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「ノーマライゼーション 障害者の福祉」 2012年2月号

1000字提言

ウォール街デモの意味するもの

堤未果

2011年10月16日。マンハッタンのズコッティ広場に数十人の障碍者グループが集まった。車椅子の上に掲げられたプラカードに書かれているのは、ウォール街デモで一番多く目につくメッセージだ。〈私たちは選択肢が欲しい〉

脚に障害をもちながら、1か月前ワシントンDCの大規模デモにも参加したというデニス・フィッシャーは、ウォール街デモは単なる「若者の反格差運動」ではないと言う。「これは1%のスーパーリッチが、他の99%の選択肢を奪っている今のシステムへの抗議なんです」

デニスが言う「システム」とは米国中心の経済グローバリゼーションだ。国家間の平等を約束するはずの「自由貿易」は、富裕層と貧困層の二極化を招き、合法的に国や地域の自治権を奪うことに利用されている。今や資本独裁国家と化したアメリカで、「市民」ではなく「消費者」として扱われる国民。人間は一人ひとり顔のある個人ではなく、「数」や「モノ」にしてしまえばもっとも効率よく利益を上げられる。そんな企業論理が政治までものみこみ、国の向かう方向性を決めてしまっているのがアメリカだ。グローバル資本はいまや空前の収益を上げ、格差と貧困はかつてないほどに膨れあがっている。弱いものは搾取されるだけでなく排除され沈黙させられてしまう。だからこそ違うグループ同士が連携する必要があるのだとデニスは語る。

「グローバル化と規制緩和は津波のように、障碍者を守る国内法を切り崩してきます。日本で問題になっているTPPも同じ線上にありますね。自分たちの要求だけ掲げていては間に合いません。世界中の若者や女性、高齢者や失業者、非正規社員やワーキングプア正社員と、立場を越えて手をつながなければ」

インターネットは米国民に力を与えた。彼らと同様、コーポラティズム(政治と資本の癒着)による支配に苦しむ人たちが世界中にいることを知らせたのだ。ウォール街デモが他国にまで呼びかけられた理由はそこにある。「私たち障碍者は、生きる上での選択肢を求めて辛抱強く体制と闘ってきた歴史と実績を持っています。長い間不可能だと思われていたADA法(障碍者保護法)を成立させた経験から得たものは、決してあきらめないこと。そしてこちら側を分断させないことです」「世界との連帯で、何を目指したいですか?」デニスの答えはそっくりそのまま、今の日本にも当てはまる。「多様性を認める、直接的民主主義ですね。そのためには国境を越えた情報の共有と連帯が必要です。民主主義は市場の見えざる手ではなく、本物の手によって作られるのですから」

(つつみみか ジャーナリスト)