたり、家賃滞納などで生活に困窮したりすることがないのだろうか。

以前、ある自立生活センターから女性障害者を紹介されたことがある。その人は家庭のトラブルで家を出たが行き場がなくなり、自立生活体験室へ緊急的に避難していた。相談員は福祉事務所への相談を提案したが、その人にはそもそも福祉事務所へ相談するという発想がなかった。

障害者は、心身の機能障害に応じた環境が保障されていなければ逃げることもできない。たとえ厚生関係施設等に入れたとしても、地域生活を始めるためにはさまざまな制約があり、バリアフリーや介助、情報保障等がなければ障壁があり続ける。このような壁を前に、相談することさえあきらめざるを得ない障害女性がいることは、簡単に想像できる。

当センターに寄せられる相談は、個人がその時点で被っている問題に取り組むもので、一つ一つの解決は容易ではない。そして次の新たな相談が…。というように事例に追いかけられる。事例検討の中から、普遍的な背景や課題を見いだすことはあっても、次の段階まで発展させることは、個別の権利侵害に対応するというセンターの役割から言っても限界がある。他の団体とのつながりの中で解決を目指し、背景や課題を共有し、運動に委ねざるを得ない状況がある。

3 相談事例の紹介

「1」で紹介したように、障害女性の相談は自立支援法関連が半数を占め、一見性別に関係する問題は少ない。ただし、経過の中で性別に直結する問題が見えてくることがある。そのような状況について、本人の了承の上、一つの事例を紹介する。

Aさんは重度訪問介護で一人暮らしをしている。ある日、事業者から人員不足を理由に解約を告げられたが、納得できる説明や他社への引き継ぎの説明もなかった。これまで事業者の対応に不満や疑問がある時、Aさんは区の担当者へ相談していたが、事情を詳しく聞かないまま事業者の側に立った対応をされることがあると感じていたため当センターへ相談した。

強引に解約される可能性があったので相談員は話し合いの場を設け、区の担当者も同席した。その結果、事業者はAさんへ派遣できる介助者名と時間帯を報告するとともに、人員不足でどうしても派遣できない時間帯があることと、苦情について、Aさんの言い分を聞き取らなかったことを謝罪した。

派遣できる介助者には男性が多く含まれていたため、他の事業者が見つかるまでの間、Aさんは女性の介助者が派遣される時間に合わせて生活パターンを調整することにした。重度訪問介護で契約できる事業者探しは難航したが、その後、契約できたという報告を受けて、相談を終了した。【相談日数:100日】

この事例には重度訪問介護の契約の難しさや相談支援事業が機能していないという問題がある。その裏で、相談員はAさんが男性の介助者にトイレ介助を受ける場面に遭遇した。嫌だが、どうしても女性の介助者がいない時には選択の余地がないとのことだった。

相談として訴えたことが解決しても、Aさんには同性の介助者が派遣される時間帯に合わせて生活せざるを得ないという負担がかかり、その上でも解決されない苦しみがあった。

障害者の権利侵害は、現在の社会の中で、多様な場面で多く発生している。支援制度の不備や、障害者に対する無知や偏見が根強く深刻なため、障害故の問題解決に、まず注目し対応する。そのため、男女別の課題にまで、焦点を当て掘り下げるに至らない。

後にAさんはこのことについて「女性の一人暮らしは、関係者から軽微に扱われやすく、今回のようなことになりやすいと思う。もし家族に男性がいたらどうだったか。女性の障害者、一人暮らしゆえに、起きたと感じている。女性一人が自立生活をしていく上で、介助を得ることはライフラインであり、女性であることが、そのライフラインを得ることが困難となりやすい社会ならば、さらなる『障害』が増え、自立を困難とさせてしまう。女性が弱者となりやすい社会の中で、女性が障害をもった場合、命に関わるレベルのもっと深刻な問題を生み、生きづらくしてしまい、そういう問題を生む社会のあり方にも問題があり、そうなった時の解決策や、そうならないための支援が必要だ」と語った。

4 公的な相談窓口について

深刻な悩みがあったとしても、たとえば性被害に関わることは他者に言いにくい、情報が少ないため、どこへ相談したらよいか分からないという場合もあるだろう。

思い切って女性相談にたどり着いても、相談員の障害に対する理解が不十分な場合、適切な対応が受けられない。「障害者の問題だから」と、障害者の分野に戻され、適切な女性相談を受けられないばかりか、不利益を被ったという事例を聞いたことがある。さらに、相談や保護施設のハード・情報等のバリアフルな現状により、障害女性がアクセスできないこともあるのだ。

終わりに

「女性はこうあるもの」という意識は、男女ともに成長の過程で自然に刷り込まれていく。そのため女性差別は見えにくい。障害女性自身、その価値を内面化してしまい、期待される女性役割を担うことが困難であり、性のない存在とみなされ不利益を受けていたとしても、自分を責め、他者による差別や侵害と気づかないこともあるのではないだろうか。

相談を進めるうちに、過去に家族やパートナーから暴力を受けていたことが分かったり、そのことが原因で障害女性相談員を希望されたりすることがある。この原稿を書くにあたって、そのような事例を紹介することも検討したが、了承は得られなかった。

障害女性の問題は埋もれ隠れている。社会的な認知は低く、当事者自身、声を発することが少ない。周囲が気づいたとしても、個人の秘密として表面化されない。表面に出ないということは、決して問題がないということではないのだ。

解決には障害者施策と女性施策の横断的な取り組みが必要であり、施策の制定や実施に際しては、表面化されにくい状況を踏まえ、障害のある女性の困難さを重点課題として位置づける必要があるだろう。

2011年8月に施行された改正障害者基本法の中に、「女性」という言葉は出ていない。障害者権利条約が第6条「障害のある女性」を設けたことを真摯に受け止め、政府の積極的に施策を進める姿勢が求められている。